「八つ」のネタバレ感想と考察【強迫性障害のリアルを描く作品】

本記事は、映画「八つ」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。

鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。

「八つ」

2017年ピーターブラックバーン監督により制作されたドラマ映画

海外でのタイトルが「eight」なので、邦題は「八つ」となる。

上映時間は81分。

あらすじ

「強迫性障害」「広場恐怖症」を患う1人の女性、サラ。

2年間もの間、家に引きこもり続ける彼女は今日、新たな一歩を踏み出そうとしていた。

それは「ドアを開けて外に出ること」

彼女は一歩を踏み出すことができるのか?

ネタバレあらすじ

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「強迫性障害」「広場恐怖症」を患うサラは朝、目が覚める。ベットから起き上がり。スリッパを履くが、まるで儀式かのように、
片方のスリッパの上下左右をつま先でつついてから履き、
全く同じ動作をもう片方のスリッパでも行う。起きたサラはトイレに入る。
トイレットペーパーをミシン目に沿ってきれいに切り取る。
そして8回折りたたむ。
消臭スプレーを8回噴射する。
入念に手を8回洗う。
そして8回手の水をはじく。
サラの手は洗いすぎでひどく荒れていた。サラはすべての動作を8回行わなければ落ち着かない、
「8」という数字に取りつかれた「強迫性障害」であった。シャワーを浴び、各箇所を8回ずつこする。
体もボロボロであるが、
痛みに嗚咽しながら、それでも8回こする。

次はベッドのシーツを取り換える。
新品のシーツが山のように積まれた棚から一枚取り出す。
シーツの取り換えが毎日のルーティーンのようだ。
しかし取りかえたシーツにはわずかにシワが寄っていた。
先ほど取り換えたばかりのシーツを引きはがし、再度新しいシーツを張る。

電話が鳴る。女の人の声で鳴り出す。
「おはようサラ。もうベッドの準備はできているはずよ?」

サラは歯磨きを始める。無論、各箇所8回ずつ磨く。
今度は洗面台の汚れが気になる。
ゴム手袋を付けようとするが、破れてしまいなかなかうまくつけられない。
ようやくゴム手袋をつけて、洗面台をブラシで8回ずつこする。
ついでにシャワー室の掃除も始める。
シャワー室の掃除が終わると、また洗面台の掃除を始める。
よくよく見ると、部屋中に文字が書いてある便せんが張られていた。

洗面台の掃除が終わると、またシャワーを浴びる。
シャワー室で痛みに悶えるサラが描写される。
一度シャワーを終わろうとするが、嗚咽し、またシャワーを浴び始める。
泣きながらシャワーを浴びる。

シャワーを浴び終えると電話が鳴る。
今度は子供の声である。
「お母さん?会いたい!お願い!出て!」
そして電話は切れてしまう。
恐る恐る電話に近づき、ボタンを8回押す。
子供の声をリピートしていると、電話が鳴る。
思わず受話器を取ると、先ほどの女性だった。
サラ「できないわ!」
女性「サラ、あなたならできる!」

電話を切ると子供部屋に行き、ベッドの上で泣く。

洗濯物を黒いビニール袋に詰める。
全てクリーニングに出すようだ。
下着を着用し、またもや手を8回洗う。

ペットボトルの飲料水を8回に分けてコップに注ぐ。
ペットボトルは冷蔵庫を8回開閉してからしまう。
全ての服がクリーニングされている棚から衣服を取り、着替える。

お湯を沸かし始めたところで家の外から子供の声が聞こえる。
「ママ?」
サラは玄関に行き、カギを8回開閉するも扉を開けることはできない。
「ここに来てはいけない、学校に行って、ママは元気じゃないの…」
ドア越しに夫の声も聞こえる。
「娘が会いたがってる」
サラは「頑張ってるの。理解して…。」と訴える。
夫は「ベルにはお母さんが必要なんだ」と言い返す。
そして夫は仕事に向かう。

玄関で泣き崩れるサラであったが、お湯の沸騰音を聞き台所に戻る。
そしておもむろに上着を脱ぎ棄て、シャワー室に向かおうとするが、
立ち止まる。
便せんに殴り書きを残しながら、
「何回もシャワーを浴びる必要はないの!」と叫ぶ。

服をまた着替えなおすと女性から催促の電話が鳴る。
「30分後に迎えに行く」

玄関で物音が鳴り、行ってみると宅急便であった。
扉を開けてのサインについての悶着があるが、
不在通知扱いにされる。
ゴム手袋をつけて不在通知表を取る。

サラは食事の準備を始める。
卵を割ろうとするが、8回叩くせいでなかなかうまく割れない。
結局、卵が割れないうちに女性が迎えに来る。
サラは女性を迎え入れる。
女性の名はジェニス。
手を差し出すジェニスであったが、サラは一瞬触ると手を引っ込めてしまう。
ジェニスは言う「ここまで来れたのは今日が初めてだわ、続きは明日にしましょう。」

家を去るジェニスであったが、サラは泣きながら速攻手を洗い始める。
2回目の手洗いの最中に、とどまり台所に張られた便せんを読む。
おもむろに玄関に向かう。今度は1回でカギを開ける。

外に出て、待っていたジェニスと握手を交わす。

ネタバレ感想と考察

強迫性障害について社会に投げる、映画の新しい形

本作のテーマともなる強迫性障害、この病気の症状をとてもリアルに切り取る今作、「映画として楽しんで視聴する」というよりは、「強迫性障害について社会に訴えかける」ようなドキュメンタリー要素が強い作品となる。

映画のタイトルにもなっている「八つ」の意味もなかなかに凝った脚本となっていて今作を観た人だけが、本作の世界観を感じ取れる作風となっているだろう。

リアリティを追求した構成、カットとカメラワーク

この映画、最初から最後までワンカット(編集ナシ)で撮られている。

朝起きてからの日常の時間経過も限りなくリアルなので、そこも相まって今作の雰囲気を作り上げる。

「強迫性障害」を患う人の日常、朝起きること、朝ごはんを食べること、シャワーを浴びること、ベッドメイキングまでもがリアルに展開される。

その生々しさに目を瞑りたくなる人も多いだろう。

ワンカットの1時間20分間、一軒の家の中で物語は進む。

その全てが「サラが外に出れるかどうか」を目的に、サラと強迫性障害との戦いを描く。

一歩間違えればホラー映画と捉える視聴者が居てもおかしくない映画の雰囲気、そしてサラの行動が病気をよりリアルに描いている。




リアルすぎるサラの演技

今作は「強迫性障害」「広場恐怖症」を患う一人の女性を描いた作品である。

・強迫性障害
 不合理な行為や思考を自分の意に反して反復してしまう精神障害の一種
 同じ行為を繰り返してしまう「強迫行為」と、
 同じ思考を繰り返してしまう「強迫観念」からなる。
・広場恐怖症
 公共交通機関や、
 あるいは広い場所や閉ざされた場所を避けていることが6か月以上持続している、
 不安障害に含まれる精神障害。

皆さんの想像通り、タイトルとなる「八つ」強迫性障害の症状であり、サラの場合は「8」という数字に取りつかれた症状である。

今作は一本を通してワンカットの映画で撮られ、症状のリアルを描いた作品である。

今作を鑑賞して、とにかく感じたことはサラの演技がリアルすぎることであった。

息遣いや嗚咽、泣きながらシャワーを浴びたり手を洗ったりするシーンは、思わず目を背けたくなるほどにリアルで、夫はおろか、可愛い娘すらも触ることができない精神病がこの世にあることを、深く理解できる作品となった。

不気味さの正体は照明と音楽

今作の初めて鑑賞して10分程度、これはホラー映画なのでは?と感じた人は多かったはずだ。

その根本となるのは病気の症状やサラの演技でもあるが、照明と音楽の効果が大きいと感じた。

作中に一度も照明らしい照明もなく、薄暗い室内で物語は進み、不安を煽るような音楽は、サラの鼓動に比例するようにだんだんと大きくなる。

この映像や音楽を担当した人は、確実にホラー映画を撮る実力があるだろうと感じざるを得ない。

そんな今作も最後は外に出て、一歩を踏み出すことができるが、室内が暗すぎて、外の明るさが眩しく感じてしまう。

そんな外の光を引き立たせるために、あえて暗い部屋で物語を進めたのであれば、これほど策士な映画監督は多くは居ないだろう。

最も、一番怖いのはこのような人々が「実在」していることであるが…。

「強迫性障害」との闘い、刺さる人には刺さる映画だろう。