本記事は、映画「呪詛」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。
「呪詛」
2022年、ケヴィン・コー監督によって制作された作品。
「台湾史上最も怖いホラー映画」の呼び声高い作品で、Netflix限定配信となっている。
上映時間は111分。
あらすじ
舞台は台湾。
とある女性がカメラの前で語り始める。
彼女の名前は「リー・ルオナン」
彼女は6年前、とある集落で「禁忌を犯してしまったこと」、そしてそれに関わった人間に不幸が訪れたことを語る…。
そしてルオナンは、その呪いを薄めるために「この動画の視聴者」にも協力を仰ぐ…。
出演役者
本作の主人公リー・ルオナンを演じるのが「ツァイ・ガンユエン」
台湾の女優であるが、女優業にとどまらず、舞台などの演劇関係全般で活躍した女優。
InstagramやFacebookなどのSNSの活動も積極的であり、ハンドルネームとして「爆花」の名前も有名である。
娘のドゥオドゥオを演じるのが「ホアン・シンティン」
台湾の子役。
ドゥオドゥオの里親であったチーミンを演じるのが「ガオ・インシュエン」
あまり日本ではあまり有名な俳優ではないようだ…。
配信コンテンツ
「呪詛」は今現在、Netflix、等で配信されている。
ネタバレ感想と考察
「台湾史上最も怖いホラー!!」気になる映画の描かれ方は…!?
台湾史上最も怖いホラーとも呼ばれた本作であるが、この作品が「台湾最恐ホラー」として呼ばれた理由は大きく2つあると考える。
まず1つ目が、本作が「POV方式」で描かれた作品であることだろう。
主人公視線と、カメラの視線を一致させたカメラワーク。主観ショットとも言う。
本作で描かれるホラーのきっかけとなるのが「7年前に犯したルオナンの誤ち」であるが、この諸悪の根源は、彼女が以前にメンバーであった「心霊YouTuber」としての活動から起因する。
カメラに語り掛ける現在の記録、そして過去の撮影動画など、映像の殆どが「カメラ映像」であることが、本作のリアルな恐怖を引き立てる何よりの特徴となるだろう。
そして2つ目、それは「鑑賞者参加型ホラー映画」であったことだ。
ここに来て物語の最大のネタバレを含む要素を考察することとなる。
この作品は、ルオナン自身が映画の冒頭で「この動画を見ている人」に語り掛けるシーンで幕を開ける。
その内容は至ってシンプル。
「呪いの効果を薄めるために皆も呪文を唱えてほしい」という要望であった。
しかし物語の結末、この呪文の本当の意味が明らかとなる…。
それは「呪文を唱えた人々にも呪いが伝染していく」というプロットとなっていたのだ。
映画鑑賞のメリットでもある「画面越しの安心感」、これをブチ破る恐ろしさはメタ的恐ろしさとなって、よりリアルに鑑賞者の心に残ることとなる…。
それもそのはず。
ルオナンの呼びかける相手は「この動画を観ている人」であり、つまりは「この映画の鑑賞者」もしっかりと該当しているのだから…。
「呪いの伝染」と聞くと、まず思い当たるのがジャパニーズホラーの代表作となる1998年「リング」である。
こちらでは「呪いのビデオ」によって呪いが伝染していく脚本となっていたが、本作では「YouTube動画」である。
「リング」などのジャパニーズホラーに影響されリスペクトしつつも、時代は移り変わっていくとしみじみもする…。笑
ちなみにではあるが、やはり「ホラー×POV方式」の組み合わせはかなり相性が良いようで、「パラノーマル・アクティビティ」などを代表として、数多くの作品が存在する。
中でも2013年に公開された「武器人間」は、革新的なスプラッターPOV作品として色褪せない筆者のお気に入りとして確立している。
興味がある人は是非とも観てみてほしい。
まだまだある!?本作が最恐ホラーな理由!!
前述したように、本作の大きなホラー要素を二つ挙げてみたが、実はまだまだホラーな要素は尽きない。
本作は「グロテスクな要素」そして「虫」などの描写も描かれてしまうのが更なる恐怖を掻き立てる要因となっている。
本作で受ける「呪い」とは一体どんなものなのか?
その内容こそが恐怖の核となっているが、形は様々であれ、まずは「蚕のような虫」が身の回りに纏わり付く。
「虫嫌いな人」の中でもワーム系の虫に嫌悪感を抱く鑑賞者も多かったことだろう。
そして呪いを受けた人物の皮膚が「ボツボツの蓮画」のように爛(ただ)れるのも苦手な人が多い。
ホラーに加え「グロテスクな要素」、そして集合体恐怖症の人までも引き込み、視覚的な表現に踏み切る大胆さこそが大きな働きをしているのだ。
「ホラー」が大丈夫でも「虫」、
「虫」が大丈夫でも「ボツボツの蓮」、
鑑賞者の耐性を振るいに掛けていくかのような演出からは、コー監督の「性格の悪さ」すらも伺えてしまう…。
「大黒仏母」とは一体何だったのか?
本作の呪いの全ては、この「大黒仏母」の呪いであることが映画の全ての要素からわかるように作られているが、一体この「大黒仏母」とは何なのか?
実はこちらは実在する仏様ではなく、あくまで作中で創作された神様である。
台湾の仏教を辿っても「大黒仏母」なるものは存在していない。
もちろん、モデルとなった仏があるわけであるが、ここで出てくるのが七福神の「大黒天」と、「鬼子母神」の存在だろう。
まずは「鬼子母神」
こちらは仏教における善女神であり、日本では安産、そして子育ての神として祀られている。
ついではお馴染み「大黒天」
こちらは七福神の一人で、打出の小槌を持った富の神としても有名である。
ここで注目したいのが「鬼子母神」の境遇についてだ。
鬼子母神は「性質邪悪で、常に他人の子どもを殺して食べたため、仏に誓いを立てて神となった。」という逸話がある。
呪文を唱えた人間を、例外なく呪いにかけるプロットはどこか通づる物がある気もする…。
そして「大黒天」である。
大黒天の起源は、実はヒンドゥー教の破壊神、シバである。
そして「腕が4本ある。」との記述もあった…。
作中の大黒母神にも複数の腕があり、これは作中の母神の描写からも明らかとなっている。
そして名前までもが「大黒」の一致から、大黒母神のモデルはこの二人の神であると考えるのも説としては十分に有り得るだろう。
「神」だけじゃない!?モデルとなった「事件」
実はこの作品、「神」だけではなく物語の脚本にもモデルがあるとも言われている。
こちらは2005年に台湾で実際におきた事件で、「6人の家族がそれぞれ『自分は神である』と主張し、お互いを攻撃する。」という事件だった。
なかなかのインパクトに度肝を抜かれるのも無理は無い…。
最初は「悪霊を取り払うための攻撃」であったが、最後はそれぞれが各々違う神を名乗り、「断食」を決行、我慢が出来なくなると、自身の糞尿を食していたようだ…。
結果、一家の長女の死亡によって事態は徐々に収束していくが、長女が亡くなっても尚、他の家族は「これは悪霊の仕業だ」と信じて疑わなかったようだ…。
医学的には「集団的妄想性障害」と謳われているが、事件の全貌はまだ明らかになっていない。
リアルの事件も映画も、とんでもない恐怖に陥れる内容であったが、何よりも本作を作りあげたケヴィン・コー監督の鬼才が恐ろしい。
「三部作」となることが決定しているので、次回作を楽しみに待ちたいと思う。
観る勇気がもし出れば…の話だが…。