ブランカとギター弾き【ネタバレありなし徹底考察】

本記事では、
前半で、映画紹介&見どころレビュー
後半で、ネタバレ解説&徹底考察を行います。

ブランカとギター弾き

2015年、長谷井宏紀監督により制作されたイタリア制作の映画。
日本人監督でありながら、イタリア映画として制作され、
更に長谷井監督は今作がデビュー作である。
フィリピンを舞台にした盲目の老人とストリートチルドレンを描いた映画。
上映時間は77分。

あらすじ

舞台はフィリピンのスラム街。
父が死去し、母親が蒸発したブランカはストリートチルドレンとして、
物乞いや盗みを働き、なんとか生計を立てていた。
そんなある日、盲目のホームレス「ピーター」と出会う。

ピーターはギターの弾き語りで得るチップにより生きていた。
ピーターと行動を共にするブランカはある日、
「3万ペソで母親を買います」というチラシを貼る…。

 出演役者

今作の主人公、ブランカを演じるのは「サイデル・ガブテロ」

 

今作のもう一人の主人公、ピーターを演じるのが「ピーター・ミラリ」

 

ストリートチルドレンの仲間、セバスチャンを演じたのが「ジョマル・ビスヨ」

 

もう一人の仲間、ラウルを演じたのが「レイモンド・カマチョ」である。

見どころ①「世界が抱える問題、ストリートチルドレンに切り込む」

本作の舞台はフィリピンの首都マニラで、
フィリピンという国全体が抱える問題として「貧困」という問題がある。

首都のマニラにも貧困に苦しむスラム街があり、
そんな問題は今現在もストリートチルドレンを生み出し続けている。

その問題にフォーカスした本作では、フィリピンの貧困問題がとてもリアルに描かれる。
高所得者と低所得者の格差社会、盗みや窃盗、人身売買など、あらゆる問題が作中に登場する。
社会的な観点からもなかなか攻めたテーマが掲げられた今作に胸を打たれる鑑賞者も多いだろう。

見どころ②「ブランカとピーターの親子愛とキャスティング」

主人公であるブランカは幼くして父と母が居なくなり、
ストリートチルドレンとして生活を送っていた。
そんな彼女の目の前に現れたのは、優しい心を持つ盲目のギター弾きの「ピーター」
彼の持つ独特なオーラにだんだんと心を開くブランカの姿に鑑賞者は暖かい気持ちに包まれる。
父子にも似た愛情を感じる脚本、演技、演出のすべてに今作の見どころが存在するだろう。
そしてピーターの独特のオーラの正体、
それは彼が本物のホームレスからキャスティングされたことにあるだろう。

今作の制作にあたりスラム街の住人の中からキャスティングされたピーターは、
まさにイメージ通りの配役であり、迫力ある演技で人々を魅了したが、
本作完成後に突然の病により逝去してしまった。

アマチュアでありながら、本物の役者に引けを取らないピーターの演技と人生に、
盛大な拍手を送る。

配信コンテンツ

「ブランカとギター弾き」は今現在、
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ネタバレあらすじ

舞台はフィリピンのスラム街。
父が死去し、母親が蒸発したブランカはストリートチルドレンとして、
物乞いや盗みを働き、なんとか生計を立てていた。
彼女はストリートチルドレンでありながら、少しずつお金を隠しながら貯め、
大金を所持していた。
そんな大金をせしめるストリートチルドレンの仲間たちに迫害され、行き場を失うブランカであった。

そんなある日、盲目のホームレス「ピーター」と出会う。
ピーターはギターの弾き語りで得るチップにより生きていた。
一度は盲目であるピーターからお金を盗もうとするブランカであったが、
それに気が付いていながら止めないピーターにブランカは心を打たれるのであった。
それからブランカはピーターと行動を共にするようになる。

ある日、ピーターは警察に「「場所代」を払えないなら「サンフェルナンド」にでも失せろ!」
と、理不尽な迫害を受ける。
そに言葉を受けて、ピーター、そしてそれについていきたいブランカは二人で街を出ることになる。
結果、「サンフェルナンド」に辿りつくことができずに名もわからない町で二人は過ごすこととなる。
以前から「母親」を渇望していたブランカはこの街で、
「3万ペソで母親を買います」というチラシを貼る…。

チラシを貼っている最中、この街のストリートチルドレンである、
「セバスチャン」と「ラウル」に出会うが、母親は手に入らない、と一蹴されてしまう。
その後もブランカに声をかける人はいなく、落ち込むブランカに、
ピーターは歌うことを提案してみる。
いつもの広場でギターを弾くピーターと、歌うブランカ、
綺麗な歌声を発するブランカに町の人々は耳を傾け、目を奪われるのだった。
そんな二人の演奏を聴き、近くのクラブのマスターが、クラブで歌うことを提案してくる。
かくしてクラブで住み込みながら演者としての仕事にありつくことができた二人であった。

給料を貰いながら、「人並み」な幸せな生活を送る二人だったが、
ある日、同じ住み込みの雑用の小男に騙され、店を追い出されてしまう。
再び広場に戻ったピーターはまたチップで稼ぐホームレスを始め、
ブランカはセバスチャンとラウルとつるみ、盗みを繰り返す日々に戻ってしまう。

ある日、ブランカは広場に戻るが、そこにピーターの姿が無い。
そこに一人の女性が「ピーターの居場所を知っている」と声をかけてくる。
まんまとついていってしまったブランカは、
ストリップ小屋に売り飛ばされそうになってしまう。
ブランカは逃げ出すが、以前からブランカを快く思っていなかったラウルに出し抜かれ、
鳥小屋に閉じ込められてしまう。
まさに捕まってしまったその時に、セバスチャンがピーターを連れて現れる。
二人の手により難を逃れるブランカであった。

その後、「ピーターに迷惑をかけたくない」と考えたブランカは、
自ら志願して「孤児院」に入ることを決意する。
孤児院での生活が始まるが、うまく馴染むことができないブランカは、
ある日、夜中に孤児院を脱走する。

そして昼にやっとの思いで広場にたどり着くと、
そこには、相変わらずギターを弾くピーターの姿と、
ピーターの横で煙草を売るセバスチャンの姿があった。

盲目であるはずのピーターは何かに気が付き、ブランカのほうを見て微笑む。
同じくブランカも微笑む。

ネタバレ徹底考察

世界を旅した監督、長谷井宏紀が送るリアルな世界情勢

今作の監督を務めた長谷井宏紀は元々写真家として活動していた人物で、
イタリア制作の映画でありながら日本人監督としての作品となった。
それも初監督としての作品であったが、
彼はなぜ、海外でこの規模の作品を世に放つことができたのか?

その答えは彼の活動にある。
主にアーティストのPV撮影や映画、広告、ファッション関係の写真家として活動していたが、
ここ最近の彼の活動拠点は海外にあったのである。

各国の放浪の旅を行っていた長谷井は、
フィリピンでリアルのストリートチルドレンの姿を目の当たりにした。
海外での活動を行ううちに、縁があったイタリアのプロデューサーに声をかけられ、
ヴェネツィア国際映画祭の出資のもとに映画を制作できるプロジェクト、
カレッジ・シネマ部門に応募したのが今作の事の発端である。

1枚の企画書と15分の短編映像だけで応募したにも関わらず、長谷井は選考に残り、今作の制作が始まった。
そんな長谷井が見てきた世界のリアルがこの作品には詰まっているのだ。

キャスティングもリアルを追求する、妥協のない配役。

前述した通り、今作の主役の一人となるピーターは、
名前もそのままに本物のスラム街の住人の中からキャスティングを行っている。
そしてそれは、ピーターだけではない。
ブランカを除く、その他の登場する全ての子供が、
実際のストリートチルドレンからキャスティングされているのだ。

今作のキャスティングにあたり選出は難航した。
最初は、長谷井自らがスラム街で出会った人物をスカウトしようと考えたが、
連絡先も居場所もわからない人物の捜索にかなりの時間を要した。
盲目のギター弾き、ピーターの選出に1ヶ月以上、
セバスチャンを演じる子役の選出にも2ヶ月半もかかっている。

選出時は長谷井自らがスラム街を練り歩き、スカウトしたキャスティングだった。

また、盲目のギター弾きであるピーター・ミラリは、
本作の公開後、突然の病により逝去した。
映画のクレジットにはピーターへの追悼のメッセージが挿入された。