「カットオフ」ネタバレ感想と考察【死体の中からヒントが出てくる…】

  • 2021年9月23日
  • 2021年9月23日
  • 映画
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本記事は、映画「カット/オフ」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。

鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。

カット/オフ

2020年、クリスティアン・アルヴァルト監督によって制作されたドイツのスリラーサスペンス作品。

「死体」「検視官」をプロットとして描かれたサスペンス映画である。

上映時間は132分。

あらすじ

舞台はドイツ、検視官である一家の主ポールは、家族とは険悪な仲を保ち娘からも嫌われる日常を送っていた。

ある日、検視の仕事中にとある女性を解剖すると、金属のカプセルが中から出てくる…。

カプセルを開けてみると、娘の名前と電話番号が書かれた紙が出てくるのだった…。

出演役者

本作の主人公ポールを演じるのが「モーリッツ・ブライブトロイ」

ドイツを代表する俳優の一人で、有名映画である「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」等にも出演している。

 

本作のもう一人の主人公リンダを演じるのが「ヤスナ・フリッツィ・バウアー」

こちらもドイツ出身の女優であり、本映画以外ではヒューマンドラマで活躍している女優である。

 

ポールと行動を共にするインゴルフを演じるのが「エノン・ヘッセ」

本作のシリアスな空気をぶち壊すような異質なキャラクターを演じてくれていた。

 

リンダと行動を共にするエンダーを演じるのが「ファーリ・ヤルディム」

ドイツの俳優で、陽気な肉体派キャラクターを演じていた。

ネタバレ感想と考察

ただのスリラー映画と侮るなかれ!!

ここ直近のAmazonプライム動画にて無料視聴可能となった本作ではあるが、ジャケットから見て誰もが思うこと、それは「スリラー映画だろうな〜」というイメージ。

結果論で言えばそれは間違いない脚本となってはいたが、その難解すぎる脚本と時系列に鑑賞者は目が離せない展開となっていたのではないだろうか?

まず、本来の主人公であるはずの検視官のポールであるが、本映画の大きなプロットは「ポールの娘の脱出劇」である。

しかし映画冒頭、もっと言えば上映15分まで、リンダ主観の目線で物語が描かれ、リンダの元カレであるダニーから逃げる…という、実際の脚本からはかけ離れた始まり方をする。

徐々にポールやインターン生のインゴルフ、そしてリンダとエンダーの物語が始まっていくが、そこにたどり着くまでに一体何人の鑑賞者を振るいにかけたのだろうか…。

「ポール&インゴルフ」そして「リンダ&エンダー」の二種類の目線での事件解決の構図を作るために、複雑な時系列での構成が演出される始まり方となっていた。

その情報量の多さに加えて、ストーリーのテンポもなかなか早く、本映画を鑑賞するにあたって気軽な気持ちでは鑑賞できない人も多かっただろう…。

裏を返せば、その脚本こそが本作を「ただのグロ映画」では終わらせなかった最大の要因となっていたわけだが…。

本映画の前半30分程度は腰を据えて鑑賞することをオススメする。

でなければ…完全に置いてきぼりにされてしまうほどには複雑な物語なのだから…。

時系列を巧みに操る物語。

本作の物語は前述したように「ポール&インゴルフ」のコンビ、そして「リンダ&エンダー」のコンビの視点を交互に描いた、人質救出物語である。

リンダが離れた離島に居る中、ポールが電話によって素人による解剖をサポートするなんとも斬新な演出もあった。

物語の前半では主にリンダ側の目線で描かれ、ポールは電話でのやり取りしか見られなかったが、後半ではポール側でも真相究明へと近づいていく。

そこで、本作の鑑賞者を騙す演出として組まれていたのが、「時系列の仕掛け」であった。

そもそもの話、ポールを憎んでいた、元同僚のイェンスと、同じく娘を奪われたフィリップがポールの娘を拉致し、自殺するに至るまでが二日前の出来事となっていた。

その事実が明らかになるのは映画のかなり終盤、主人公達だけではなく、鑑賞者までもを騙すその仕掛けには驚くこととなる…。

そして何より、ポールの娘であるハンナの監禁の様子が見事となっていた。




時系列から紐解く「ハンナ」の環境

映画内ではあたかもリアルタイムでハンナが強姦されているような描写が描かれるが、実はハンナではなく、ハンナの前に犠牲となったレベッカだった。

彼女はフィリップと呼ばれる運送会社の社長の娘であるが、ポールの娘を事件に巻き込んだ張本人こそがフィリップである。
(自殺したフィリップの嫁の遺体から金属のカプセルが出てきて物語は始まる。)

物語が進行していく中で、レベッカの監禁される様が描かれるが、「顔がしっかりと描かれていないこと」に、皆さんは気がついただろうか?
また、ハンナの顔が映されるシーンでは、「顔のアップ」のみが描写され、ハンナの居る周りの空間が映らないことにも注目してほしい。
ハンナが観ていたのは「レベッカの監禁ビデオ」だったのだ。
(フラッシュ点滅がハンナの顔にも投影されているのはビデオ映像によるもの)

そして物語が佳境に進んだその時、レベッカはとうとう「自殺」を選択するが、鑑賞者目線では、彼女がまだ「ハンナである」と思っている。
足首が映され、そこでタトゥーが見えた瞬間、「絶望」を感じた人も多いはずだろう。

「足首にタトゥーが入った女性」が解体されるビデオをポールは見ているのだから…。

そしてポール自身も「ハンナにタトゥーが入っているか?」について否定しないのもまた上手く作られている演出となっていた。

ちなみに、物語の中でハンナが無事だと確定できるのは映画のラスト5分の出来事である。

「先読み」しやすい脚本ではあるが、フラットな気持ちで鑑賞すれば、なかなかにハラハラする時系列の演出となっていた。

「死体」そして「解体」というプロット。

サスペンス映画の数多くには「サスペンス+α」の要素が組み込まれる映画の作り方がされている。

その「+α」の要素が本作では「死体解剖」、そして「検死官」となっていた。

死体の中から次のステージに進む暗号が出てくる仕掛けは、スリラー映画としての要素もふんだんに含まれていた。

たくさんの遺体がそのまま描かれ、メスで切り開く様子や、内蔵、女性の乳房や男性の陰茎に至るまで、そのままストレートに描写されることには面食らってしまう…。
(本映画を鑑賞する時点でその覚悟はできていた人も多いはずだ…。)

そして、解剖を遠隔で素人に行わせることもこれまででは描かれなかった要素だ。

電話でポールの指南を受けながら、嫌々ではあるが解剖をしていくリンダ。

まさに「自分目線」で物語が鑑賞できるきっかけとなっていたのではないだろうか?

まさか、鑑賞者の中にも「検死官」を生業としている人は少ないだろう…。

それでも、オチは少し雑…?

一件落着と思われた物語であるが、ヘリコプターの中で、遺体に変装したエリックと一悶着ある。その少し前…インターンのインゴルフの不穏な後ろ姿が移される。

「コイツ…何かの隠してるな…。」

鑑賞者の誰もがそう思っただろう。

事実、インゴルフとエンダーに関しては、不可解な点が多いため、「真の黒幕はこの二人では?」と考察する人も多いようだ。

インゴルフは「謎の電話」をするシーンが描かれていたり、ヒントの場所をいとも簡単に見つけてしまったり、「ポールを正解へ導いている」と言っても過言ではない。

そしてエンダーも、最初にリンダが発見した「エリック(フィリップ)の死体」にハンナの携帯電話を持たせることができたのがエンダーだけだったのだ…。

これを「黒幕の伏線」と取るべきか「脚本の矛盾」と取るべきか…全ては鑑賞者に委ねられる。

しっかりとした小説が原作となっているため、2時間程度での物語の構成にはさぞ頭を悩ませたことだろう…。

ちなみにではあるが「ダニー」と呼ばれるリンダの元カレが出てきたが、彼の存在は忘れてもいい。笑

セバスチャン・フィツェック原作の有名作。