本記事は、映画「湿地」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。
「湿地」
2006年、バルタザール・コルマウクル監督によって制作されたアイスランド、
ドイツ、デンマーク合作の映画。
悪臭漂う沼地で死体が見つかったことを皮切りに、殺人事件の謎を追う刑事の物語。
上映時間は93分。
あらすじ
舞台はアイスランド、とある小さな村の家の床下から一体の遺体が見つかる。
村全域が腐りかけた「湿地」としての土地であり、悪臭と共に遺体も腐敗が進んでいた。
刑事の「エーレンデュル」は、この事件の担当として着手することとなるが、事件の謎を追っていくと、とある事実が浮かび上がる。
それは、殺害された男性「ホルベルグ」は過去にレイプ事件を起こしていた…。
ネタバレ感想と考察
北欧ミステリー独特の世界観に魅了される。
本作はアイスランド、ドイツ、デンマークの合作作品で、北欧映画独特のジメジメとしたダークな脚本、演出が、終始展開される作風となった。
映画の舞台となる村も腐敗した湿地の村が舞台となり、本作で描かれる、ドロドロとした事件が見事にマッチする雰囲気の場所だっただろう。
「湿地」「レイプ」「脳」数々のキーワードの効果
数あるミステリー作品の中でも、「アクション要素」が全く無い今回の作品、その脚本の重きは「謎解き」一本に絞られていたが、93分という限られた上映時間の中で、これほどにじわりじわりと物語を進めながら濃密な見応えを感じさせるのは、作中に起こる事件の内容にこそ要因があったように思えた。
殺された男がレイプ犯であったことや、冒頭で描かれる少女「コーラ」の病気の謎、また、今作での主人公、刑事のエーレンデュルが抱えるプライベートのシーンや家庭内の悩みなど、切り取り方のクセがとても強い作品だった。
また、エーレンデュルの「食生活」が何の違和感も無いように描かれているが、「羊の頭」を胃袋に押し込む、北欧のミステリー作品独自の視点の観せ方は心地よい?気持ち悪さを演出していた。
モノトーン調の映画の撮り方で伝わる雰囲気。
これも「さすが北欧映画」と言わんばかりのカメラワーク、そしてモノトーン調の色合い、ダークな雰囲気を常に演出するための
要素となり、「ミステリー」というジャンルにも絶妙のバランスでマッチングしていた。
同じミステリー作品でも、日本映画やハリウッド作品では演出することのできない映画の撮り方であり、そんな映画の作風に日本人目線では評価は低い人も居ただろう。
また「鬱映画」の金字塔、「ダンサーインザダーク」もデンマークの映画であり、セピア調の色味で描かれた作品である。
「ダンサーインザダーク」のような陰鬱な雰囲気を好む人々には垂涎モノの作品として本作を挙げる人も多い。
1つの事件から浮かび上がる別の事件と本作の「テーマ」
本筋の事件を追ううちに、エーレンデュルがたどり着くもうひとつの事件、そしてその「病気」の真相。
物語の序盤で描かれる一人の少女の死が、後半で「伏線」として生きてくる作りは斬新でこれまたダークだった。
「何を悪として捌くのか?」
そんな哲学的な要素を含みながら、レイプによる伝染病に苦しめられる家族の執念の炎は、鑑賞者の心に深く刻まれることとなる。
物語のラスト、「何が正義かわからない」と嘆くエーレンデュルは娘の手を取り物語の幕引きとなる。
「ハッピーエンド」とも「バッドエンド」とも取れないような物語の終わり方も主人公の「感性」に依存している終わり方のようにも見えるだろう。
他でもない、主人公エーレンデュルのプライベートまでも、こんな事件と隣合わせの状態になっていることが何よりの脚本の面白さだったのだ。
主人公の立場との「合わせ鏡」のような演出。
北欧映画によくある手法であるが、言葉で伝えることなく、ニュアンスや映像でモヤモヤとさせる弄れた演出が、本作でも数多く登場する。
本作の主人公であるエーレンデュル、彼の一人娘の「エヴァ」こそが、本作の「裏の物語」として、本筋の事件の合わせ鏡のような存在となっていた。
「コーラ」の脳の謎を解明していく過程の中で、エーレンデュルは「羊の頭」を食しながら捜査を続け、自身の娘までも「ドラッグ」に明け暮れ、「レイプ」と似たような環境に身を置いている点が、とても細かで弄れた演出となっていた。気持ちいいほどに意地の悪い映画である…。