本記事は、映画「エスケーピング・マッドハウス」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。
エスケーピングマッドハウス
2019年、カレン・モンクリーフ監督によって制作されたサスペンス作品。
実際に存在したジャーナリスト、「ネリー・ブライ」の伝記映画でもある。
上映時間は88分。
あらすじ
舞台はアメリカ、ニューヨーク、「ブラックウェル島」にある精神病院にとある一人の女性が入院していた。
彼女の名は「ネリー・ブラウン」
これまでの記憶が曖昧であり、ネリー自身も入院した原因がわからないほどの記憶障害を持っていたが、周りの精神病患者と違い行動的で活発な女性だった。
虐待などの酷い扱いを受ける院内生活の中で、彼女は「自分が何者であるのか?」真相を究明していく…。
出演役者
本作の主人公、「ネリー・ブラウン」を演じるのが、名女優「クリスティーナ・リッチ」
あの「アダムス・ファミリー」シリーズの名子役としても知られ、今現在もアメリカを牽引する名女優の一人である。
精神病院の寮長を演じるのが「ジュディス・ライト」
御歳71歳を迎える女優でありながら容姿端麗な姿を持ち、今も尚、女優業を全うする名女優の一人である。
精神病院、唯一の医師である「ジョサイア医師」を演じるのが「ジョシュ・ボウマン」
イギリスの俳優であり、映画作品よりはドラマ出演作品が主となる俳優である。
ネタバレ感想と考察
まさかの実話!?実在したネリー・ブライ
前情報ナシで本作を鑑賞した人なら一番驚くであろう要素、間違いなくこの部分であろう。
本作は実在したジャーナリスト「ネリー・ブライ」の完全なる伝記映画である。
自ら進んで危険な精神病院への潜入取材を試み、地獄の10日間を過ごした記録は、今も尚、アメリカ合衆国の歴史、法律に大きな爪痕を残した出来事となっている。
そんな「伝記映画感」を、ラストまで感じさせることの無い脚本力と、ネリー・ブライという人間に魅せられる作品であるだろう。
「伝記映画」でありながら、真実を知らない人々には、「どんでん返し映画」だと思わせてしまうようなドラマティックな展開が用意されているのが非常に面白い要素だ。
ちなみにではあるが、さすがに水に沈められ記憶喪失をしたり、ギリギリのタイミングでの救出はフィクションであり、実際では新聞社による弁護士との交渉により救出されたようだ。
「ハッピーエンド」でありながら、胸糞展開も楽しみたい。
届きそうで届かない、主人公ネリーの奮闘に反逆するように降りかかる災難に、もどかしさを感じ一種の「胸糞映画」としても語られる本作。
そんな「陰」の要素を含む描写も楽しんで鑑賞するようなメンタルが必要となってくる。
中でも、ネリーを探し求めてきた「バット」に会えずに島を去ってしまうシーンや、脱出しようと思った矢先に寮長が待ち構えているシーンは心に来るものがあるだろう。
また「ヒル」を用いた「しつけ」や水風呂、鞭などの虐待行為も陰湿でダークな一面を作り上げる大きな演出の一つとなっていた。
それぞれの正義を紐解いてみる。
完全に寮長、医師サイドが悪役として、ネリーが正義として描かれる作品であるが、寮長のセリフにも心を打たれた場面があった。
それはネリーの脱出がバレて、「しつけ」を受けるシーン。
周りが皆「精神病」を患う患者の中で、統制を執るために「しつけ」を行ってきたという言葉の重みは響くものがあったのだ。
現に日本でも、介護施設で従事する人が、要介護者を虐待したり、殺してしまったりする事件はあり、ぼく達の想像を超えるストレスと戦っているのがよくわかるシーンとなっただろう。
そして決め手に、「私は正気だ!」と訴えるネリーに、「自ら精神病院に乗り込むなんて正気じゃない」と一蹴する寮長。
これに関しては、ぐうの音も出ない。笑
時代背景と「精神病院」という舞台設定
「こと」が起きたのは1887年、舞台はアメリカ、ニューヨークでありながら、中世ヨーロッパをイメージさせる世界観に美しさとダークさを感じただろう。
ぼく自身も、本作の鑑賞に至った経緯としては完全に映画のパッケージによるものだった。(ストーリーを知らずに観た皆さんもそうなのではないだろうか?)
美しすぎる主人公ネリーを演じる「クリスティーナ・リッチ」と71歳の大女優「ジュディス・ライト」の容姿に釘付けになってしまい、そんな演技が行われる美しい世界観も本作の大きな見どころだろう。
また、「精神病院」という舞台設定も、いい意味でダークな雰囲気を生み出す要素となり、「映画」としての面白みを発揮させる重要なファクターとなっていた。
また、同じ精神病院を舞台としたサスペンス映画、「アサイラム 監禁病棟と顔のない患者たち」でも、似たような舞台設定のサスペンス脚本が描かれ、そのダークさもいい生かされ方をしている。
やはり「精神病院」という舞台はどこか特別な世界観を持っている。
ネリー・ブライという人間について。
本作の主人公として描かれ、実在した人物であったネリー・ブライは、アメリカのワールド社のジャーナリストであった。
「メディア」というものが段々と確立され、この世界における最初期のジャーナリストとして世間に名を馳せたのも、彼女が初めての存在だろう。
そんな彼女は、本作の潜入取材の功績以外にも、たくさんの活動を成し遂げた、偉大なジャーナリストとしても有名な人物である。
「工場で働く人々」を主題とした記事を執筆したり、当時では珍しい「働く女性」についても肯定的な意見を持って反対意見を持つ人々に意見を投げたり、子供の住む貧民街の記事など、「ネリー自身の体験」に基づいた記事は、今でも語り継がれるものが多数残っている。
昨今のジャーナリストには見習って欲しい節が多い…。
「エスケーピング・マッドハウス」というタイトルについて
本作の邦題となった、「エスケーピング・マッドハウス」であるが、【エスケープ→脱出、逃走】【マッド→気が狂った】という、なんともストレートなタイトルネーミングとなっている。
せっかくの著名人の伝記映画であり、素敵な世界観が展開される作品なだけに、少々残念な品のないタイトルに感じてしまう。