本記事は、映画「テロ、ライブ」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。
「テロ、ライブ」
2013年、キム・ビョンウ監督によって制作された作品。
1人のニュースキャスターが生放送中にテロリストと対峙する物語。
上映時間は98分。
あらすじ
舞台は韓国、元国民的ニュースキャスターのユン・ヨンファは昔こそテレビのニュースで活躍していたが、とある事件をきっかけに左遷され、今はラジオのキャスターとして働いていた。
そんなある日、ラジオの生番組を放送していると、一人の男から橋の爆破予告が入る。
「イタズラ」とあしらうユンだったが、なんと橋は本当に爆発してしまう。
ユンはこのテロ予告を「ネタ」に、ニュースキャスターとしての再起を誓う…。
出演役者
本作の主人公ユンを演じるのが「ハ・ジョンウ」
配信コンテンツ
「テロ、ライブ」は今現在、Amazonプライム、Hulu、等で配信されている。
ネタバレ感想と考察
全てが「生放送中」という新しいスタイルのワンシチュエーション作品。
通常ワンシチュエーション作品と言えば、脱出することができない密室で物語が繰り広げられるが、この作品では主人公のキャスターであるヨンファが「身体的に拘束」されていないのがキモとなる。
彼をその場に拘束させているのは何を隠そう、「生放送中」という状況そのものである。
物語の前半ではニュースを報道する仕事故にその場から離れられないシチュエーションが展開され、後半からは犯人による脅迫によって拘束されることとなる。
これまでには描かれたことが無かったシチュエーションに感銘を受けるとともに、これも一種の「シチュエーションスリラー」の形として、とても斬新なものに感じた。
現代の「政府」に対するアンチテーゼ作品。
本作の物語を俯瞰してみると、一連の事件の元凶となるのは、やはり韓国政府の対応となるのは明らかだろう。
犯人の求めることは「大統領に来てもらい、直接ただ一言謝るだけ」という斬新な要望だった。
犯人のプライド、そして政府のプライドが交錯する物語であり、主人公のヨンファが事件に巻き込まれる形で物語は進行していく。
ヨンファ自身も己の地位のための数々の汚職に染まり、本作のような結末を迎えることとなるのがまた面白い。
物語全員に汚点があり、「誰が悪いか?」を決めることができない作風が本作の見どころとなっている。
これは韓国に限らず、各国で今現在も問題となる政府の黒い部分にスポットライトを当てた作品であり、考えさせられる大きなテーマが詰まった作品となっただろう。
物語の心理描写が面白い!!
物語の中でメインストーリーの軸として描かれているのが、主人公のキャスター、ヨンファの「心理描写」である。
物語の序盤では、犯人からのテロ予告を「チャンス」と捉えて意気揚々とニュースを読み上げるが、犯人の狡猾さに気圧され、段々と「人質」としての色が濃くなっていくのだ。
政府は犯人の要求に応えることなく、無慈悲にも一般人を犠牲にしていくが、最後のシーンでヨンファの最後の「感情の変化」が起こる。
ヨンファは犯人を助け出し、犯人が持っていた爆破スイッチを押すのだ。
今まで犯人を非難していたヨンファであったが、ニュースを読み上げ犯人と交渉を繰り返すうちに、彼の心境に同情し、政府を「敵」とみなすのだ。
政府に父を奪われた犯人への同情、そしてそれに対する政府の対応、更にはヨンファ自身への政府の扱いが彼の爆破行為へと導いた原因となった。
本作は、映画の上映時間98分を通しての「ヨンファの感情の変化」が本映画の柱となるテーマであり、これが非常に上手く描かれていた作品だと感じた。
描写であったり、演出としては違和感を感じてしまうシーンもあったが、脚本としては非常に面白い作品に仕上がっていただろう。