本記事は、映画「ゆれる人魚」の
ネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、
注意して読み進めてください。
ゆれる人魚
2018年、
アグニェシュカ・スモチンスカ監督によって
制作されたポーランドの映画。
2人の人魚を巻き込んだ物語。
上映時間は92分。
あらすじ
舞台はポーランド、ワルシャワ。
人魚である「シルバー」と「ゴールド」は
ひょんなことから
ワルシャワのストリップ劇場で
働くこととなる。
人魚が街に訪れることへの興奮と興味で、
瞬く間に2人は人気者となっていった。
そしていつしか、
姉妹の姉であるシルバーは、
「人間になりたい」と思うようになる…。
出演役者
本作の主人公、
人魚の姉であるシルバーを演じるのが
「マルタ・マズレク」
本作では、主に「恋する乙女」の立ち位置。
ミステリアスなミハリナとは対照的に、
清純な少女のイメージを持ったキャラクターを
演じてくれた。
もう1人の主人公、
妹のゴールドを演じるのが
「ミハリナ・オルシャンスカ」
笑った時のどこかミステリアスで
闇深さを感じる雰囲気はとても印象的。
他にもポーランド映画の数々の作品に出演していて、
独特の彼女のキャラクターは、
ポーランドでも評価されているようだ。
2人を街に導いたストリッパーである
クリシアを演じるのが
「キンガ・プレイス」
作中では、明るくもどこかミステリアスな
「大人の女性」を演じていた。
本作の俗を感じさせる
演技を見せてくれた。
ストリップ劇場で働く
バックバンドのベーシスト、
ミーテクを演じるのが
「ヤクブ・ギェルシャウ」
そのイケメンすぎる美貌から、
日本国内にもファンは多いようだ。
出演する映画は少ないが、
他の作品でも圧倒的な存在感を放っている。
ネタバレ感想と考察
ファンタジー×ホラーという新ジャンルを確立した作品
映画史において未だ描かれたことの無い、
ファンタジー×ホラーというジャンルの融合。
「人魚」をモチーフに描かれた本作では、
そんな新しい試みを
見事に成功させた印象を抱いた。
何処か陰鬱な映画の雰囲気であったり、
ポーランド映画独特の音楽、
西洋で語られる「人魚伝説」の
物語を踏襲した上で
ファンタジックに描かれた本作は、
今までに観たことのない感性を
与えてくれる映画となった。
今回の映画の主題となったのは「人魚の恋」
であったが、
基本的に「暗い映画」に分類させるであろう
本作において、
ファンタジー要素を見出すために、
「人魚伝説」という物語の土台以外にも
儚くも明るい要素を
見出すことができる要素があった。
「ミュージカル映画」でもある本作品の側面
鑑賞していてやはり気になった部分として、
映画の最中に入り込む「ミュージカル」の
シーンがあっただろう。
容姿端麗な2人の人魚の主人公も、
それ以外の登場人物も、
歌ったり踊ったりのパフォーマンスを
見せるシーンとなっている。
ただでさえ暗い作風を、
より「明るく」「ファンタジー」に
見せるために、
このミュージカル要素は
絶大な効力を発揮していたと思っている。
そして、「物語」と「ミュージカル」の
境目をぼやけさせ、
いつの間にか「ミュージカルシーン」になり、
いつの間にか「物語」に戻る
映画の構成も、
斬新なものとなっていただろう。
卑猥なシーンもあれど、そう感じさせない不思議な感覚。
本作の主人公として描かれる2人の主人公、
シルバーとゴールド、
この2人に終始
スポットライトが当たる作品であったが、
見ていて驚いてしまうほどに、
「卑猥な描写」について
寛容に描かれていただろう。
まず、女性でありながら、
胸は完全に見えている。
「人魚」というキャラクターを
際立たせる上でも、
「妖艶さ」という魅力を感じさせる
大きな要因となる。
そして、「人間の性器を持たない」という
設定の上で描かれる下半身。
この演出も、鑑賞者には
驚きの描写の一つだったのでは
ないだろうか?
舞台となる場所が
「ストリップ劇場」ということや、
人間本来が持つべき「恥ずかしさ」とは
無縁に生きる「人魚」である
キャラクター性などが
本作に上品な妖艶さを演出させている
最大の要因となっていただろう。
これぞポーランド映画!本作の音楽効果について。
本作品が「ミュージカル作品」であることは、
前項でも触れていたが、
そもそも「ポーランド映画」の
音楽に関する意識は
とてもレベルの高いものであることを
皆にも知ってもらいたい。
かの有名な「戦場のピアニスト」も
舞台はポーランドとなり、
クラシック音楽を初めとした
様々なジャンルの音楽に精通している
国だろう。
本作のミュージカルシーンにおいても、
テクノサウンドやバンドサウンドなど、
様々な音楽のジャンルの
ミュージカルが展開され、
鑑賞者を耳でも楽しませてくれる演出が
多かった。
また「人魚」という設定から
「歌声」という重要な要素も
汲み取ることが出来る。
シルバーが恋するミーテクが
バンドの「ベーシスト」であったり、
ゴールドが謎の男、トリトンのバンドに
参加していたりと、
作品を通して「音楽」とは
深く繋がりを見せていただろう。
本作の主な音楽は
ポーランドの音楽姉妹
「Ballady i Romanse」が
手がけているそうだ。
謎の男「トリトン」は一体何者だったのか…?
映画の中盤から後半にかけて登場していた
恐らく「男の人魚」であろう
「トリトン」という人物。
彼も姉妹が「人魚」であることを知りながら
人間界で生活することを選んだ彼だが、
本作の物語のキーマンとなっているのが
彼であっただろう。
シルバーがミーテクと性行為をすることが
できないことに嘆くシーンがあるが、
そんな中、
トリトンが角を手術で切り落とし、
人間界で馴染んで生活していることを知る。
シルバーから見たトリトンの存在こそが、
本作の物語を動かす最大の「きっかけ」と
なっていたことがわかるだろう。
「人間になりたい」
そんな願いを持つシルバーであったが、
最後はミーテクは
別の女性と結婚してしまい、
失恋したシルバーは「海の泡」となる。
本作の「ダーク」な部分として描かれた、
最大の場面となっていた。
本作最大の陰鬱要素、「人間」と「人魚」の壁。
本作の映画が、
「一体何を伝えたかったのか?」を
考えた時に、
最初から最後まで通して描かれていた
「真のテーマ」となるものがあった。
それは「人間と人魚の壁」である。
冒頭のストリップ劇場のオーナーが
「魚臭い」と口にするシーンを初め、
人間が人魚に対し見下すような描写が
多数描かれていたのだ。
ミーテクを愛し、「人間になりたい」と夢見る
シルバーと、
そんな姉を心配するゴールドの関係性こそが
そんな壁を物語っている。
2人が対立した時、
まるでゴミのように海に投げ落とされて
しまうシーンで、
人間という生き物の残酷さを
知ることとなるだろう。
映画の最後、ミーテクの喉仏を喰らい尽くす
ゴールドの最後で映画の幕は閉じるが、
最後の最後まで
分かり合うことができなかったと
考えていいだろう。
退廃的でありながも美しい描写と、
そんな美しさを儚さに変える結末が
印象に残る作品だった。