「グッド・ネイバー」ネタバレ感想と考察【ヤバいジジイの抱える闇とは…】

  • 2021年2月7日
  • 2023年8月24日
  • 映画
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本記事は、映画「グッド・ネイバー」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。

鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。

グッド・ネイバー

2016年、カスラ・ファラハニ監督によって製作された作品。

孤独な一人の老人を24時間監視する物語。

上映時間は98分。

あらすじ

舞台はアメリカ、暇な学生、ショーンイーサンは、近隣に住む孤独な老人グレイニー「実験」と称し、24時間監視カメラで監視することを決行する。

家に忍び込み、「心霊現象」に見せかけた、あらかじめ細工した現象を

引き起こしながら、面白がって観察を続けるが、徐々にグレイニーの「異常さ」垣間見えてくることとなる。

出演役者

本作の主人公、頭の切れる学生、ショーンを演じるのが「キーア・ギルクリスト」

イギリス出身の俳優で、映画作品よりはシーズンドラマへの出演が目立つ俳優である。

 

もう一人の主人公、悪さの好きな学生であるイーサンを演じるのが「ローガン・ミラー」

「サモン・ザ・ダークネス」「エスケープ・ルーム」といった、2020年に公開された、サスペンス調の作品へ多数キャスティングされる、現代映画の第一線を走り抜ける俳優。

破天荒なキャラクターとしての立ち回りが多く、本作でも、物語の進行をけん引するキャラクターを演じてくれた。

 

本作の物語の中心人物、孤独老人のグレイニーを演じるのが、「ジェームズ・カーン」

アメリカを代表する超有名俳優。

1960年代から、数え切れないほどの作品に出演し、あの「ゴッドファーザー」ソニー・コルレオーネを演じているのも彼である。

貫禄ある演技で、本作の「狂気」の部分を増大させるほどの演技を魅せてくれている。

ネタバレ感想と考察

見れば見るほど先が気になってしまう脚本のしかけ

パッケージ、映画タイトル、どれを取っても、「ホラー」「サスペンス」を好む映画マニアなら惹かれてしまうような本作では、物語の脚本の進み方も、見れば見るほどに先が気になってしまうような構成で描かれていた。

時折、過去との往復を繰り返し徐々に真相を究明していく映画としては少なくはない構成で描かれていたが、本作はその中でも、他の作品では感じることのない「先が気になってしまう魔力」が備わっていたのだ。

現代で進行する裁判の時系列から紐解いてみよう。

本作における現在進行形の物語は、裁判のシーンであることが映画冒頭でわかり、「警察官」「イーサンの母」といった、「誰か」を被告人としたときの「証言者」として発言する。

そして物語の舞台が裁判である以上、「事件性のある何か」が起こっていることと、「イーサン、ショーン、グレイニー」の三人がその事件に絡んでいることがわかる。

このように、物語の核となる部分、その関係性を明かしていきながらも「ネタバレ」だけはしないような絶妙なラインを責めた脚本こそが先が気になってしまう構成の正体だ。

検事が話しかけている相手は警察官などの関係者。

そして、同じ法廷内で確実にその会話を聞いているであろう主要人物の誰か。

裁判のシーンの物語の進み具合から、「過去で何が起こっていたのか」を自然に鑑賞者が推理してしまうような仕掛けが施されていた。

また、証拠品として挙げられた、ビデオカメラから、「実験と称した監視行動」という悪事がすでにバレてしまっていることがわかる。

物語は「結末」を先出ししつつ、過去の物語を展開し、真相を究明していく、「鑑賞者」に向けてのリアリティドラマであった点が非常に面白い映画構成となった。

4種類のシーンを使い分ける映像効果と脚本

本作の物語における時系列であるが、「過去」「現在」の二種類、そしてそれ以外の作品の魅せ方に、「ビデオカメラの映像」と「監視カメラの映像」の、合計四種類があるのが、とても面白い作りとなっていた。

物語を見ていて、時折流れる「実験の日記のようなビデオカメラ」これが展開されるのが、現代である裁判シーンそして「グレイニー宅の監視カメラの映像」これが流れるのが過去のシーンであることがわかってくる。

鑑賞者が意識しないままに、四種類もの時系列の異なる映像で、楽しませてくれた映画構成もまた、秀逸な構成となっていた。

本作の重要な快楽要素「安心感」

本作のもう一つの楽しみ方として提唱させるような作りとなっていた要素が、もう一つだけある。

その正体は「人間観察」である。

もっと極端に言ってしまえば、イーサンとショーンと同じ目線で物語を楽しむということである。

映画の干渉に至った人のほぼ全員が見ているであろうあのパッケージそして邦題のキャッチフレーズが、「このジジイ、かなりヤバい」である、気になってしまうのも無理はない。

そんなジジイを観察する、ショーン、イーサン、そして鑑賞者の皆さん

主人公たちと一緒に、何が起こるかハラハラしながら鑑賞できるだろう。

そして鑑賞者は「監視カメラ」に加えて、「映画」というフィルターも通している。

危険の及ばないところで、鑑賞している「安心感」という快楽は誰にも止めることはできない。




グレイニーはなぜ自殺したのか?

ここから先は、物語の脚本について触れていこうと思う。

まず、そもそも「なぜグレイニーは自殺したのか?」であるが、これについてはすでに答えが出ているだろう。

それは「妻に呼ばれたから」であるのが答えである。

病気で死んでしまったグレイニーの妻であるが、亡くなる前、グレイニーより、プレゼントとして「呼び出し用のベル」をプレゼントされている。

グレイニー宅に侵入したイーサンであったが、誤ってこの鈴を鳴らしてしまったことがきっかけとなり、移動したベルを見て自殺を図ったと考えられるだろう。

また、拳銃を持って自殺に至るまで、隠れるイーサンとの間に、不思議な「間」あったようにも思えた。

考え方の一つとして、イーサンの侵入に気が付いていたうえで、自殺を図ったとも考えられる…。

ありとあらゆるイタズラが、思い出を想起させた。

数々の映画作品と同じように、本作にも、もちろん「伏線要素」は存在していたが、他の作品では描かれなかった伏線の張り方なされていたもの面白い。

本作の伏線は全てが「一つの結末」に関して張られている伏線だった。

本作の核となるネタ、グレイニーの妻の存在であるが、全ての伏線はここに繋がるものとなっていたのだ。

今回では、ショーンとイーサンのイタズラが伏線として機能するが、そのイタズラやグレイニーの周辺で起こる出来事一つひとつが、思い出を揺さぶる導火線となっていた。

・扉が勝手に開閉するシーンで、買い物から帰ってきた妻を想起させる。
・オーディオが勝手に流れるイタズラで、妻とのダンスを思い出す。
・冷房と外の寒さで妻との思い出を思い出し、その場で半袖一枚で佇む。
・老齢の女性が訪問するが、妻からの遺言でグレイニーの世話を頼まれた人。
老人ホームへの入居を薦められるが、「この家にいると妻を感じられる」と、拒否。
ちなみに彼女が妻にプレゼントしたのが、現在グレイニート一緒に住まう猫。
・ショーンが地下室で見た大量の「薬」は、生前、ガンであった妻が服用していたもの。
・ベルによって妻からの呼び出しを思い出す。

また、これらの伏線から考えられるグレイニーの心情として「ポルターガイスト現象は、妻によるもの」という考え方もできる。

真相は闇の中ではあるが、これらのイタズラ全てを「妻の仕業である」と考え、自殺に至ったと考えるのも自然な考察であるだろう。

本作品の裏のテーマは「YouTuber」への警告!?

本作の中で常にイタズラを働いていたショーンとイーサン、彼らに対する「因果応報」という観点からも、本作には別のテーマが潜んでいたと考えられる。

映画の冒頭、「YouTubeのレビュー動画を尊敬している」という旨の発言が、イーサンのっ口から飛び出すが、彼の「実験と称したイタズラ」や、「撮影することへの意識の高さ」そしてこのセリフからも、彼のYouTuberへの憧れは読み取れるだろう。

一方で、イーサンの言われるがままに動く、ショーンであるが、「せいぜい動画サイトで人気になる程度」と、YouTuber自体にはあまり関心がないようにも見える。

結果、裁判沙汰にまで発展し、まさに「因果応報」という言葉がしっかりと当てはまる。

現代で問題となっている、YouTuberの過剰な言動に警笛を鳴らすような結末となっていた。

また、グレイニーへイタズラを仕掛けたきっかけとして、YouTuberへの憧れだけではなく、イーサンの離婚の原因がグレイニーの仲裁によるものであり、そのことへの「復讐」であるとも語られ、それも相まって、今回の事件のトリガーとなっていた。

そして物語の最後、「保護観察処分」との判決で免れる二人であるが、悔いるような表情を見せるショーンに対して、イーサンはたくさんのカメラの前で、どこか微笑んでいるような表情を浮かべている。

その姿はまるで、良くも悪くも「注目されること」を目的としている「炎上系YouTuber」のそれであり、反省するどころか、メディアに注目されて「喜んでいる」ような描写にも見えるのだ…。

また余談ではあるが、とてつもなく個人的な考えとして、今回の被害者としての立ち位置に見えるグレイニーであるが、「可哀そう」という印象だけではなかった。

いくら愛する妻と死別していても、関係がない他人に被害を与えるのは解せない。

「犬が敷地に入ったら切り刻んで送り付ける」という旨の発言に関しては、完全に「脅迫」だろう。

本作一番の被害者は、犬の散歩をしている男性とその犬なのかもしれない…。