本記事は、映画「パッチ・オブ・フォグ 偽りの友人」の
ネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、
注意して読み進めてください。
パッチ・オブ・フォグ 偽りの友人
2015年、マイケル・レノックス監督によって
制作された作品。
一人の有名芸能人の苦悩の物語。
上映時間は92分。
あらすじ
文学界に語り継がれ小説「一面の霧」、
25歳という驚異的な若さで
これを執筆したとされる小説家サンディは
今は番組の辛口コメンテーターとして
自分の立場を確立していた。
そんなサンディ、
万引きの常習犯という
一面も持ち合わせていたが、
とうとう万引きがバレてしまう日が
訪れる…。
出演役者
本作の主人公サンディを演じるのが
「コンリース・ヒル」
北アイルランド生まれのベテラン俳優で
ファンタジードラマ
「ゲーム・オブ・スローンズ」に
出演していることでも知られる。
映画だけではなく、
TVや洋画ドラマ等への出演も多い。
本作では高いプライドを持ちつつも
ロバートに振り回される不運な男を
見事に演じている。
サンディの万引きを発見する警備員
ロバートを演じるのが、
「スティーヴン・グレアム」
イングランド出身の俳優で、
あの「パイレーツ・オブカリビアン」
シリーズや、
名作「アイリッシュマン」にも出演している。
本作ではサンディを振り回す
掴みどころのない男ロバートとして、
独特な雰囲気を存分に発揮した
演技を見せてくれた。
サンディの恋人であるルーシーを演じるのが
「ララ・パルヴァー」
イギリス出身の女優で、
本作では数少ない女性キャラクターの一人。
ミュージカル出身の女優であり、
映画よりもTVドラマに出演している
印象が強い。
ネタバレ感想と考察
まさかまさかのサスペンス作品。
本作の物語、
一件、コメディチックなヒューマンドラマにも
受け取れるような一面もあるが、
最も強い色のジャンルはやはり
「サスペンス」になるだろう。
「万引き」という軽犯罪を繰り返す
サンディの粛清の物語が展開される
内容でありながら、
本筋で描かれていたのは
「ロバートの異常さ」だろう。
ヘラヘラとした笑みを浮かべて、
物語が進むにつれてどんどんと明るみになる
ロバートのサイコパスなキャラクターが
このジャンルの核を担っていると
言ってもいいだろう。
中でも、
サンディがロバートの家に侵入した際の、
サンディとの思い出を大切に取ってある
描写は鑑賞者の脳裏にも色濃く残っている
ことだろう。
本作最大の見所は、
そんなヒューマンドラマが
「サスペンス調」に
描かれている点であり、
同時に「ロバートの人間性」に
植え付けられる衝撃でもあるだろう。
顕(あらわ)になっていく2人の関係性
本作のようなサスペンス調の
ヒューマンドラマにおいて、
大切な要因になってくるのが、
各キャラクターの「境遇」だろう。
本作でスポットライトが当てられた
2人の人物「サンディ」と「ロバート」、
段々と解き明かされていく
二人の過去も面白い要素の一つである。
サンディは昔書いた小説「一面の霧」が
自身の作品でないことを世間に隠しており、
一種の「トラウマ」として抱えていた
描写があった。
その一方でロバートは、
サンディの万引き行為を認知しつつも
黙っていた描写が描かれた。
そしてサンディ以外にも万引き犯を捕まえては
情けをかけるという一種の優越感を
感じていた描写もあった。
通常であれば、接触することのなかった
全く違うタイプの二人の人間が出会い、
お互いに干渉されていく
人間味溢れる作品としても、
本作の物語は面白い構成となっていた。
本作品を最後まで鑑賞した時、
サブテーマである「偽りの友人」の真意が
わかることとなるだろう。
最後まで掴みどころのなかった「ロバート」のキャラクター性。
長年、警備員として務め、
閉ざされた世界から監視カメラを
見続けていたロバート。
家では蛇を飼い、
サンディとの交流で持ち帰った
「珈琲のフタ」や「タバコのシケモク」を
大切に保管している
異質なキャラクターとして描かれていた。
作中でもヘラヘラと笑っている様子が多く、
心理描写がつかみ取れないような
立ち位置のキャラクターであったが、
ラストシーンまで、
その真意は解き明かされることがなかった
印象だろう。
果たしてロバートは、
サンディとの間に「真の友情」を
感じていたのか?
万引き映像のディスクを隠しつつも、
サンディとの関係性を宝物のように扱い、
自分から離れていくことを恐れた
彼の不器用な愛情は
「キモく」そして、無骨に「美しくも」
感じられただろう。
「素手」の「軍手」の仕掛け
本作で描かれる数々の
サンディの万引きシーン
その中で唯一1回、
サンディの心が震える万引きのシーンがある。
これまでサンディは「軍手」という
一枚の壁を隔てて
万引き行為を繰り返していたが、
ただの一回、ライターを盗む時だけは、
衝動的に素手で盗んでいた。
「指紋が残る」などの
科学的な要因が主ではなく、
そこで描かれたのは
サンディの心理描写であったことも面白い。
軍手をしているから
何かが変わる訳ではなく、
別人格の仮面(軍手)を作りあげ
行為に及ぶ。
そんなスリルと緊張感に支配されながら
「もう一人の自分」を演じる
サンディの心理描写も
本作の大きな見どころの一つだろう。
彼の感じる「スリル」「緊張感」、
そして万引きぬ成功する「安心感」、
メディアに晒され続ける
彼自身の立場の関係もあるが、
理解できる部分も多い。
そしてサンディは
ロバートのアパートに侵入した際にも、
同様の感覚を覚えている。
一度味わってしまえば抜け出せない
中毒性も描かれていた。
賛否両論分かれるラストシーンについて。
サスペンス映画、
そしてヒューマンドラマとして
ラストシーンまで物語は描かれるが、
このラストはなかなか予測するのは
難しかったのではないだろうか?
ロバートの死体を
湖に投げ入れた時、
ロバートの鎖に足を取られ
一緒に湖に溺死するサンディ。
まさに因果応報とは
このことと言わんばかりのラスト、
最後の最後までロバートに振り回される
サンディの人生は
少しコメディ感を感じてしまうラストにも
感じ取れる最後だろう。
余談ではあるが、
本作のタイトル「パッチ・オブ・フォグ」は
直訳すると「a patch of fog」
「霧の切れ端」となる。
小説のタイトルが「一面の霧」であったり、
映画のラストシーンで「霧」がかかっているのも、
小粋な演出の一つだった。