本記事は、映画「ALONE」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。
「ALONE」
2018年、ファビオ・レジナーロ、ファビオ・グアリオーネの両監督によって制作された作品。
地雷を踏んで動けなくなったアメリカ兵士の物語。
上映時間は106分。
あらすじ
舞台は北アフリカ、米国軍人でありスナイパーのマイクは、相棒のトミーと一緒にテロリストのリーダー暗殺のために砂漠の真ん中で張り込みを続けるが、任務に失敗してしまう。
村へと帰還する途中、目の前でトミーが地雷の爆発に巻き込まれる。
そしてマイクも地雷を踏んでしまう…
出演役者
本作の主人公、マイクを演じるのが「アーミー・ハマー」
仕事のパートナー、トミーを演じるのが「トム・カレン」
マイクの彼女、ジェニーを演じるのが「アナベル・ウォーリス」
配信コンテンツ
「ALONE」は今現在、Amazonプライム、等で配信されている。
ネタバレ感想と考察
描かれるシチュエーションスリラーの大道を行く内容!!
この手のジャンルを好きな人もいるだろう「シチュエーションスリラー」
このジャンルの中での一番の有名作と言えば、1998年の「キューブ」だろうか…。
そんなこの手の作品であるが、「SF系」と「災害系」の2つに分断された時、この作品は後者となる。
災害系シチュエーションスリラーで最も有名なのは2011年の「127時間」辺りだろうか?
その脚本も演出もこちらの作品に非常によく似たものとなっている。
本作はまさに「シチュエーションスリラー」の大道を行く脚本となっていたが、「砂漠のド真ん中」で一人取り残される恐怖が鮮明に描かれている。
それ故に起こる起承転結までの出来事も、非常にシチュエーションとマッチングした内容となっていた。
また、実は同じ「地雷を踏む」を題材とした映画作品も存在する。
2016年の「デッド・オア・リベンジ」だ。
こちらでは地雷を踏んだばかりに女性が乱暴される…という、奇想天外な物語が展開される。
イロモノシチュエーションスリラーとして楽しみたい人は、こちらもオススメだ。
「なぜマイクはターゲットを狙撃しなかったのか?」
物語の大きな疑問の一つとして浮かび上がってくるのが、「なぜマイクはターゲットを狙撃しなかったのか?」ということである。
全ての地獄の入り口となるこの不可思議な行為であるが。
理由は大きく2つあった。
1つ目は「ターゲットの頭に一般人の頭が重なっていたこと」
2つ目は「ターゲットの息子の結婚式であった」ということだ。
一つ目の理由は、まあ…わからなくもない。
…が、2つ目の理由に関しては、相棒のトミーでさえも打たないマイクに疑念を抱いていた。
その答え…それは「マイク自身もプロポーズを控えていたから」という理由で間違いないだろう。
マイク自身が帰国後に幸せな「結婚」をするにあたって、他人の結婚式を破壊する行為は、人1人の命よりもよっぽど重い引き金に感じたと筆者は考える。
映画の最後、マイクは無事に恋人のジェニーにプロポーズをするかのような終わりを見せるが、そのシーンに至るまでの「過程」がシチュエーションスリラーとは思えない濃密さを放っている作品だった。
事項では、そんな飽きさせない仕掛けの内容を紐解いていこう。
砂漠の中の52時間で何が起こっていたのか?
ただただ砂漠の真ん中に取り残された男を100分撮り続けていては映画としての面白みは一切感じられない。
本作がそんな中でも飽きずに鑑賞できたのは、様々な仕掛けが施されていたからだろう。
①仲間の死
マイクが地獄へ落ちるきっかけとなる最初の爆発は、仲間の地雷爆発から訪れる。
この仲間の姿を見てしまっては、動くにも動けないマイクの心情がよくわかる。
②砂嵐
砂漠というシチュエーションならではの災害ももちろん訪れる。
それがこの砂嵐だ。
この砂嵐を地雷を踏んだままやり過ごさなければならないのは地味にキツい…。
そしてマイクの持つ荷物の一部が飛ばされてしまう。
③ベルベル人の登場
本作のキーマンにもなるこのベルベル人。
どこか飄々とはしているが、彼もれっきとした地雷被害者だった。
彼は「1歩前に進むこと」を唄う哲学的立ち位置を築いていたが、この点は正直よくわからない…。
④ハイエナの襲来
足を動かせないマイクに襲いかかるハイエナ。
朝も夜も油断できない状況を作り上げた。
⑤幻覚と眠気
2日目に入り、マイクは幼少期のトラウマを思い出す幻覚を見る。
そしてそんな幻覚の暴力により、眠気を吹き飛ばされるシーンもあった。
⑥テロリスト
マイクを狙うテロリストがここでも登場する。
足が動かせないマイクであるが、見事にこれを狙撃。
戦争映画らしいシーンは後にも先にもここだけ。
「砂漠」というワンテンポな環境の中でも、これだけ飽きを感じさせずに観れる要因はここにあったといってもいい。
また、一見単調に見える作品構成の中でも、しっかりとキャラクターとそのバックボーンの設定がされている点は、非常に秀逸であったと感じた。
例えば、物語の序盤で亡くなるトミーは、作品の後半までしっかりとマイクの幻覚として登場し続け、そんなマイクはトミーの幻覚に時には恐怖し、時には励まされ、生き抜く姿が描かれている。
そして作中を通して「キーマン」として登場したベルベル人であるが、前半では本作における「悪者」的立ち位置で描かれている。
しかし物語の後半、彼も「地雷で足と娘を失った」という現実が突きつけられることにより、「マイクの救世主」となり、客観的な立場の逆転が起こる。
思い返せば、数あるシチュエーションスリラーの中でもここまでの感動と「ハッピーエンド」を与える作品は、実は少ないのではないだろうか?
恐怖と焦燥を煽るスリラー作品が多い中、ここまでの感情の浮き沈みをさせる監督の手腕には、素直に拍手を送りたい脚本となっていた。
さて、ここまで本作品の肯定的な感想を述べてきたが、よくできた脚本だけに「もったいない」と感じる部分もあったので、事項ではそれについて書いていこう。
作品テーマについては…少々難アリ…!?
シチュエーションスリラー作品には「大きなテーマの掲げられた作品」と「テーマの無い不条理な作品」の2種類が存在する。
どちらのタイプも面白く鑑賞できる作品が多いが、今回の作品はテーマと内容が噛み合っていなかったようにも感じられてしまう。
マイクは幼少期、「父親からのDV」を日常的に目の当たりにしており、自身も同じ血の気の多さを見せ、最愛の女性に対しても暴力的な行為を働いてしまう自分に恐怖を感じていた。
自身のトラウマと戦うシーンも存在はしている…のだが、
「地雷を踏む」という極限のシチュエーション自体と一切関係がないのが勿体ない部分でもある。
また、映画の数少ない登場人物のベルベル人であるが、マイクに「1歩踏み出す勇気」を唱え続ける。
これがなかなかに深そうで、浅いように感じてしまう…。
挙句は地雷被害者であるはずのベルベル人は恐れもせずに地雷原へと足を踏み入れ、夜中に襲撃したハイエナはいつの間にか消えてしまう…。
プロットしては悪くなく…
アーミー・ハマーという実力派俳優も迎え入れたハズなのに…
惜しい部分もある作品と筆者は考える。