「CLIMAX(クライマックス)」ネタバレ感想と考察【22人のダンスパーティにドラッグが盛られる…】

  • 2021年10月8日
  • 2021年10月8日
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本記事は、映画「CLIMAX(クライマックス)」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。

鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。

CLIMAX(クライマックス)

2018年、ギャスパー・ノエ監督によって制作された作品。

22人のダンサーが集められ、ドラッグパーティに陥る物語。

上映時間は96分。

あらすじ

舞台はフランス、1996年の冬、とあるダンスクラブには22人のダンサーが集められ、ダンスショーの練習を行っていた。

入念なリハーサルを終え、メンバーや関係者は打ち上げパーティを開くこととなるが、飲み物として提供されたアルコールには謎のドラッグが混じっていた…。

出演役者

本映画の主人公、振付師のセルヴァを演じるのが「ソフィア・ブテラ」

フランス人の女優兼ダンサーで、本映画に出演する唯一の女優でもある。

22人のダンサーに関しては、全員が本物のダンサーであり、俳優業は未経験である。

ネタバレ感想と考察

個性が溢れすぎる!!メンバー達を今一度振り返る。

映画界に衝撃を与えた本作、そのブッ飛んだ脚本と演出にはまずは驚くこととなるだろう。

物語の後半にもなるともはや訳が分からない、「LSD」に染まった人間たちで阿鼻叫喚のフロアが描かれるが、そんな中にも22人のダンサーの個性が光り、それぞれの思惑が渦巻く人間模様も描かれている。

 

・セルヴァ

本映画の主人公的立ち位置。
このダンスパーティの主催者の一人で、
振付師のダンサーである。
冒頭のインタビューは彼女によるもの。

 

・エマニュエル

このパーティのマネージャーであり補佐係。
息子のティトーを連れてきていて、
打ち上げでは、全ての元凶となった
お手製の「サングリア」を振る舞う。

 

・ダディ

DJを担当する黒人男性。
セルヴァと共にパーティを主催する。
ゲイであり、ライリーを気にかけ、部屋に呼び込む。

 

・ルー

黒髪ポニーテールのダンサーであり、
数少ないお酒を飲まなかった一人。

「妊娠」しており、中盤でそれをセルヴァに暴露する。
「サングリアを飲まなかったこと」をきっかけとして、
ダンサー達から糾弾され、自分で自分を傷つける。
映画の冒頭で雪の中で泣き叫んでるのは彼女である。

 

・ダヴィッド

坊主のダンサーであり、本映画でも登場シーンは多い。
自他ともに認める色魔で、数々の女性に声をかけてはフラれる。
映画の最後で横たわる彼を中心に場面転換する。

 

・キラ、バート

ゲイカップルの黒人ダンサー。
物語の始まり、腕を高速で回すダンスを披露しているのがバートである。

キラはあまり見せ場が無い。
物語後半では二人で白いクリームを塗りあっている。

 

・プシュケ

ドイツ人の長身のダンサーでレズビアン。
イヴァナと付き合っている。

全ての元凶は彼女であると考えていいだろう。
彼女がサングリアに「LSD」を仕込んだ犯人のような描写で幕を閉じる。

 

・ガゼル、タイラー

兄妹で参加する黒人のダンサー。

タイラーは妹に過保護すぎる愛情を寄せ、ドラッグを摂取した際は、妹を強姦する。
一方でガゼルはオマーと交際しているが、兄のテイラーには快く思われていない。

 

・ジェニファー

コカイン中毒のダンサーであり、ダンスシーンは少ない。
ダンス中、バク転を繰り出す動きが印象的。

ダンスよりもコカインを摂取しているシーンが多く、
パーティ後半でランプが髪の毛に引火し、大火傷を負う。

 

・イヴァナ

レズビアンのダンサーで、プシュケと付き合っている。
パーティではプシュケに相手にされず、疲れ果てたセルヴァを部屋に呼び込みセックスする。

 

・エヴァ

細身の長身女性ダンサーで、映画のジャケットの中心に位置する。
あまりアルコールを摂取せず、後半まで正気を保っていた。

糾弾させるルーを助けようと試みるも失敗。
体に付いた血を洗い流すためにシャワー室に閉じこもる。

 

・ドム

黒人の女性ダンサーで丸坊主。

男勝りな性格でダンスを楽しむが、
妊娠したルーに対して、蔑む言葉を投げかけ、
お腹を蹴るなどの暴力を振る舞う。

 

・ライリー

本作の最年少ダンサーでありゲイである。

ダヴィッドと付き合おうとしているが、
結果叶うことなく、ダディと一緒に寝室にて就寝。

 

・サイボーグ

ニット帽がトレードマークの黒人ダンサー。
物語前半ではロッコと陽気に語り合っている。

物語後半ではフロアにてアライアと公開セックスをしている。

 

・ロケット

黒人のダンサーでゲイである。
ダンス時は女性のような恰好をしている。

 

・シャーリー

シラ、セルパンと行動を共にしているダンサー。
あまり見せ場が無い印象...。

最後はDJデスクで突っ伏している。

 

・オマー

ガゼルと交際しているがテイラーには良く思われていない。

アルコールを摂取しない人間で、パーティ一番最初の犠牲者。
「お酒を飲んでいなかったこと」をきっかけにメンバーから糾弾され、
豪雪の野外に追い出され凍死する。

 

・アライア

長身の女性ダンサーで、コカインを求めて彷徨う。
物語後半ではサイボーグとセックスしている。

 

・ロッコ

寡黙な黒人ダンサー。
物語前半でサイボーグと和気あいあいと話している。

 

・シラ

黒人の女性ダンサー。
本作で一番見せ場が無いキャラクター...。

 

・セルパン

体の関節を自由自在に外せるダンサーであり、
その手のダンスを得意としている。

作中の要所要所で関節を外し、
揺らいでいる彼の姿が確認できる。
この映画の作り上げる「狂気」は彼の影響が大きいだろう。

映画の主要人物となるメンバーを箇条書きしてみたが、何よりも凄いことは、これらの役者たちがほとんどが「演技未経験」であり、「本物のダンサー」であることである。

ダンサーたちの演技力の高さに、まずは驚くこととなる。

さらに「最初のダンスシーン」以外は全てが即興で行われているというのがまた驚きの要素だろう…。

そんな素人同然のダンサーを数多くキャスティングする点においては、やはり本作の監督の光るセンスによるものが大きい。




「狂気」溢れる映画の撮り方、これが「ギャスパー・ノエ」だ!!

本作の映画、なんと言ってもその撮影方法や演出の見せ方に、これまでの映画では見られなかった特徴が多い。
まずは本映画が「二部構成」であることだ。

本映画は「ダンスリハーサル〜打ち上げ開始」の前半と「打ち上げ中盤〜地獄のドラッグパーティ」の後半の二部構成となっている。

物語序盤ではこれから作品で躍動する22人のダンサーのインタビューシーンをリアルに撮り、そこから映画へと突き進んでいく。

インタビューシーンでのテレビの両脇に積まれるVHSの数々は知る人ぞ知る名作であり、これらはギャスパー監督のお気に入りの映画を取り揃えていたようだ。

そして、ダンスのシーンを中心に映画の要所要所で確認できるのが、登場人物の動きを「真上」から撮影するシーンだろう。

本映画のプロットが「ダンス」であることから、この映画の撮影方法はこれまでに無い魅せ方として光っている。

ちなみに、これらのシーンはクレーンを用いて撮影されている。

また、映画の部分が切り替わるシーンでは、本映画の「演出」「音楽」そして「スタッフ」などが、DJの音楽に合わせてロゴが切り出され、斬新で面白い魅せ方となっている。

本映画には「セローン」「ダフト・パンク」「トーマ・バンガルテル」「エイフェックス・ツイン」といった有名アーティストも名を連ね、音楽的演出も申し分ないものとなっている。

そして物語後半、ティトーが感電死し、フロア全体が停電するシーンでは、20分近くの間、「上下反転」した映像が流れている。

本映画最大の「狂気」の見せ場であり、LSDをキメていない鑑賞者の目線でも軽い「トリップ」を疑似体験できたのではないだろうか?

本映画の監督、「ギャスパー・ノエ」はこれまでにも「衝撃作」であったり、「問題作」としても名高い「カノン」「アレックス」を監督し、「フランス映画界の鬼才」として名を馳せている。

そして、これらの映画でもギャスパー・ノエらしい斬新な映画の撮影や演出が組み込まれている。

本作の入りであるシーンでは「誇りをもって世に出すフランス映画」という謳い文句も大きく見出しとして演出され、ギャスパー・ノエらしい映画のパフォーマンスを見せてくれていた。

物語は…リアル…??本質的なテーマは…??

映画が始まってすぐ、「この物語は1996年、冬の実話に基づく」という表記が出てくるが、これは本当なのだろうか??

色々と調べてみたが、実際のドラッグパーティが行われた具体的な記録はヒットしなかったが、これが有名な事件になっていないだけで、実際にあった事件である可能性は十二分にあるだろう。

映画自体は1996年の事件にインスパイアされて制作したと監督自身も語っているのだ。

また、本映画のアイデアは日本の東京、青山にあった「MANIAC LOVE」という実在するクラブから着想を得たと言われている。

物語のアイデアがまさか日本から生まれていたとは…驚愕の事実だ。

また、昨今の日本では「ハプバー」なる遊び場もひっそりと動いている。

これと似たような空気感を感じた人も一部は居るだろう。

また、本映画の本質的なテーマは、実は「薬物の怖さ」そして「アルコールの怖さ」である。

正常に理性を保っていたダンサー達が徐々にトリップしていく姿は、監督の狙い通りに鑑賞者の目に映っただろう。

ちなみにこの映画、アルコールやドラッグといった危険に一番巻き込まれやすいのがティーンエイジャーであるにも関わらず、「R-18」という年齢制限がある。

これは本末転倒では…?と思ってしまうのは筆者だけだろうか…。