「騙し絵の牙」ネタバレ感想と考察【出版社の利権を暴くミステリー!】

  • 2023年6月18日
  • 2023年6月21日
  • 映画
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本記事は、映画「騙し絵の牙」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。

鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。

「騙し絵の牙」

2021年、吉田大八監督によって制作された作品。

出版社の小説作品の利権の闇の物語。

上映時間は113分。

あらすじ

舞台は日本、「薫風社」で発行している「小説薫風」で編集を務める高野は、隠れる才能を発掘する先見の明を持ちながらも、その情熱故に暴走することもあった。

そんなある日、雑誌部門に移動となった高野は、雑誌「トリニティ」の編集長、速水と出会う…。

出演役者

本作の主人公、小説薫風の編集者、高野を演じるのが「松岡茉優」

 

本作のもう一人の主人公、雑誌「トリニティ」の編集長、速水を演じるのが「大泉洋」

 

配信コンテンツ

「騙し絵の牙」は今現在、Amazonプライム、Netflix、U-NEXT、Hulu、等で配信されている。

Amazonプライム

NETFLIX

U-NEXT

Hulu




ネタバレ感想と考察

大泉洋が中心で周る映画界

「大泉洋」と言えば、三枚目のキャラクターとしてよく映画に登場するイメージをお持ちの鑑賞者も多いだろう。

実際、彼のどこかアンニュイなキャラクターは、三枚目に見えながら何を考えているのかわからないような不思議なキャラクターに仕立てあげてくれる。

内田けんじ監督が2007年に制作した「アフタースクール」のイメージを持つ鑑賞者も多かったことだろう。

ここら辺から大泉洋の演じるキャラクターは、どこか裏のあるキャラとして出演することがかなり多くなってきたと感じている。

 

もちろん本作でも、彼はそんな立ち位置。

最早、どんな映画でも「大泉洋」を崩さないキャラクターとして設定され、寧ろ「映画側」が大泉洋に寄せて来ているようにすら感じるだろう…。

そしてこの物語、本当にそうであるのだから面白い。

今回の原作となるのは「罪の声」などで知られる塩田武士。

彼は小説の執筆時、主役に「大泉洋」をイメージして「あてがき」したと言うのだ。

本当はその大泉本人が主役を務めた、まさにハマり役中のハマり役だったのだ。

二度の見事などんでん返し映画!

大泉洋に依存しきったような作風であるが、そのオチは実は「二重」に仕掛けられていたのも面白い要素だ。

まずは第一のどんでん返し。

大泉洋演じる速水は、高野が見つけ出した才能「矢代聖」を連れて来るが、これは全くの別人だった。

ここまで場を引っ掻き回した大泉洋が、最後の一撃に放つどんでん返しである。

大抵の映画ならこの流れで幕引きとなりそうな場面となるが、ここから更に二度目のどんでん返しがある。

それは高野が薫風社を退職し、自ら出版社(のようなもの)を立ち上げる、という内容だ。

大泉洋がここまでに「してやられる」ミステリーは後にも先にもこの作品しか観たことがない…。




「旧体制」を切り崩すアンチテーゼ作品!

元々この物語で取り上げられるテーマは、「利権に塗れて無難な作品しか取り上げなくなった週刊誌」というものだ。

期待の新人小説家が出てきても、「同じような内容」ばかりを描き続ける大御所小説家に居場所を奪われる流れが描かれていた。

そして、そんな利権に立ち向かうのが雑誌「トリニティ」の編集長速水である。

彼の打つ企画はどれも全てが斬新でセンセーショナル、厳格な出版社の空気感に飲み込まれず、これからの「時代」を感じさせるような仕事ぶりを見せつけられるのは、とても心地が良かった。

また、そんな大御所たちの作品を「漫画化」してしまうという内容も、斬新であり「リアル」にも感じていた。

これからの名著もこんなアレンジが増えてきそうな予感がする。

時代は周り巡って根源へとたどり着く。

見事すぎる映画のラスト、これこそが一番「現代のマーケティング」においての成功のテンプレートと言ってもいいだろう。

物語の中番から、速水は「web媒体」や「Amazon独占販売」などの現代的な戦略に乗り出す。

まさに時代をそのまま鏡に投影したような内容だろう。

映画の中での、高野の父が営む本屋の中でも「ダウンロードしてあるから〜」という小学生の会話も目立っていた。

そんな全てを「web化」する速水に対して、薫風社を退職した高野は「ここでしか販売しない書籍がある本屋」を打ち出すこととなる。

これが非常に見事で、「さすが本をテーマにした映画!」と拍手を送りたいと思う。

この原作小説を作り上げた塩田武士は、「出版業界」を4年間徹底取材した上で書き上げた作品だと語る。

その努力がこの結末に結びついた。

世の中は全てが「需要」と「供給」で成り立っている。

2023年の現代、「レコード」というアナログな機器が価値を持つように、「本」というカルチャーだけでなく、社会全体の構造を体現した物語となっていた。

長々と書いてきたが、あくまでも筆者自身の偏見100%の感想であることを、どうかお許し願いたい。