この世界の片隅に【ネタバレありなし徹底考察】

本記事では、
前半で、映画紹介&見どころレビュー
後半で、ネタバレ解説&徹底考察を行います。

「この世界の片隅に」

2016年11月に片渕須直監督により公開されたアニメーション映画。
第二次世界大戦時の広島を描いた戦争作品。
2007年、こうの史代により描かれた同名漫画作品が原作となる。

あらすじ

1944年2月、舞台は日本の広島。
広島市江波に住む18歳の主人公「すず」は、絵を書くのが好きな少女だった。
そんなある日、同じ広島県の呉市の「北条周作」の嫁に嫁ぐこととなる。
おっとりしてマイペースなすずは、北条家の人間達と最初はギクシャクするも、
だんだんと馴染んでいくことができた。

その矢先、呉市は度重なる空襲を受ける日々が始まることとなる…

出演キャラクター

主人公の「浦野すず」(cv.のん)

 

すずの旦那である「北條周作」(cv.細谷佳正)

 

すずの幼馴染の海兵隊「水原 哲」(cv.小野大輔)

 

すずの義理姉「黒村 径子」(cv.尾身美詞)

見どころ①「ふんわりした作画に似合わない、戦争映画としてのギャップ」

今作は漫画作品を原作として描かれたアニメーション映画で、
映画でも原作同様の作画で描かれているが、そんな可愛らしいタッチに似合わず、
内容は重いものとなる。

「呉の空爆」、そして「広島原発」を題材に描かれた作品で、心情的な描写も、
空襲の描写もしっかり描かれており、ストーリー構成も複雑な作品となる。

そんな目を背けたくなるようなストーリーがふんわりしたタッチで描かれているはずなのに、
違和感を感じることなく入ってくる不思議な映画であると感じる。

見どころ②「日本史上初、異例のロングランヒット作品」

今作の公開は2016年11月、63カ所での公開として封切られたが、
あまりの人気ぶりにその後も伸び続け、2019年まで衰えることなく、
500カ所近くで1133日の連続上映という日本史上初の快挙を成し遂げた作品だった。

その他でも、数々の映画の大賞を受賞し、2019年12月には、
約40分の新規場面を付け足した別バージョン作品として再度公開されるなど、
衰えることを知らない作品となっている。

また、映画制作時には「クラウドファンディング」により一部資金を調達したことでも
よく知られ、日本国民が一丸となって世界に発信した映画であると考えてもいいだろう。

現に日本国外では、世界60以上の国と地域で上映され、
世界に影響を与えている現状もある作品である。

映画館でも、Blu-ray/DVDでも、ネット配信ランキングでさえもトップに躍り出た今作、
その人気ぶりが頷けるような作品に仕上がっているので、観ておいて損はない一本だろう。

配信コンテンツ

「この世界の片隅に」は今現在、
Amazonプライム、Netflix、U-NEXTHulu、等で配信されている。

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※ここからネタバレ解説

呉市に嫁いだすずは、だんだんと打ち解けていき、北条家に馴染めるようになるが、
その矢先、呉市に空爆に脅かされる日々が訪れるようになった。

空爆に脅かされる中でも、水夫になった幼馴染の水原との再会や、
遊女であるリンとの出会いなどで、「北条すず」として日々成長していったすずであった。

そんなある空爆の日、義理姉である「黒村径子」の娘の「晴美」を連れたまま避難したすずは、
時限爆弾により、晴美と右腕を失ってしまう。
径子に娘のことを責められ、居場所が無いと感じていたすずは広島市へ帰省することを決断する。

そして8/6の帰省当日の朝、
病院の予約があるため帰省を遅らせたすずは径子と和解することができ、
同時に広島に原爆が投下されたことを知る。

原爆から難を逃れた呉市で過ごすが、ラジオで「日本の敗北と終戦」を告げられる。

「一億玉砕の覚悟とは何だったのか」と怒りをあらわにするすずであったが、
一人走りたどり着いた畑で、「何も知らないまま死にたかった」と泣き崩れる。

時は経ち12月、呉市の軍港で、水原の乗っていた軍艦が大破し漂流しているのを見つけ、
傍らで軍艦を眺める水原も発見するが、話しかけることなくすれ違う。

全てが無くなった広島市内で、
すずはこの世界の片隅で自分を見つけてくれた周作に感謝し、
原爆孤児である少女を連れて北條家に戻る。
空襲に怯える必要がなくなった呉の夜には街の灯りが戻っていた。

ネタバレ徹底考察

物語の散りばめられた伏線

今作の作品、内容はかなり重いものでありながら、
非常に柔らかいタッチで描かれたアニメーション作品となっている。

そんなアニメーションに隠された数々の伏線が今作を盛り上げた要因の一つであるだろう。

「物語の伏線」
・物語の最初の「人さらい」
これの正体は戦死したお兄ちゃんである。
すずは空想の中で、「ワニをお嫁さんに貰って南の島で暮らしている」と妄想するが、
映画の最後、橋の上で登場する人さらいの籠にはワニが入っている。

・周作との出会い
「過去に一度会っている」と漏らす周作だったが、幼少期に一度会っている。
海苔を届けに行く途中に迷子になったすずは人さらいの籠の中で周作と会っていたのだ。

・座敷童
幼少期にスイカを食べるシーンで座敷童が出てくるが、
その正体は、広島の街で迷子になった時に、道を教えてもらう遊女のリンである。
原作の漫画では主要キャラクターの一人として描かれているリンだが、
映画では尺の関係上、描かれていない。
エンディングクレジットの、「クラウドファンディングの皆さん」が流れるシーンで、
背景にリンのストーリーが流れている。

また、「遊女のリン」以外にも、原作でしか描かれない伏線も多く、
映画では無かった、戦争以外の独特の雰囲気があるのも特徴である。

こちらも人気作なので、是非とも読んでみてほしい。

スポットライトは「戦争」そのもの

第二次世界大戦の広島が舞台と言えば、もちろん広島原発がストーリーの核となるものであるが、
肝心の原発のシーンは意外にもあっさりとしていたことに気が付いただろう。

今作の映画は珍しいことに、隣町である「呉市」が舞台であり、
原発の描写も従来の原発作品とは、違った角度から描かれている。

呉市も大きな空爆の被害があったこともまた事実であり、広島市のことももちろんだが、
被害があった地域全体、しいては「戦争」というもの自体にスポットライトが大きく当てられた
作風は、全く新しいタイプの映画となったのだ。

すずの妹である「すみ」は、広島市に住み、広島原発の被爆者であったが、
荒れ地と化した呉を訪れた際は、しゃがんで線香をあげる「すみ」と、
ただただ呆然と立ち尽くす「すず」が描かれる。

住んでいる場所の違いにより、ここまで心境に変化が表れているのもリアルな心理描写であり、
とても細かく描かれている。

沈んでいくすずの心

物語中盤、右手を失ったすずが色々な人から「生きていてよかった」と声をかけられるが、
本人は「なにがよかったの?」と心の中で嘆く。
最初では楽観的でおっとりマイペースなすずが描かれていたが、
物語が進むにつれ、心理的に追い込まれネガティヴな考え方になっていってしまう描写が、
戦争の恐ろしさを物語っている。

事実、終わり近くの終戦を告げられるシーンでも「何も知らないまま死にたかった」
泣き崩れ、ネガティヴから脱却できていないすずを観ると、心が震えてしまう。

そんな中でも、決してネガティヴな面だけでなくそれを明るくも描いていることが、
今作の見どころでもあるだろう。

印象に残ったシーンとして「空爆により水面にあがった魚を喜ぶシーン」などは、
悲しみの中にも喜びを見出しているように見え、当時の人々の強さが垣間見えるような
描写となって、今でも脳裏に焼き付いている。

何度観ても色あせることなく、寧ろ観るたびに違った感情を呼び起こさせてくれる作品だろう。