「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」ネタバレ感想と考察【9人の翻訳家の密室ミステリー…】

  • 2021年11月13日
  • 2022年2月28日
  • 映画
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本記事は、映画「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。

鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。

9人の翻訳家 囚われたベストセラー

2019年、レジス・ロワンサル監督によって制作されたフランス・ベルギーの合作映画。

とある有名著書の翻訳に集められた9人の男女の数奇な物語。

上映時間は105分。

あらすじ

舞台はフランスの人里離れた村。

全世界待望のミステリー小説「デダリュス」の最新巻が出ると盛り上がりを見せる中、この本の「翻訳」に9人の翻訳家が集められた。

「世界同時発売」を目論む出版会社は、情報の流出を恐れ、携帯電話などのありとあらゆる電子機器を没収し、村の地下施設にて翻訳作業をさせるのだった…。

しかしそんなある日、出版会社に脅迫のメールが一通送られてくる…。

その内容は「最新巻の冒頭10ページをネットに公開した。500万ユーロを振り込まなければ次の100ページも公開する。」といったメールだった…。

出演役者

出版会社の社長であるアングストロームを演じるのが「ランベール・ウィルソン」

フランスを代表する俳優であり、あの「マトリックス」シリーズにも出演している。

本作では彼の独白によって進行する描写がある。

 

英語の翻訳家として雇われるアレックスを演じるのが「アレックス・ロウザー」

イギリス出身の若き俳優であり、本作での主人公は彼と言ってもいいだろう。

名こそ知られていないが、次の世代を担う名俳優だろう。

 

ロシア語の翻訳をするカテリーナを演じるのが「オルガ・キュレンコ」

ロシア出身ながらフランスで活躍する名女優の一人で、ハリウッドなどのアクション映画への出演が多い。

MARVEL作品007シリーズへの出演もしている。

ネタバレ感想と考察

まさかの実話!?「あの有名作品」で実際に使われた翻訳方法!!

「9人の翻訳家を閉じ込めて翻訳させる…」

映画のプロットとしては、面白くオシャレに仕上がりながらもなかなかぶっ飛んだ脚本で、「翻訳家達をシェルターに閉じ込める」という人権を無視したような演出が本作の脚本の面白さでもあるだろう。

しかし掘り下げてみると、どうやらこれは「実話を元として作られた作品」らしいのだ。

元となった小説があの「ダ・ヴィンチ・コード」シリーズで有名なダン・ブラウン氏の本である。

彼の著書である「ロバート・ラングドン」シリーズの4作目となる「インフェルノ」の出版の際、違法流出を恐れた出版元がブラウンの同意のもと、各国の翻訳家を地下室に隔離して翻訳を行なったとの実話をベースにした物語が本作となっていた。

まさかまさかの「本当」の脚本に度肝を抜かれながらも、地下施設においての「殺人」や「脅迫」、そして「流出」に関しては、さすがにフィクションである。

それでも「海賊版の流出」という問題が映画に留まらず、リアルに小説でも起きていることには、改めて度肝を抜かれてしまった。

有名小説は侮れない。

何度も起きる「大どんでん返し」と作品評価

映画の見出しとなる大きな一言「ラスト30分のどんでん返し」

今でこそ当たり前である、物語の脚本が一転するこの演出であるが、こんな映画が多すぎて、映画マニアの目は既に肥えてしまっている。

「あ〜またいつもの『どんでん返し』か…」

こんな言葉が口をついて出てきてしまいそうになるが、そんな本作はそれでも鑑賞者を唸らせる演出となっている。

この作品にはそんな「大どんでん返し」が3つ用意されているのがその要因だろう。

①集められた翻訳家はグルで、一部を除いた殆どが脅迫の犯人である。
②オスカル・ブラックの正体は英語の翻訳家アレックスだった。(エリックはもちろん、その他の翻訳家もこれを知らない。)
③世話役のローズマリーがエリックを裏切る。

トリックの中で、新たなトリックが展開されていくこの手法こそが、本作の高評価の要因に繋がっているのだろう。

また、物語の中では、この大きな「どんでん返し」以外にも、細かなところで予想を裏切る演出が含まれている。

それは「物語の登場人物」を含めた、「鑑賞者の皆さん」も騙しの渦に巻き込んでいく…。




時系列の進め方のトリックが秀逸だった!?

本映画では、シェルターの中に閉じ込められている物語が展開されながらも、その一方で「エリックとアレックスの対話」が挟み込まれる演出がある。

これは「地下施設での事件」が「過去の物語」であることを意味している。

実はこの手の演出はよくあるパターンで、「結果」を先に描き、そこに至るまでの「過程」を映画として観せる手法は過去にもたくさん描かれてきていた。

この映画でも例に習い、過去を振り返るように留置所でのやり取りが真相を解明させていく造りであるが、ここにも面白い仕掛けが2つも仕掛けてある。

①物語の中盤までエリックの会話相手が明かされない。

②アレックスが捕まり、エリックが面会に来ているような演出を見せて、実は立場が逆だった。

そう、この映画では「結果」を歪ませて鑑賞者に伝えている。

ストレートな考察でこの結果を紐解くと、「アレックスがエリックに捕まるまでの過程」を描くように見せ、それを裏切っていく手法はこれまでに見たことがない手法だったのだ。

まさに、「登場人物」と「鑑賞者」、そして「犯行仲間の翻訳家」さえも騙す演出は、原作「インフェルノ」にも負けない脚本と言ってもいいだろう。

また、この演出は「カテリーナが原稿を盗んでいるように見せる」…など、それ以外のシーンでも見受けられる。

見事な演出の数々はそれを「伏線」へと落とし込む材料となっていたが、それが一方で「わざとらしさ」に繋がる要因ともなってしまっているようだ…。

秀逸な脚本なのに…評価はイマイチ…?

この映画は数ある「ミステリー映画」の中でも高評価が付けられ、日本の映画サイト「firmarks(フィルマークス)」では「3.8」の星を獲得している。

その一方で、アメリカの有名映画評論サイト「rotten tomatoes(ロッテン・トマト)」では高評価は64%と、決して良くはない数字となっていた。

その秀逸な脚本もさることながら、「文学」をテーマとしたオシャレなプロットには、この評価の原因が気になってしまうだろう…。

言われてみれば、アレックスや、その他キャラクターの立ち回りには「違和感」が見えてしまうような描写もある。

これ見よがしなスペインの翻訳家「ハビエル」の骨折ギプスであったり、殺人を厭わないほどの重要な書類をカバン一つで電車で持ち歩くエリックだったり…。

また、9名も登場人物する翻訳家たちの一人一人の個性が薄く感じてしまったのも否めない。

これと引き換えに「映画の脚本の作り込み度」を優先した結果と筆者は考えている。

何よりも、過激なアクションやサスペンスが好まれる米国では、物足りなさを感じてしまう人も多かったのだろうと推測する…。