本記事は、映画「パンズ・ラビリンス」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。
パンズ・ラビリンス
2006年、ギレルモ・デル・トロ監督によって制作された作品。
スペイン内戦時代を舞台とした状況下で、一人の少女が迷宮に迷い込む物語。
上映時間は119分。
あらすじ
舞台はスペイン。
内戦が終わり、暗黒の時代を迎えていたが、そんな軍の大尉の元に、少女オリフィアとその母親が引き取られる。
母は大尉の子である男の子を身ごもっており、オリフィアは、義理の父親である大尉からも煙たがられる存在となっていた。
そんなある日、軍の敷地内にある古い遺跡に迷い込んだオリフィアは、そこで迷宮の番人「パン」と出会う…。
出演役者
本作の主人公オリフィアを演じるのが、「イバナ・バケロ」
スペインの女優であり、数々のスペイン映画に出演している…はずであるが、何故かWikipediaが作成されていない。
オリフィアの母親であるカルメンを演じるのが、「アリアドナ・ヒル」
彼女もまた、数々のスペイン映画に出演しているが、彼女もまた、日本における知名度は無い。
カルメンとオリフィアの使いであるメルセデスを演じるのが「マリベル・ベルドゥ」
本映画の出演者の中で、一番知名度が高いのは彼女だろう。
映画のみならす、TVや舞台にも数多く出演し、数々の「女優賞」を獲得したり、ノミネートされたりしている。
カルメンの妻であるビダル大尉を演じるのが「セルジ・ロペス」
スペイン出身の俳優であり、彼も数多くのスペイン映画に出演している。
配信コンテンツ
「パンズ・ラビリンス」は今現在、Amazonプライム、U-NEXT、Hulu、等で配信されている。
ネタバレあらすじ
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~昔むかし地底の奥底に、魔法の世界が存在していました。
そこには一人のお姫様が居ましたが、太陽やそよ風を求めて、従者の目を逃れて地上へと上がっていきました。
しかし地上に上がった瞬間、その眩しさに目が眩み、全ての記憶を失ってしまいます。
彼女は自分がどこから来たのかも忘れ、死んでいってしまいました…。~舞台はスペイン、そんな本を車で読んでいる、主人公オリフィアがいた。
この時代、内戦が勃発し続けるスペインで、母親のカルメンとオリフィアは軍の基地へ避難してきたのだった。
途中、オリフィアは一匹の虫と出会い、それを「妖精」と揶揄するのだった。
基地に着くと、義理の父であるビダル大尉が二人を冷遇する。
ビダルはカルメンやオリフィアに対しての愛は無く、お腹の子供だけに興味を持っているのだった…。
「なぜ再婚したの?」というオリフィアの問いに、「一人は辛いから」と答えるカルメンだった。
ビダルはとても冷酷な人間としても有名で、今日も「狩猟」をしに来ただけの親子をまとめて殺害する。
そんな目をくぐり抜けて、オリフィアは昼間の「妖精」に導かれ、敷地内にある古い迷宮の遺跡 へと足を踏み入れるのだった。
遺跡への階段を降りると、そこにはこれまでに見たこともない「怪物」が立っていた。
彼の名前は「パン」。
この迷宮の番人であり、オリフィアこそが「記憶を無くしたお姫様」であると、信じ込んでしまう。
そしてそんな「お姫様」として地底の世界に戻るために「三つの試練」をこなすことをオリフィアに告げ、一冊の本を渡すのだった。
そしてある日、突如本に文字が浮かび上がってくる。
その本の内容は、「製粉所のそばの枯れた大木の幹の中、カエルの口に魔法の石を放り込み、お腹からカギを取り出す。」という試練だった。
彼女が木の幹に入ると、中は泥だらけで虫も沢山生息していた。
そんな奥底に、 カエルは居た。
カエルに虫と一緒に石を食べさせると、胃袋ごと吐き出し、萎んでしまう。
そして無事にカギを手に入れるのだった。
夜カギを渡しに再びオリフィアが迷宮へ向かうと、そこにパンが現れる。
彼は試練の成功を喜ぶと、次の試練として一本のチョークを渡す。
翌朝、母親に隠れて本を開くと、真っ白なページがどんどんと血塗られていく…。
母親の叫び声を聞き母の元へ駆けつけると、お腹から大量の出血をしているのだった…。
医師から「絶対安静」を諭される父親のビダル大尉であったが、「いくら金がかかっても産ませろ」と冷酷に指示を医師に投げかける。
衰弱する母親にショックを受けて、オリフィアも気を落としていた。
そんなオリフィアの姿に、基地の使用人であるメルセデスはそっとオリフィアの肩を抱き寄せる。
おもむろにオリフィアは、メルセデスに対して、「ゲリラたちを助けているのね?」と投げかける。
メルセデスはこれに動揺する。
ビダル大尉を中心とする軍は、日々「レジスタンス」と交戦していたが、軍の人間に隠れてメルセデスは、食料や医療品を分け与えるスパイとしても働いていた。
これはレジスタンスの中にメルセデス自身の実の弟が居たことが理由であり、この「スパイ行為」がバレることは「自分の死」を意味することだった。
オリフィアがこれを告げ口しないことを知ると、再び肩を抱き寄せ、傷を舐め合うのだった…。
その夜中、メルセデスはレジスタンスへと食料の供給に向かう。
そしてそこには、同じくスパイであった医師も一緒について行く。
レジスタンスのアジトはとても悲惨な環境で、病気をした者や怪我をした者ばかりで溢れ返り、軍との戦争の悲惨さを物語っているのだった…。
時を同じくしてオリフィアは、母親の不調をパンに相談する。
するとパンは「マンドラゴラ」と呼ばれる植物をオリフィアに渡し、「母親のベッドの下に忍ばせること」を指示する。
そして本には「第二の試練」が浮かび上がってくる…。
それは「決して飲んだり食べたりせず、砂時計の最後の砂が落ちる前に宝を取りに行く。」というものだった。
彼女が壁にチョークで扉を描くと、石の壁が扉となり、異空間へ繋がる。
オリフィアは恐る恐る、そこへ足を踏み入れる。
その先は神殿のような場所へ繋がっていた。
奥底まで進むと、大きなテーブルの上座に、のっぺらぼうのような化け物が座っている。
微動だにしないその化け物を横目に、オリフィアはカギを手に入れるが、部屋の片隅には、オリフィアと同じくらいの年齢と思わしき「子供の靴」が大量に積まれていた。
そしてその帰りの際、テーブルに置いてあるブドウを二粒食べてしまう。
その瞬間、化け物は動き始め、オリフィア目掛けて襲ってくる。
彼女の試練の案内人をしてくれた妖精が化け物の時間稼ぎをしてくれたおかげで間一髪、宝を入手して脱出できるが、妖精は一匹を残して、残りは化け物に食べられてしまう…。
基地に戻ると、マンドラゴラの効力もあってか、母親の体調は回復へと向かっていた。
オリフィアはお腹のまだ見ぬ弟に、無事に産まれてくることを語りかける。
軍とレジスタンスとの交戦も激しさを増す一方となっていたが、レジスタンスのメンバーの生き残りが捕虜となり、拷問を受けることとなる。
ビダル大尉のあまりにも残酷な拷問を、メルセデスと医師は苦渋の思いで眺めることしかできなかった…。
夜、パンがオリフィアの部屋を訪れる。
オリフィアはバツの悪そうな顔で一匹しか居なくなったしまった妖精の小箱をパンに返すと、その瞬間、パンは憤怒する。
「金を破ったな!!」とまくし立てるパンに、たじろぐオリフィア。
「試練に負けた。王国には帰れない!」と叫び、パンは姿を消してしまうのだった。
明朝、捕虜を拷問したビダルは「死なせない」ために、医師に捕虜を診察させる。
捕虜は医師に「殺してくれ」とそっとお願いすると、医師は捕虜の思いを汲み取り、安楽死させる。
これをビダルは不思議に思い、レジスタンスと同様の「抗生物質」を持っていたことから、医師をスパイと見抜き、殺害するのだった。
母親の元へビダルが向かうと、ベッドの下にいるオリフィアを発見する。
そしてミルクに浸されたマンドラゴラを発見されてしまう。
怒ったビダルだったが、母のカルメンがこれを庇う。
そして「人生はおとぎ話じゃない」と語ったカルメンは、マンドラゴラの根を暖炉に放り込んでしまう。
マンドラゴラが火の中で悲鳴をあげると、カルメンはお腹を抑えて倒れてしまう。
無事に息子は出産するも、カルメンは死亡してしまう…。
母の葬儀も終わり、息子の子守りとしてメルセデスが抜擢されると、夜にビダルから「スパイ」の疑いをかけられるメルセデス。
そしてその深夜、メルセデスはオリフィアを連れて、レジスタンスの元へと逃げ出す計画を実行する。
しかし途中、ビダルにまんまと捕まってしまい、メルセデスは縛り付けられ、オリフィアは部屋に軟禁されてしまう。
メルセデスも拷問を受けようとしていたが、隠し持っていたナイフでビダルの口を切り裂くと、基地を抜け出し、アジトへ逃げ込むことに成功する。
一方のオリフィアの元には、なんと再びパンが訪れる。
「最後のチャンス」と語るパンは、第三の試練として「質問はしないで言うことに従うこと」をオリフィアに告げる。
パンからの指示は「生まれた息子を連れて、迷宮に来ること」であった。
息子は常にビダルの部屋で寝ている中で、オリフィアはビダルの部屋に潜入し、息子を攫おうとする。
ビダルの飲む酒に意識が朦朧とする薬を混ぜ、逃げ出そうとするオリフィアだったが、ビダルに発見されてしまう。
ビダルを無視して迷宮へ逃げこむオリフィアだが、ビダルも銃を持って追ってくる。
そして「地底の世界への門」では、パンが待っていた。
パンがオリフィアに最後の試練として「息子の血を数滴だけ捧げる」と言うが、オリフィアはこれを拒否する。
「王座を拒否するのか?」とまくし立てるパンであったが、「ええ、そのつもりよ。」と彼女も引き下がらない。
その時、後ろからビダルが追いついてくる。
そして彼の目には、一人で空虚と会話するオリフィアの姿が映っていた…。
「ではお望みのままに…。」
とパンが姿を消した時、後ろからビダルがオリフィアの肩を叩く。
そして子供を取り上げると、オリフィアに躊躇無く発砲し、迷宮を出ていく。
ビダルが迷宮を出ると、周りはメルセデスを踏まえたレジスタンスに囲まれていた。
全てを諦めたビダルは、息子をメルセデスに渡すと、「息子への遺言」を遺そうと伝える。
しかし「あなたの名前さえ教えない」と告げると、ビダルを銃殺する。
一方でオリフィアが目を覚ますと、そこは地底の世界。
そこでは自分の実の父と母が玉座に座っていた。
そこには妖精たちや、パンも立っていた。
「無垢な者の代わりに血を流したこと」を称えた王は、「最後の試練の成功」を告げると、オリフィアを玉座に迎えることを宣言する。
倒れながらもそんな妄想をするオリフィアをメルセデスが発見する。
そしてメルセデスは、死にゆくオリフィアの横で子守唄を歌う…。
ネタバレ感想と考察
まさかの夢オチ!?「妄想説」
この作品を最後まで観た人なら誰もが思うだろう…。
「コレって夢だったの!?」
そう。本作はそんなニュアンスを含むように演出されている。
特に最後のシーン、ビダル大尉に銃殺されたオリフィアは、亡くなったはずの母親と父親に出会い「王女」となるシーンが演出されているからだ。
そしてその場にはパンも居る。
これが「妄想」であることを肯定してみると、これまでの迷宮やパンの存在、そして試練の数々が、全てオリフィアの妄想によるものだったとも考えられてしまう。
これの伏線としては物語序盤の「童謡を愛する少女」としてのオリフィアの姿が描かれ、「カマキリのような虫」を「妖精」と揶揄しているオリフィアの姿が印象的だった。
そしてラスト、オリフィアはパンと話しているが、ビダル大尉の目にはパンの姿が映っていない。
これがオリフィアの妄想であったと捉えるべきか、はたまた全てが「現実」であったのか…?
考察は捗るだろう。
いやいや…そんなはずない!!「現実説」
一方で、これら全てが「現実」にオリフィアに起こった現象とも考えることができる。
中でもオリフィアの持つ「本」、そして「カギ」などのモノを所持していたこと。
そして「マンドラゴラの根」を母親のベッドの下に忍ばせた時には、奇跡とも思える超回復を見せる母の姿があった。
オリフィアの観たこれら全てが「現実」であってこそ「ファンタジー」であり、そう信じたいが、実は結論が出ているのをご存知だろうか?
本作を監督したギレルモ・デル・トロ監督は、インタビューの際に「パンは実在しているが、大尉には見えていない」と答えているようだ。(情報ソースは不明。)
監督自身がそう語っている以上、これがリアルであることは疑う余地が無いのであるが…
ここは「映画考察」の楽しみを考慮した上で、楽しめる作品にしておきたい。
「スペイン内戦」との関係性。
本作の舞台はスペインで、時代背景もかなりダークな「スペイン内戦」の終わりであった。
「スペイン内戦」と言えば、ピカソの「ゲルニカ」という絵画が有名であるが、誰もが見たことがあるこの絵画はこの戦争を描いたものである。
そして本作、そんな渦中の物語であったが、オリフィアのこなす試練に、この「スペイン内戦」に関するオマージュが潜んでいた。
語り始めるととてもきな臭くかたい話になってしまうので、ざっくり話すと、「迷宮へ迷い込む」=「内戦の悪夢」というメタファーとなっていたことだけは知っておいてほしい。
「第二の試練」で出てきた、皆にも大人気のバケモノ「ペイルマン」であるが、このシーンは、当時のスペインの「教会」、そして
「子供の食欲」が投影されたシーンのようだ。
また、「第三の試練」でオリフィアがパンに言われた試練、それが「質問をしないで服従すること」であった。
こちらも内戦時のファシズム思想に基づくものであったという説もある。
そして、そんな「スペイン内戦」が関連していた点は本作の「ファンタジー要素」には留まらない。
ここでキーキャラクターとなるのが、召使いである「メルセデス」の存在だ。
彼女の境遇は「敵であるはずのレジスタンスの中に自身の実の弟が潜んでいる」というものであったが、これは「内戦」ゆえに身内同士で中を裂かれてしまうリアルな戦争の惨劇とリンクしている。
そして、そんなメルセデス自身も常に「ナイフ」を隠し持っている点でも、「女性も武器も持つ戦争」であることのメタファーとなっていた。
数々の魅力的なキャラクターと音響効果!
本作の看板キャラクター「パン」であるが、彼の元ネタは実は、ギレルモ・デル・トロ監督が幼少期に見た、夢の中の生き物を具現化したものであるとインタビューでも語っている。
幼い頃、デル・トロ監督は祖母の家にある衣装タンスの後ろから「パン」が現れるのを見たらしく、これが作中のパンのアイデアの源泉とのことらしい。
ちなみに、羊を模した妖精や怪物の類は、ギリシャを中心に数々の物語で描かれていて、これがベースになったデザインと考えるのが一番自然だろう。
お待ちかね、みんな大好き「ペイルマン」であるが、こちらはなんと日本の妖怪「手の目」がベースとなっているらしい。
まさか日本の妖怪が、現代スペイン映画に登場することに何よりも「ファンタジー」を感じてしまう。
ちなみにこちらの「パン」と「ペイルマン」、どちらも演じているのは生身の人間、「ダグ・ジョーンズ」という俳優であった。
特殊メイクとCGを用いて制作され、摩訶不思議なキャラクターを演じてくれた。
またこの映画ではCGもさることながら、音響効果も面白く演出されている。
妖精や魔物の効果音、カギを入手したシーン、そしてビダルがカミソリで髭を剃るシーンにおいても、どこか鋭利に感じる音が鳴っている。
そんな音響効果の面でも、本作の「世界観」に大きな影響を与えている要素となっていただろう。