本記事は、映画「キッドナップ・マーダー」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。
キッドナップ・マーダー
2015年、ピーター・サリヴァン監督によって制作されたノンフィクション作品。
2013年に起きた誘拐事件を基づき制作されている。
上映時間は88分。
あらすじ
舞台はアメリカ、カリフォルニア州。
ごくごく普通の家族、アンダーソン家が平和な日常を過ごしていたが、ある日、隣人であるジムに、妻のクリスティーナ、息子のイーサン、娘のハンナが誘拐されてしまう。
これは2013年の実話に基づいた物語…。
出演役者
本作の主人公ハンナを演じるのが「ジェシカ・アムリー」
カナダ出身の女優であり、映画作品よりは海外のTVドラマ等での活躍が多いようだ。
本作の核となる人物、ジムを演じるのが「スコット・パターソン」
アメリカの俳優であり、ワイルドな無精髭が特徴。
本作以外では「SAW」シリーズに出演しているのが有名。
ハンナの父であるブレットを演じるのが「ブライアン・マクナマラ」
アメリカの俳優であり、映画作品やTVドラマなど、数々の作品に出演し、主にジャンルはクライムサスペンス作品が多い傾向にある。
配信コンテンツ
「キッドナップ・マーダー」は今現在、Amazonプライム、U-NEXT、Hulu、等で配信されている。
ネタバレあらすじ
- ネタバレあらすじを読む
- 舞台はアメリカ、カリフォルニア州サンディエゴ。山中の奥深くに、とある男性と少女が口論をしていた。
焦りを覚える男性は空に銃を発砲し、パニックに陥ると、その瞬間警官が男性に発砲する。
男性は殺され、少女は無事に保護されるのだった…。
舞台は移り変わり少女の病室。
無事に保護された彼女は16歳のハンナ。
目が覚めてすぐに母親と弟の安否を父親に聞くが、亡くなっていることを知って嗚咽する。
ハンナが「誘拐事件」に巻き込まれたことは既にアメリカ中で話題となり、ハンナが自宅へ帰宅した際にはマスコミの群衆から付きまとわれる帰路を辿る。
家に帰ったアンナは友達と再開し、無事を喜び合うも、あまりの騒がれように精神的にも参っている状況だった。
友達がアンナのSNSを見てみると、そこには無数の質問メッセージが投稿されている。
友達に背中を押され、アンナはこのメッセージに返信をしていくこととなる。
最初は他愛もない質問が続くが、徐々に攻撃的な質問へと変化していく。
その内容は「犯人と恋人同士で駆け落ちしたのでは?」というデリカシーの無い内容のもので、これにハンナは躍起になって返答する。
後日ハンナは殺された母親と弟の葬儀に出席するも、マスコミからの重圧にストレスを感じ続ける。
気を紛らわすかのように弟の友達と写真を撮り、それをInstagramにアップロードすると、それが火に油を注ぐ形で炎上してしまう。
SNSでのハンナの行動を父親にキツく注意されるが時すでに遅く、世間の目はどんどんハンナに冷たくぶつかっていくのだった。
そんなある日、犯人であるジムの妹がTVに出演している映像を目撃する。
その妹はジムの悪行を肯定しながらも、ハンナにも問題があったとニュース番組で発言をする。
これを受けてハンナは父親の反対を押し切り、自分もニュース番組へ出演する決心をする…。
ハンナはニュース番組のテーブルに座り、アナウンサーと対談形式のインタビューを受ける。
そして辛い事件の過去を振り返る。
犯人であるジムは家族ぐるみの付き合いとなるおじさんで、父母の不仲や父の仕事が要因となり、ハンナやイーサンにとっても父親の代わりとなる深い関係の男性だった。
そんなハンナ達とジムがバーベキューを楽しんでいたある日、ジムは「ハンナを連れてロスへ旅に出かける計画」を提案する。
母親のクリスティーナの反対を押し切り、ハンナは旅へ出かけることとなるが、ここでジムから異性としての告白を受ける。
これを誤魔化し、これまでの関係を続けようとするハンナであるが、ジムには不安が募っていく…。
旅行も終わり、ジムの家のパーティへ誘われた3人であったが、そこで事件は起こる。
ハンナのクラブ活動が終わり、ジムの送迎によって家へ向かうと、何故か母親の車が無いことに気がつくハンナ。
仕事を失ってしまったと語るジムは拳銃をハンナに突きつけ、手錠をはめて拉致してしまう。
別の部屋に監禁していたクリスティーナとイーサンを殺害すると、自分の家に火を放ち、ハンナと一緒に山中へ逃げ込んでしまう。
FBIはすぐに操作に乗り出し、焼け跡となったジムの家を調査すると、そこからはクリスティーナの遺体とイーサンの焼死体が見つかるのだった…。
3人の失踪を受けて絶句する父親の父親のブレッド達だったが、早速ハンナの捜査に乗り出す。
アメリカ中でハンナとイーサンの写真は張り出され、瞬く間にトップニュースに踊り出る。
一方でハンナは、ジムに連れられ、どこかの山奥へと連れてこられていた。
車を獣道へ駐車すると、その場で隠し始めるジム。
携帯電話の電波も届かないその地域で、更に山奥に向かって2日間も歩き始めることを宣言する。
ハンナへの愛を語りつつ2人で歩みを進めていくが、ハンナ自身は、ジムに対しての恐怖心のみで動かされていた。
途中、疲労に耐えられなくなったハンナは足を挫いて膝を怪我してしまうが、そこでもジムはハンナに手を貸し山奥へと歩いていく…。
目的地まで来ると、ジムとハンナはテントを張る。
そして2人の恐怖に支配された山中生活が始まる。
ハンナは隙を見て拳銃を奪い、ジムを脅す行為に及ぶが、ジムはこれを全く気にせず喉仏に銃口を当て、「引き金を引けばいい」と覚悟を見せる。
しかしハンナは引き金を引くことはできなかった。
山奥で数日が経ったある日、乗馬を楽しむグループと遭遇するハンナとジムだったが、ジムが「家族のフリ」をすることを述べると、ハンナはこれに素直に従う。
ハンナが助けを乞えば、会った人々を殺すとジムが言ったためであった。
一方でFBIは着々と捜査を進めていた。
犯人がジムであることを突き止め、彼の父親も「17歳の少女の家に押し入る事件」を起こしていることを調べる。
そしてその事件も、18年前の同じ週に起きた事件であることを明らかにする。
そして事件発生から7日目。
2人の目撃情報から、ついに山中へと踏み込むFBI。
隠された車を発見し、その周辺の捜索を始める。
朝、ジムとハンナが目を覚ますと、上空にはヘリコプターが縦横無尽に飛んでいる。
「キャンプをする人間のフリをする」と言い出すジムは、ハンナと一緒に薪を集め始める。
一瞬の隙をついてハンナがヘリコプターにSOSの合図を送り、FBIはテントを包囲する。
半狂乱状態のジムを射殺し、ハンナの保護に成功するのだった…。
ここまでの経緯をインタビューにて語るハンナ。
最後に「助かったと実感できたのはいつ?」とアナウンサーに問われる。
ハンナは「毛布をかけられた時」と答える。
そしてインタビューは無事に終わった。
家に帰り、ハンナは母親とFBI宛に手紙を書く。
久しぶにりインターネットを開くと、そこにはハンナを肯定する意見やハンナに対して攻撃的な意見など、様々な文字が踊っていた。
そして最後に「真実は本人しか知らない」と投稿される…。
ネタバレ感想と考察
実際に起きた誘拐事件を描いた作品!!
今回の事件、映画の冒頭でも述べられるように、事実に基づいて制作された映画である。
その「ハンナ誘拐事件」であるが、2013年8月11日に起きた事件として今も記事は残っている。
FBIは8日に届いた目撃情報から実に200人もの捜査員を導入して、犯人逮捕に踏み込んでいたようだ。
米西部で大規模な追跡劇、FBI捜査官が殺人・誘拐の容疑者を射殺 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News
通常ではいくらかの「フィクション要素」を踏まえるタイプの映画ではあるが、本作に至っては殆どがノンフィクションであると言っていいだろう。
映画としても淡々と進み、一部の鑑賞者は「つまらない」と感じてしまう人もいるだろうが、「よりリアルを描いた」故の結果であると信じたい。
こちらの誘拐事件、事件としての側面は「誘拐」よりも、「犯人を射殺した事件」としての一面が強調された事件となった。
犯人であるジムが武装していたのか?
また捜査官に向かって発砲したのか?
詳細は明らかにされていないことからも、話題となった事件のようだ。
可哀想な「誘拐事件」のはずなのに…??
実話となる誘拐事件を元にしたこの映画であるが、なぜだろう…。
何故か心にモヤモヤが残る。
映画をもう少し俯瞰してみると、通常描かれる「ドキュメンタリー映画」とは少し視点が違う作品となっていたのだ。
主に「事件の内容」が描かれるのは当たり前ではあるが、この映画のポイントは「過去の事件を振り返るアンナのインタビュー」という点にある。
映画の構成の50%は事件であるが、もう片方の50%は事件の後のアンナの立ち振る舞いが描かれる特殊な構成となっていた。
そして、「事件の後のハンナ」を描くに当たりとても強調されていた要素、それが「世間からのバッシング」であった。
母親と弟を失ったにも関わらず、「Instagramに写真をアップする行為」や「SNSの質問に回答していく行為」がブラッシュアップされ、そんなハンナの立ち振る舞いこそが心のモヤモヤの要因だろう…。
映画が伝えたかった2種類のメッセージ。
16歳というまだまだ子供なハンナであるが、彼女のキャラクター性もよりリアルに描かれている。
ティーンエイジャー特有の「無鉄砲さ」そして「承認欲求」などが目立つ面白いキャラクターだった。
そんなハンナであるが、物語の序盤〜中盤まで展開されるのが「マスコミとの確執」だろう。
本来この手の作品は、「誘拐事件」がどれほど恐ろしいものであるか?を伝えるのもそうであるが、フタを開けてみると「炎上がいかに恐ろしいか?」を伝えるような、尖った作風のドキュメンタリーとしても鑑賞できるのが面白い。
彼女に対しての世間の目は酷く冷たく、昨今の日本に通ずるものも感じてしまったのではないだろうか?
そんな「世間からのバッシング」を受けることによって、ハンナ自身は「TV出演のインタビュー」を受けることを決意する。
そこで話すありのままのリアルは、TVを観ている世間の人々、基(もとい)、鑑賞者の皆さんにはどう映るだろうか??
物語の最後、勇気を出してインタビューを受けたハンナであったが、インターネットを開くと、無情にも「アンチ意見」も多数散見されるような終わりとなる。
そして「真実は本人しか知らない」で締め括られる終わり方は、今作における「事件」と「事件後」の二面性のメッセージを突きつける終わりとなっていた。