本記事は、映画「アメリカン・アニマルズ」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。
「アメリカン・アニマルズ」
2018年、アメリカ、イギリス合作映画としてバート・レイトン監督が作った作品。
「刺激が欲しい」と言うだけで、時価1200万ドルの書物の盗みを働いた大学生たちのドキュメンタリー作品。
上映時間は116分。
あらすじ
舞台はアメリカ、ケンタッキー州。
美大生のスペンサー、しがない大学生のウォーレンはくだらない日常の中で、退屈な日々を生きていた。
そんなある日スペンサーは、大学の図書館にて展示される時価1200万ドルの古書「ジョン・ジェームズ・オデュボーン」の「アメリカの鳥類」を見学する。
そのことをウォーレンに話すと、なんと彼は「アメリカの鳥類」を盗み出す計画を立案するのだった…。
出演役者
本作の主人公ウォーレンを演じるのが「エヴァン・ピータース」
もう一人の主人公スペンサーを演じるのが「バリー・コーガン」
配信コンテンツ
「アメリカン・アニマルズ」は今現在、U-NEXT、Hulu、等で配信されている。
ネタバレ感想と考察
これがホンモノの「リアル」作品!!
よくある「事実に基づいた」という表現の作品たち、そのほとんどの映画作品は「フィクション要素」も入り交じりながら物語が進行する。
しかしこの作品、なんと冒頭に「これは事実の物語である」という演出がされるのがなんと言っても特徴的だ。
最初の文は「事実に基づいた物語」であるが、「に基づいた」の部分が無くなる演出があるのが面白い。
そんな始まり方から物語は渦中へと突き進んでいくが、基本的には実際のインタビューと役者による映画とを織り交ぜながら、「ドキュメンタリー形式」で物語が進行していく。
そして、そのインタビューで登場する人物が「全て本人である」のだ。
事件の主犯となる4人はもちろん本人出演、そしてその身内、更には大学の教授までもが実際に本人たちと関わった人物が映画に出演し、インタビューを受ける。
本人たちからの証言はやはりとてもリアルなもので、意見が食い違うことすらもよりリアルに感じ取れるのだ。
盗もうとした本は一体どんな本?
今回ウォーレン達が盗もうとした本であるが、博物学者で画家の「ジョン・ジェームズ・オデュボーン」によって描かれた「アメリカの鳥類」という書物で、1827年〜1838年までセクション毎にシリーズとして発表された書物だった。
事件当時、本書の時価総額はなんと1200万ドル(日本円で16億円)であると映画内でも言及されるが、何故こんなにも希少性が高い本となったのか?
いくつか要点を抑えてみよう。
・本のサイズが99×66cmという巨大サイズの本だった。
・2023年現在で絶滅している鳥類6種が掲載されていた。
・発行部数が極端に少ない。
・現在でも使われる「博物図鑑」に多大なる影響を与えると同時に、「博物学」史上の影響も大きい。
本書の希少さは、この限りに留まるところではないが、約16億もの価値があるのも頷けるのではないだろうか?
ちなみに余談ではあるが、複数ある本書のうち日本では1854年の「黒船来航」の際にペリーが徳川家定に献上したものもあると言う…。
日本人にはこの例えが一番しっくり来るのではないだろうか…?
なぜ盗もうとした?
こんなにも高価な本を盗もうとしたリアルの事件であったが、彼らはなぜこの本を盗もうもしたのか?
そこには「若さ故の過ち」という言葉では片付けることができない要因がたくさん詰まっている。
まずは「刺激が欲しかった」ということだ。
今回の事件の導火線となるこの欲求、若い人なら誰でもこの退屈な世の中に風穴を開けたいと願う時があるのは、筆者にも理解できる…。
そして「警備が緩かった」という要素もある。
本書が格納された図書館は一般人が自由に出入りできる図書館で、その中の「特別室」なる場所で保管されていた。
その特別室は予約さえすれば誰でも本を見学できる…という状況にあり、そこに立ち会うのは「受付の老婆1人」なのだ。
1200万ドルもの価値のあるモノとは到底思えないほどに緩い警備であり、これを攻略できると思ってしまうのも頷ける。
「若さ故の過ち」グダグダすぎる事件と映画のテーマ
「泥棒映画」と聞くとどうしても「ルパン三世」や「オーシャンズ11」などの華やかな天才肌を想像しがちだが、本作ではこれまたリアルすぎるグダグダ感が展開される…。
老婆を上手く失神させることができず、本を運ぶ階層を間違え、最後には階段に放置して逃走する。
チームワークもバラバラであり「これから1200万ドルの大仕事をする泥棒」とは到底思えないような立ち振る舞いで、「レザボア・ドッグス」を鑑賞してあだ名を付け合う姿は微笑ましいとすら思えてしまう。
そんな奇想天外なドキュメンタリーを見せられて…だ。
さて、本作は一体何をテーマにして描かれているのだろうか?
娯楽のための映画?ドキュメンタリー映画?
実は筆者自身、まだ答えは見つかっていない。
ただこれだけは言える。
「若さ故の過ち」を犯した大学生の泥棒達は、確実に世の中に風穴を開けた。
そして映画の最後、彼らは生き生きと日常を謳歌しているのだ。