本記事は、映画「オデッセイ」のネタバレを含んだ感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。
オデッセイ
2015年、リドリー・スコット監督によって制作された作品。
2011年に出版されたアンディー・ウィアーによる小説「火星の人」が原作となる物語。
上映時間は141分。
あらすじ
舞台はアメリカ、宇宙飛行士のマーク・ワトニーは、自身を含める6人のメンバーと火星探索に乗り出していた。
過酷な自然環境の中でも楽しく仕事をこなすメンバー達であったが、ある時、想像を超える巨大な砂嵐に見舞われミッションを放棄し緊急脱出をすることを決断する。
急いでロケットへと乗り込むメンバーであったが、ワトニーだけが乗り遅れ、火星に1人取り残されてしまう…。
そして地球では…ワトニーは殉職者として扱われてしまうのだった…。
出演役者
本作の主人公マーク・ワトニーを演じるのが「マット・デイモン」
これまでにも数々の映画に出演する有名役者であり、アカデミー脚本賞を受賞した名画として名高い「グッド・ウィル・ハンティング」に出演し、その脚本も手がけている。
本作以外のSF作品でも、名作と名高い「インターステラー」にも出演している。
本作に登場する探索チームよリーダーを務めるメリッサを演じるのが、「ジェシカ・チャステイン」
数々の映画に出演する有名女優であり、彼女もまた「インターステラー」に出演し、それ以外でも「X-MEN」シリーズやホラー作品の「IT」などに出演している。
SF作品へのキャスティングが多く、核シェルターを作る精神病男を描いた「テイクシェルター」ではヒロインを演じ、通常のSF作品とは違ったベクトルの面白さを見出すことができるだろう。
他のメンバーを演じるキャストも数々の有名映画に出演しているが、中でもアメコミ系の作品へのキャスティングが多い役者が多い。
ネタバレ感想と考察
ライトな作風で描かれるSF災害作品
世の中に数々ある、宇宙をモチーフとした災害作品、「アルマゲドン」や「ディープ・インパクト」などの人類滅亡を賭けたアクション要素多めの作品から、「ゼロ・グラビティ」や「パッセンジャー」などの限られた空間で生きる物語があるが、そのどれもが危険が多く、「死と隣り合わせ」の状況での物語だった。
そんな中描かれた本作の物語、SF作品の中で二極化するのであれば、後者である「限られた空間」に分類される作品であり、何もない火星で生きていくことを題材とした作風で、その「密室スリラー作品」を感じさせる作風に本作の脚本がハマった鑑賞者も多かったことだろう。
そんな「密室」を題材とした作品の中でも、本作は限りなくライトに明るく描かれた作品である。
陽気で明るい主人公のキャラクター性と軽快なBGMなどによって、「災害映画」というよりは「生きていくこと」自体にフォーカスした面白い作風だった。
植物を育てて科学の力を応用し、生きていく環境をコツコツと整えていく、さながら「マインクラフト」をプレイしているような作風はこれまでに無かったジャンルの面白さを与えてくれた。
環境自体はとても過酷だった。
しかしながら、環境依存型の密室作品において本作品の設定でいえば、かなり劣悪な環境であったことは間違い無いだろう。
舞台は火星であるが、その環境はとても過酷であり、主人公であるワトニーの一番の「死」の要因として放たれたものが「餓死」の危険で、これと戦うのが本作品最大のプロットとなっている。
・外気温:-55℃ ・酸素:ほとんど無し(空気成分 0.13%) ・水:無し ・通信手段:無し ・最大風速:400km/h ・食料:31日分 ・NASAの次の探索ミッションまで:4年
最後にも記述してある、「次の探索ミッションまで4年」という環境設定から、限られたエネルギーや資源、そしてその場にある機材を応用して生きていかなければならない描写が生まれ、そんな描写こそが本作を鑑賞するに至った皆さんが探し求めていたモノなのではないだろうか?
人間の廃棄物を肥料として応用したり、化学反応によって「水」を得たりと、そんな環境の中でも「生きていくこと」を描いた作風が本作最大の評価点にもなっている。
本作が安心して鑑賞できる最大のからくりについて
前述したように、パニック映画が苦手であっても安心して鑑賞できるような作品に仕上がっているが、そんな作風については最大の仕掛けが施されている。
それこそが「地球と繋がっていること」であった。
本作の序盤、主人公であるワトニーは、地球では「殉職者」として処理されるが、衛星写真によって「生きていること」がわかる脚本となっている。
その後の進展で、地球との通信ができる環境にまで発展していくが、それこそが本作最大の「安心して観れる条件」となっていた。
密室作品において、一番重要視される課題、それこそが「一人か?複数人であるか?」であり、そんな観点からも本作がライトに鑑賞できる要因となっていた。
餓死の可能性があるとわかったその時も、「死を覚悟する」空気感がどこか薄く感じてしまう鑑賞者も多かったのではないだろうか?
本作品の空気感と対極に位置する作品として、90年間も宇宙船に閉じ込められる作品「パッセンジャー」では「一人であることの恐怖」が最大限に描かれたSF作品であると言っていいだろう。
二つの目線から描かれていく作風
主人公ワトニーの奮闘が描かれる中、物語はもう一つの目線である「地球」からの物語も展開されていく。
ワトニーの生存が確認されてから、「彼を助けるか?助けないか?」の段階から描かれるストーリーはなかなかにリアルなものとなり、本作の「サバイバル作品」とは違う映画へシフトしていく演出にもなっていた。
宇宙事業に携わる、さまざまな人間がワトニーの救出に踏み出し、世界中を巻き込んだ救出劇へと発展していく物語の変化こそが本作の真骨頂なのだ。
生き残った乗組員やNASAの長官、計画の総指揮官、ロケット開発者に至るまで、数々の人々の思惑が交差するパートでは、本作の「最大のテーマ」と言ってもいい要素である「One for all, All for one」的考え方が最大のテーマとなっていた。
映画の本質的テーマとしては少々「脳内お花畑感」が否めないが、「アルマゲドン」や「ディープ・インパクト」、「インタ・ステラ―」といった、壮大なテーマばかりとなるSF映画において、本作くらいの質感の作風のほうが大衆は楽しめるのかもしれない。
事実、有名映画サイト「Filmarks(フィルマークス)」では、数あるSF作品の中でも「3.8」と高い評価を叩き出し、感想などを見ていても、主人公ワトニーの諦めないポジティヴなキャラクター性に言及した感想が多い。
そんなポジティヴなキャラクター達が本作の高評価の一番の要因となっていた。
宇宙船のメンバーたちが「NASAの指示を無視して救出に向かう」演出については、ツッコミたい衝動を抑えて、この際温かく見守ろうではないか。