本記事は、映画「子宮に沈める」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。
「子宮に沈める」
2013年、緒方貴臣監督によって制作された作品。
現代の日本での育児放棄(ネグレクト)をリアルに描いた作品。
上映時間は95分。
あらすじ
舞台は日本、団地マンションの高層階に幸せな家族、母親の由紀子、娘の幸、弟の蒼空、そして忙しい仕事に明け暮れる父の俊也が住んでいた。
小さな娘、そして息子の面倒を見ながら、専業主婦としての日々を過ごす由紀子は、一見幸せな家族に見えていたが、着々と由紀子のストレスは溜まっていた…。
出演役者
本作の主人公由紀子を演じるのが「伊沢恵美子」
由紀子と俊也の娘、幸を演じるのが「土屋希乃」
配信コンテンツ
「子宮に沈める」は今現在、Amazonプライム、Netflix、U-NEXT、等で配信されている。
ネタバレ感想と考察
まさかのリアルの物語…「大阪2児餓死事件」について。
この作品を最後まで観ることができた…それだけで皆さんはかなりの強メンタルの持ち主であるように思う。
そこでそんな皆さんにもう一つ爆弾を投下したい。
なんとこの映画、「事実が元となり制作された作品」なのだ。
リアルの事件は大阪で2010年に起こる。
「大阪2児餓死事件」
事件発覚のきっかけは隣人による「異臭がする。」という通報。
そして中では、餓死によって死後50日ほど経った2人の子供の遺体が横たわっていた…というものだ。
2児の母親(当時23歳)は、死体遺棄容疑で逮捕され、後に殺人容疑で再逮捕したという衝撃の事件となった。
ここまで読んで頂いた皆様ならもうおわかりだろう…。
映画よりも「リアル」の方が残酷な事件だったのだ。
この手のドキュメンタリーの側面も持つ映画作品では「どこまでリアルに描写されるか?」がひとつのテーマとなるが、この作品においては想像もしたくないような内容だろう…。
深刻なネグレクトが描かれた作品は映画界に大きな衝撃を与えるような作品が多いように思う。
また、過去に「空気人形」や「海街diary」「万引家族」などを手掛けた是枝裕和監督の「誰も知らない」などは、ネグレクトを題材にした作品の中ではかなり有名な作品である。
興味がある人は是非とも観てほしい。
作品の撮り方すらも「リアルすぎる」作品。
本作の内容、大変にリアルに感じる内容となっていたが、そこには映画の撮影方法についての「からくり」が存在する。
それは本作がほとんど「定点カメラで撮影された映画であった」ということだろう。
通常の映画では、作中のキャラクターに合わせてカメラが移動する「手ブレ」が生じることで、より映画らしい撮影のされ方がされるが、本作ではカメラは定点から動かずに撮影される。
日常を切り取るような描写がされることによって、よりリアルさが色濃く残される演出となる。
そしてカメラの「ぼかし」の使い方もとても秀逸な技術となる。
カメラが捉えるのは、1人で部屋をさまよう小さな幸の姿、そしてその前後には、ぼやけたゴミ袋やゴキブリ、ハエなどが映り込む。
まさに人の嫌悪感を引き立たせるために細工されたような物の配置と撮影方法であり、これには相当参ってしまうような描写となる…。
言葉にされない「演出」によって鑑賞者に「わからせる」恐怖。
見ていてもわかる通り、本作は全て「日常の会話と仕草」そして「生活音」だけで成り立っている作品である。
由紀子の一家の墜落の一途が、その場面場面に細かく演出されているのも胸糞要因の一つとなる。
段々と汚れていく部屋、そして明らかに派手な服が増える由紀子の衣装ダンス、フルーツの缶詰が食べられず、包丁で必死に開けようとする幸、マヨネーズを啜るだけの幸、そして「帰ってこないこと」を示唆する山盛りのチャーハン…。
そのどれもが「物語の進行」を示す材料とされ、鑑賞者を意識的に「理解させる」きっかけとなる。
二度、三度と見返すと、また新たな発見があるのかもしれない…。
が、到底そのような気にはなれない…。
言葉にできない…映画の最後はどうなっていたのか?
最早言葉に出すことすらもおぞましい内容ではあるが、映画の最後は完全に「描写と音」だけで観せられる作品となる。
由紀子は死んでしまった蒼空に対して、何をしていたのか?
幸はどうなったのか?
自分自身はどうなっていたのか?
その内容についてあえて言葉にしていこうと思う。
由紀子は顔中に蛆虫が沸いた蒼空を見て、見るに耐えなくなり、ビニール袋とガムテープで顔を覆い、そのまま洗濯機で蒼空を丸洗いする。
その後、お風呂に貯めた水で幸を溺死させる。
更にその時、由紀子は「妊娠」していた。
彼女は毛糸のかぎ針で自らの子宮を突き、流産する…という内容となる。
こんなにも言葉に表すことができない日本の映画作品はそう多くない。
そしてこれを反面教師として、忘れたくない一面もある作品だった。