本記事は、映画「羊たちの沈黙」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。
「羊たちの沈黙」
1991年、ジョナサン・デミ監督によって制作された作品。
原作はトマス・ハリスによる同名小説となる。
上映時間は118分。
あらすじ
舞台はアメリカ、FBIの訓練生であるクラリスは「女性の皮を剥ぎ、殺害する猟奇事件」の犯人の行動心理学を研究していた。
その行動科学捜査の一環として、「食人」を行い拘束された元精神科医の囚人「ハンニバル・レクター」と面会を行う…。
出演役者
本作の主人公クラリスを演じるのが「ジョディ・フォスター」
囚人、ハンニバル・レクターを演じるのが「アンソニー・ホプキンス」
配信コンテンツ
「羊たちの沈黙」は今現在、U-NEXT、Hulu、等で配信されている。
ネタバレ感想と考察
天才サイコパス、ハンニバル・レクター無双物語!!
名前こそ知れど、その内容の恐ろしさに今まで敬遠していた人々も多いであろうこの作品。
筆者の感想としては、想像しているよりもスッキリとした、スマートなサスペンス作品に仕上がっていたと考える。
そう、人によっては「ホラー映画」ではなく「サスペンス作品」としての見方ができるのだ。
本作はそのグロテスクさとは裏腹に、アカデミー賞を5部門(ビッグ・ファイブ)も受賞する快挙を成し遂げた名画となった。
どうしてこうもグロテスクなのに、アカデミー賞を受賞することができたのか?
それにはいくつかの理由が存在すると考えている。
①ハンニバル・レクターは味方!?
作品の中でも一番のサイコパスとして描かれるハンニバル・レクター。
彼は「カニバリズム(食人)」の趣味を持つ精神科医で、今も尚、サイコパスキャラクターの代名詞として存在している。
そんな恐ろしい彼が「味方」として機能しているのが一番の特徴である。
映画内で追っている事件は、レクター博士とは関係が無い「皮剥ぎ殺人事件」であり、同じ犯罪者の目線から、レクター博士を利用して犯人を捕まえよう…というのが、作品のプロットとなるからだ。
敵としてはとても恐ろしい存在であるが、こちら側に付くと「恐ろしほどに頭がキレる味方」となる。
「毒を以て毒を制す」の格言をそのまま実行しようとした脚本こそが、本作の核となる脚本であり、気持ちよく鑑賞できる一因にもなっているわけだ。
最も、レクター博士は数人の警官を殺害し、脱獄してしまうこととなり、毒に犯されてしまうオチとなっている訳だが…。
②レクター博士の華麗な脱出劇!!
「カニバリズム」という恐ろしい嗜好を持つレクター博士であるが、恐ろしく頭が良く、スマートなキャラクターとしての立ち位置を確立しているのもなかなか面白い。
中でも、前述したレクター博士の脱獄劇が彼のスマートさを物語っている。
「猟奇的殺人者」と聞くと、それだけで「荒々しい脱獄」を想像できそうなものだが、彼の脱獄劇はどこか「劇場型犯罪」を思わせる手法で、誰にも気づかれることなく脱獄を成功させるのだ。
本作がこれから始まる、4シリーズにも渡る「羊たちの沈黙シリーズ」の一章目として、レクター博士の存在感を見せつけるのには、充分すぎるプロットであり、同時にインパクトも与えることができるキャラクター性も持ち合わせている。
本作を「サスペンス映画」として鑑賞した時、あなたは本当の意味でレクター博士を愛せることができるだろう…。
続々と拒否られる!?決まらなかった役者陣…!!
「サスペンス」とは言っても、大元は恐ろしいホラー映画…。
「剥いだ皮を被って脱出」なんていう演出なんかを見ていると、やはり観る人を選んでしまうような作品でもある。
そんな本作、原作となる小説が存在するわけであるが、映画化するに当たってキャスティングにかなり難航していたようだ。
まずはヒロインの「クラリス」のキャスティングであるが、デミ監督の希望によって「ミシェル・ファイファー」そして「メグ・ライアン」の二人を候補として挙げるが、どちらもNGを出され、元々クラリス役を望んでいた「ジョディ・フォスター」が抜擢されている。
更に、レクター博士役としては「ショーン・コネリー」を所望していたがこちらもNG。
第二候補であった「アンソニー・ホプキンス」に役が回ってきた。
極めつけは、続編となる「ハンニバル」では、ジョディ・フォスターが「同じ役は引き受けない」としてNG、差し変わって違う女優が演じている…。
ここまでにNGを食らう映画も珍しくはあるが…内容を見ると仕方ないのかもしれない…。
「カニバリズム」という嗜好について。
世の中に蔓延る「サイコパス」という存在、映画化されているものやされていないものを含めると、色々な種類の人間が居る。
その中でも突出している嗜好、それこそが「カニバリズム」であると筆者は考えている。
実は本作以外にも「カニバリズム」を題材に描かれた作品はたくさんある。
中でも有名なのが2015年の「グリーン・インフェルノ」だろう。
これは1983年の「食人族」をモデルとして作られた映画であるが、スマートフォンも登場する、現代的な世界観で描かれているのが印象的な作品だ。
実はこのカニバリズムの歴史を紐解くと、実際の事件以外でも、過去に「儀式」として行われている歴史があったり、「聖書」などの大きな物語で登場していたり…形は様々となる。
前述した「グリーン・インフェルノ」でも、儀式的に食人を行う「文化」であることが描かれているが、本作のレクター博士は食人を「嗜好」として捉えている。
レクター博士の行為自体は「世に野放しになっている無礼な連中を食らう」という大義名分の元、行っていると小説版から読み取れる描写がある。
掘り下げていくとこのカテゴリだけでも、なかなか奥が深く、続編映画や、小説も読んでみたくなるような作りとなっている。
興味のある人は観てみよう。