本記事は、映画「嫌われ松子の一生」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。
嫌われ松子の一生
2006年、中島哲也監督により描かれた映画。
不遇な人生を歩んだ「川尻松子」の一生を描いた作品。
2003年、山田宗樹により出版された同名小説が原作となる。
上映時間は130分。
あらすじ
舞台は東京。
福岡から上京し、中途半端なバンド活動を続けていた
「川尻笙」は、彼女である「渡辺明日香 」と別れるところから物語は始まる。
ある日アパートに、笙の父である「川尻恒造」が遺骨を抱え、はるばる福岡から訪ねてくる。
遺骨は恒造の姉である「川尻松子」のものであり、松子の身辺整理を頼まれた笙であった。
松子の住んでいた、荒川近くのボロアパートの一室で荷物の片づけを始めた笙であったが、松子の周辺の様々な人物と出会い、松子の人生を知ることとなる…。
出演役者
主人公の川尻松子を演じるのは「中谷美紀」
今作の物語の進行役、松子の甥である笙を演じるのが「瑛太」
笙の父であり、松子の弟の紀夫を演じるのが「香川照之」
病弱な松子の妹、川尻久美を演じるのは「市川実日子」
松子の親友である沢村めぐみを演じるのは「黒沢あすか」
その他も柴咲コウや谷原章介、角野卓三、芸人であるガレッジセールのゴリやカンニング竹山、劇団ひとり、オアシズの大久保、アーティストであるBONNIE PINK、東京スカパラダイスオーケストラの谷中敦、AI、土屋アンナ、木村カエラ、脚本家の宮藤官九郎など、そうそうたる芸能人が出演する作品となる。
ネタバレあらすじ
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- 松子は荒川に河川敷で遺体で発見された。
笙は松子の部屋の整理をしていると、ヤクザ風の男たちに車の中に連れ込まれる。
車に連れ込んだのは、かつて松子の親友であり、AV会社を経営する沢村めぐみであった。
幼少期の松子は一家の長女として生まれたが、病弱な妹ばかりが可愛がられ、松子は父親に放置され育ち、妹に嫉妬心を抱いていた。
父親に気に入られるために、言われるがままにしてきた松子は、23歳の時は中学校教師をしていた。
とある年の修学旅行中、松子の受け持つクラスの生徒である「龍」が、宿の金を盗む窃盗を犯したことがきっかけで、松子は教師を辞めることとなる。
辞めた松子は妹の嫉妬心を背負ったまま成長しており、ある日、妹を突き飛ばして家出をする。
その後は、売れない作家で、太宰治を敬愛する八女川と同棲していたが、DVを受けており、金をせびられた挙句、最後は八女川が自殺してしまう。
すぐ後に八女川のライバルであり、サラリーマンをしながら作家を目指す岡野の愛人となるが、岡野の妻に浮気が発覚し、別れることとなる。
その後、中洲のソープ嬢となり、トップにまで上り詰めるが、年齢の問題で売れなくなり、クビを言い渡される。
小野寺という男に拾われ、二人で仕事を続けるが、松子の貯金500万円を使い込まれ、怒りから小野寺を刺し殺してしまう。
東京に逃亡し、玉川上水で自殺を試みたが、水が少なく死ぬことができなかったところで、理容師の島津と出会う。
島津と仲睦まじく生活していたが、ある日、小野寺の殺人で逮捕されてしまうのだった。
8年間の監獄生活で島津のことを思い続け、美容師の資格を取得し、同時に獄中で沢村と知り合う。
出所後、島津の元に行くが、島津にはすでに妻子がいた。
その後、勤める美容室で獄中で知り合った沢村と再会し、親友となる。
ある日沢村宅で飲みに誘われるが、沢村の幸せそうな旦那との生活を目の当たりにし、逃げるように沢村の元から去った。
一人孤独を噛みしめ毎日を過ごしていたが、ある日、元生徒であった龍と再会し、当時の窃盗の件を詫びるとともに、同棲を始める。
ヤクザになっていた龍であったが、博打の失態で組織から追われる身となり、松子を残して警察に逮捕される。
龍の収容期間を待ち続け、釈放された龍を迎えに行くが、信仰に目覚めた龍に拒否される。
龍は自暴自棄になり再び犯罪を犯し刑務所に再収監される。
故郷に帰った際、妹の死を知り、一人で生きることを決意する。
故郷である筑後川とよく似ている荒川が眺められるアパートに住まい、酒の暴飲暴食に走るようになり、肥満体系となるが、「光GENJI」に目覚め、熱狂的なファンとなる。
メンバーの内海光司に今までの一生を綴ったファンレターを送るが、返事が一切来なかった。
(松子による物語中の語りは、このファンレターの執筆時のものである。)
その後、精神を病み精神科に通うが、18年ぶりに沢村に再会する。
「ちょうど美容師を探している」と名刺を手渡されるが、逃げ出してしまい、河川敷で名刺を見つめるが、丸めて投げ捨ててしまう。
アパートに帰った松子は、妹の髪の毛を切ることを想像し、僅かな希望を持って河川敷に捨てた名刺を探しに行く。
夜中の河川敷で名刺を見つけ出し、広場でたむろする中学生を注意するも、後ろからバットで殴られ、死んでしまう。
刑務所に入っていた龍が再び出てきて笙と接触するも、松子の死を聞いて罪の意識に苦しみ、自分が松子を殺したと警察に嘘をつく。
天国の階段を上った松子は妹と再会し、言葉を交わす。
「おかえり」「ただいま」
ネタバレ感想と考察
不遇すぎる松子の一生がコミカルに描かれる新しさ
今作の映画は、主人公である松子の一生が笙の行動とともに、徐々に浮き彫りになっていく構成の作品だが、これがかなりの不遇な人生である。
そんな人生であるにも関わらず、目を背けることなく観れてしまうのは、その「コミカルに描かれる構成」が要因であるだろう。
笑いの要素が多く、原作の映画で描かれるよりも明るく、暗い話であるはずなのに、明るいタッチですんなり入ってきてしまう不思議な力が、この作品にはある。
本作には、そんな「不幸」を「笑い」に変えるいくつもの手法が使われているのだ。
明るさの要因、ミュージカル調に描かれる作風とキャスティング
前述した、明るく物語が描かれる要因、これは作品が「ミュージカル調」に作られていることであるだろう。
松子の人生のターニングポイントの要所要所で、展開されるミュージカルシーンに、その場面に出演しているミュージシャンをはじめとする役者が歌い踊る。
それに加え、数多くの芸人がそれぞれの持ち味を生かして濃いキャラクターで登場してくることに「コミカルさ」の秘訣が隠されている。
本作の出演役者にキャスティングされた、数多くのミュージシャンの面々からも、本作がいかに「音楽」や「ミュージカル」に力を入れているかがよくわかる。
あながち創作でもない、松子のキャラクター設定
今作の内容は、暗くも明るく描かれる松子の一生を描いた作品であるが、波乱万丈に見えて、以外にもリアルに描かれた作品だと感じた自分がいた。
松子の一生に自分を重ねて映画を鑑賞した人も一定数は居ると思っていて、そんな人間もぼくは少なからず知っている。
そんな人生をコミカルに描けていることが、今作に感情を移入できる一番の要因であるとともに、今作のヘビーユーザー獲得の柱となった要因であるだろう。
2003年にメンヘラを描いていた先読み作品!?
松子が龍に暴力を振るわれたシーンで、「一人よりはマシ」と語るシーンがあるが、彼女の本当に求めた幸せは「人間」に依存するものだったと解釈できる。
現代の女性で言う、典型的な「メンヘラ」な一面を持ち合わせていた彼女であるが、映画が公開されたのは2006年、小説に言及すれば2003年と、「メンヘラ」という言葉も存在しないうちに制作された今作は、先見の明がある作品だったと言える。
取り巻きの出演者もなかなかの濃さを持ったキャラクターが登場するが、これもリアルに一人はいるような人間が以外にも多く、登場人物のバランスが取れた構成の映画であったと感じるだろう。
不思議な明るさの要因はミュージカルにあった。
今作には数々のミュージカルシーンが出てくるが、これの影響もあり、コミカルな描写として描かれている。
この手法、何かに似ていると、モヤモヤしながら鑑賞していたが、ラース・フォン・トリアー監督の「ダンサーインザダーク」だと気が付いた。
この作品も、不遇な人生を送る女性が、不幸の中で明るくミュージカルを踊る描写が数多く出てくる。
そんな明るいシーンがあるからこそ、観れる作品が出来上がっているとともに、不幸を増幅させる媒体としても機能してしまっているとも感じ取れた。
気のせいではあっても、本質的に映画の構成は似ている。
「鬱映画」の代表作としても名高いダンサーインザダーク、こちらも是非とも鑑賞してほしい。
もう一つの明るさの要因、役者のキャスティング
また、今作が明るく感じる原因は出演役者のキャスティングにも原因があるだろう。
今作には、「芸人」や「アーティスト」など、役者を本業としない人たちがたくさん出てくる作品となる。
「俳優、女優」以外のキャスティング
・ガレッジセール、ゴリ(芸人)
松子のアパートの隣の住人
・カンニング竹山(芸人)
松子の勤め先の学校の教頭
・劇団ひとり(芸人)
松子の愛人の岡野
・オアシズ、大久保(芸人)
愛人である岡野の妻
・山田花子(芸人)
刑務所内の女囚人
・柴咲コウ(アーティスト、女優)
笙の元カノ
・BONNIE PINK(アーティスト)
松子の勤めた風俗店の仲間
・東京スカパラダイスオーケストラ、谷中敦(アーティスト)
風俗店のオーナー
・AI(アーティスト)
刑務所内の女囚人
・土屋アンナ(アーティスト、女優)
刑務所内の女囚人
・木村カエラ(アーティスト)
TVで写る人気歌手
・宮藤官九郎(脚本家)
松子の交際相手であった八女川
これらの本業が「役者」ではない、エンタメの第一線で活躍する人をキャスティングすることによって、映画の緊張感をうまく緩和しているような印象を感じた。
中島哲也監督の才能あふれるキャスティングだっただろう。
鬼才、中島監督率いる撮影の過酷さ
ちなみに今作の撮影にあたり、中島監督は出演者にとても厳しく接し、過酷な現場であったことも有名で、監督曰く、「主演の中谷美紀が逃走した場合、どのようにすれば映画製作を完結できるか本気でスタッフとも話し合った」と語り、事実、中谷が撮影をバックレたという秘話もある。
中谷は「この役を演じるために女優を続けてきたかもしれない」と、語ると同時に、「監督の顔は2度と見たくないとまで思っていた」とも語っていた。
映画では一切、撮影の過酷さを感じさせるシーンが無いが、そのような演技指導も、作風に影響しているのかもしれない。
中島監督の他の作品でも、才能あふれる作品が存在する。中でも「下妻物語」は中島監督らしい独特な作品に仕上がっている。
また、本映画の原作となった小説であるが、映画作品とはいささか違った内容となっている。
こちらも映画とは違った面白さがある作品なので、是非とも一読してみる価値はあるだろう。