本記事は、映画「冷たい熱帯魚」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。
「冷たい熱帯魚」
2010年、園子温監督により送り出された日本のホラー映画。
1993年の埼玉愛犬家連続殺人事件という実際にあった事件をベースとして制作されている。
上映時間は146分
あらすじ
小さな熱帯魚店を営む気弱な主人公「社本信行」は今は亡き前妻との娘「美津子」、そして 再婚した妻「妙子」との家庭を上手く築けないでいた。
そんなある日出会った、同じ熱帯魚店を営む同業者、「村田幸雄」と社本家族は付き合いが始まり、生活の中に徐々に村田が絡んでくるようになる…。
出演役者
本作の主人公、社本信行を演じるのが「吹越満」
アマゾンゴールドの社長、村田幸雄を演じるのが「でんでん」
村田幸雄の妻、村田愛子を演じる「黒沢あすか」
社本信行の妻、社本妙子を演じるのが「神楽坂恵」
ちなみに、妙子を演じる神楽坂恵は今作の監督、園子温の実の妻である。
配信コンテンツ
そんな「冷たい熱帯魚」は今現在、Amazonプライム、NETFLIX、U-NEXT、Hulu、等で配信されている。
ネタバレあらすじ
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- 舞台は日本、社本熱帯魚店を営む「社本信行」は、パッとしない気の弱い中年男性である。再婚したばかりの妻「妙子」と、前妻との間にできた「美津子」との3人家族だった。
毎日が冷凍食品とインスタント食品に囲まれた夕ご飯、誰も喋らず重い空気が漂う食卓に囲まれながらも、家庭は保たれていた。
食事の最中でも、娘の美津子はガラの悪い友達と出かけて行ってしまう。
そんな美津子に声もかけれないほどに、信行は気が弱かった。
ある日、とある近所のスーパーで美津子は万引きを働く。
雨の中、両親揃って謝罪に行く。
警察を呼ぶと言ってきかない店長であったが、とある人物の仲介により、場を収めてもらうことができた。
その人物の名は「村田幸雄」
村田は大型熱帯魚店「アマゾンゴールド」の店主だった。
村田の明るい立ち振る舞いと話術に乗せられ、「アマゾンゴールド」の熱帯魚を見せてもらうことになる。
そこは社本熱帯魚店とは比べ物にならないくらいの大型熱帯魚店だった。
水族館のような店内のレイアウト、そして若い女性店員、完全に信行の経営する店舗とは別世界だった。
そして村田には、その年齢にそぐわないような妻「村田愛子」を持っていた。
今度は逆に、社本熱帯魚店に村田と愛子が来る。
そして村田は、美津子を村田のところで預かり働かせる提案をしてくるのだった。
この提案に、信行はどこか納得いかなかったが、
美津子と折り合いが悪い妙子が賛成し、本人も乗り気であったため、この提案が決まる。
その夜、信行は空想する。
彼は「プラネタリウム」が大好きだった。
妻である妙子、そして美津子と三人仲良くプラネタリウムを鑑賞する空想をする。
翌日から美津子のアマゾンゴールドでの仕事が始まる。
信行は先に帰り、妙子が村田と血の繋がっていない娘について話し、妙子の同情を誘い、泣き落として、村田は妙子をレイプする。
しかし妙子をこれを受け入れ、村田のマゾヒストと化す。
翌日、信行は熱帯魚の仕事の話があると言い、信行を事務所に呼び出す。
そこには村田の顧問弁護士である「筒井高康」と「吉田アキオ」という男がいた。
その話とは吉田の投資で一匹1000万円の高級魚を買うというもので、その高級魚の飼育を信行に任せる、というものだった。
信行にはどう見ても胡散臭い話にしか聞こえなかったが、村田と筒井の巧みな話術で吉田を落としていく。
そして契約書への吉田の捺印をさせる。
村田の妻である愛子が人数分の栄養ドリンクを持ってきて、皆でこれを飲む。
しかし吉田のみが苦しみ、悶え始め、死亡してしまう。
唖然とする信行の前で、何事もなかったかのように村田は作業を進める。
死んだ吉田を車に乗せるのに信行は手伝わされる。
愛子と三人で車に乗り込み、はらきり山という近くの山に向かう。
その山中にある山小屋に吉田の死体を運び込むが、そこは薄気味悪い場所だった。
まるで協会のようなその場所は、キリストの像が置かれ、無数の蝋燭に囲まれ、怪しい儀式が執り行われる場所そのものだった。
無数の蝋燭に、ガスバーナーで一気に火をつけ、そして吉田の死体を風呂場へ運ぶ。
そこで村田と愛子は死体の「解体」を始める。
解体が終わると、嗚咽する信行を尻目に珈琲で一服し、談笑する二人。
昔ここに住んでいたことを一通り語り終えると、村田は「次の作業」に取り掛かる。
ドラム缶に火を灯して、骨を「火葬」する。骨には醤油をかける。
そして川に臓器を投げ入れる。骨粉を山中に散布する。
「ボディが透明になっちまえば誰にもわかりゃしねえ」と村田は語った。
翌日、吉田の部下であるガラの悪い連中からアマゾンゴールドに電話がかかってくる。
吉田が消えたのが村田のせいだと彼らは疑っていた。
急遽、証人として立ち会うこととなった信行は、連中に言うセリフをみっちり練習させられ、帰りの車内で村田に謀反を起こす、弁護士筒井の計画を聞かされる。
家に帰った信行は、妙子を引っ張り出して、誰もいないプラネタリウムを鑑賞する。
二人で鑑賞し「愛してる」と言葉をかける信行であった。
翌日、吉田の居場所を聞きに押し寄せた部下たちを巧みな話術と演技で切り抜ける村田達、帰ろうとする信行の目の前に「失踪事件」として刑事が訪れるのだった。
その後、村田のところにも県警からの電話が行く。
それを受けた村田は信行に対して激しく攻め立てる。
二人は県警の車に追われるも尾行を巻き、筒井の家にたどり着く。
筒井の家では愛子と筒井が不倫をしていたが、村田はこれを気にしない。
そして筒井は栄養ドリンクの飲みすぎで死亡していた。
救急車を呼ぼうとする筒井の部下を絞殺し、二人の遺体を車に乗せる。
向かった先は例の一軒家だった。
二つの遺体の「解体」を始める村田と愛子、
解体が終わるころには日中になっていた。
遺体を捨てる際、村田は信行に、妙子と不倫したことを告げる。
怒る信行だったが、それを煽る村田。
殴り合いになる信行と村田だったが、その後、村田は信行と愛子のセックスを強要する。
その最中、信行は愛子の首をペンで刺す。そして村田をペンでメッタ刺しにし、殺害する。
その後、山中の家に戻り、愛子に「村田の解体」を命じる。
そして信行は人が変わったように行動し始める。
アマゾンゴールドの向かった信行は、娘を今まで見せたことのない厳しさで連れ出す。
家に帰り、妙子にご飯(冷凍とインスタント)を作らせる。
そして無言で三人で食卓を囲む。
美津子の電話が鳴る。いつものようにガラの悪い友達と遊びに行こうとする美津子をビンタし、無理やり家に連れ戻す。
そして妙子に村田と寝たことを激しく攻め立て、娘の前で犯す。
そして信行は車に乗り込み、警察に電話する。
刑事に山小屋の場所を教え、「村田の解体」が行われてることを伝える。
小屋に戻った信行は愛子を鈍器で殴る、もつれ合った結果、愛子を包丁で殺害する。
血だらけで小屋の前の椅子に座る信行、そこに刑事がたどり着く。
一緒に山小屋まで来た妙子が抱き着こうとした瞬間、信行は妙子を包丁で殺害する。
そして美津子にまで包丁を向け、信行は叫ぶ。
「人生ってのは、痛いんだ」
包丁の刃を自分の首に当てて、そのまま自害する信行。
それを見た美津子は「やっっと死んだ」と高笑いする。
ネタバレ感想と考察
真のサイコパス映画の仕掛けに迫る!
今作の映画、ホラーとは謳ってはいるが、普通のホラー映画とはかなり違う。
心霊的な描写は一切無く、全てが人間的恐怖から話は進む。
過去に見た事の無いようなキャラの登場人物、その登場人物の行動、その撮り方、まるで嵐のように物事が巡り、そして去っていく。
人間的恐怖が全面に押し出された今作はとても残忍な内容でありながら、どこかコミカルでな内容にも見えてしまい、園子温監督の腕が光る作品でもある。
今作の作品、数々のサイコな作品を世に送り出してきた園子温監督による作品であるが、やはりまず言及すべきは、その「サイコパス要素」だろう。
そのサイコパス感の仕掛けとして、大きな要素はいくつもある。
手持ちカメラによるスピード感溢れる演出、独特のドラムBGM、そしてキャラクター達の「狂気」、ありとあらゆる仕掛けがいくつも組み合わさり、このサイコパス感が生まれている印象を感じた。
「衝撃のラスト」のワードを欲しいままにする今作、特にラストの30分ではジェットコースターの如く物語が二転三転し、結末は視聴者が予測できない結末になる。
結論としては、観るのが怖いなら、観ない方がいい作品であることは否定できない…。
グロいのに、なぜか観れてしまうトリック!?
今回の作品、日本映画史上でもトップクラスに「グロテスク」な映画である。
「サイコパス」のワードを意のままにする今作では、物語の大半で血が飛び交い、映画で血を見るのが苦手な方はまず観ないことをオススメしたい…。
そして「性的描写」が多い作品でもある。
女性の乳房が写され、犯される描写は、胸糞悪い気持ちを抱えながらも、何かを駆り立てるような気持ちにも感じ取れる。
そして今作、「人間の解体」の描写がモロに描かれる作品だが、何故だか「観れてしまう」筆者自身がいた。
例えば、洋画で有名な作品として「SAW」シリーズなどがあるが、同じサイコ映画でも、全く違う空気感で描かれているのだ。
そのトリックは「映画のコミカルさ」にあると筆者は考えている。
まずはそのキャラクター、今作の元凶でもある「村田」やであるが、
この人物が三枚目キャラであることが大きな要因となる。
明るく、どこか胡散臭いようなそのキャラクターがコミカルさを演出し、その笑顔が不気味さを増幅させている。
それ以外にも「筒井の部下」などからはコミカルな雰囲気を感じるだろう。
そして、胡散臭さの漂う脚本、高級魚を一匹1000万円で売りつけるくだりや、栄養ドリンクを何本も飲む吉田、思わず笑ってしまうような脚本にもそのコミカルさはにじみ出ている。
そんな要因により、コミカルな作風に見えてしまうことこそ「冷たい熱帯魚」の真骨頂だろう。
ラストで感じた、快感の正体
今作のラスト20分で物語は大きな転機を迎え、「衝撃のラスト」の展開へと向かっていく。
それは、今まで大人しかった社本信行の「覚醒」である。
ラストでは、この覚醒してからの社本の動きを追う物語へとなっていくが、これがなかなかに面白い脚本で、鑑賞者は「ある種の快感」を覚えてしまうのだ。
上映時間の2時間、鑑賞者はいくつもの「苛立ち」を、この主人公に覚えることになるが、そんな積もり積もった苛立ちを爆発させるようなラスト20分の脚本は、鑑賞者の心を一気に引き寄せる魔力がある。
悪の元凶となった「村田」を刺し殺し、その村田と寝た妙子を犯し、今まで何も言えなかった美津子に対し平手打ちをかまし、刑事に電話した時に「もうたくさんだ!」と怒鳴り散らす。
今作で社本信行を演じた「吹越満」のキャスティング、そしてその風貌、佇まい、大人しいキャラクター、すべてがラスト20分のために積み上げられてきたような脚本であり、全てをぶち壊す演出に、鳥肌が立つほどに震えた。
これこそ本当の「狂気」である。
フィクションと思いきや…
また、今作はなんとリアルの事件がモデルとなっている。
それは、1993年に起きた「埼玉愛犬家連続殺人事件」という事件である。
埼玉愛犬家連続殺人事件
埼玉県にあった某ペットショップは詐欺的な商売を繰り返しており、 顧客らとの間でトラブルが絶えなかった。
代表的な例として「子犬が産まれたら高値で引き取る」など。
トラブルの発生した顧客らを、 知り合いの獣医師から譲り受けた犬の殺処分用の硝酸ストリキニーネを用いて毒殺し、 計4人が犠牲となった。
遺体は店の役員山崎永幸方の風呂場でバラバラにされた上、骨はドラム缶で焼却された。
それらは群馬県内の山林や川に遺棄され、「遺体なき殺人」と呼ばれた。
この事件の記事を読んだ皆さんは、恐らく「そのまんまやん…」と思っただろう。
事実、筆者自身も上記の事件がリアル起きていることに、映画とは違った衝撃を感じた。
「現実は小説より奇なり」とはよく言ったもので、アレンジ要素が少なすぎる事実を受け止め、再度鑑賞してみるのも面白いだろう。