「ファウスト」ネタバレ感想と考察【鬼才監督ヤン・シュヴァンクマイエルが描く魔術師ファウストの物語】

  • 2023年6月1日
  • 映画
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本記事は、映画「ファウスト」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。

鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。

「ファウスト」

1994年、ヤン・シュヴァンクマイエル監督が制作した作品。

実在したとされる悪魔と契約した魔術師ファウストの半生を描いた物語。

上映時間は97分。

あらすじ

舞台はとある街、会社員の男性ファウストは街中で配られたチラシに興味を持ち、チラシを頼りに古い館へと向かう。

そこで物語のファウストとして、悪魔メフィストフェレスと「あらゆう悦びを体験できる全治全能の力」を得るために、悪魔の契約を交わす…。

出演役者

本作の主人公ファウストを演じるのが「ピーター・セペック」

配信コンテンツ

「ファウスト」は今現在、Amazonプライム、等で配信されている。

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ネタバレ感想と考察

鬼才ヤン・シュヴァンクマイエルが描く、悪魔と契約した魔術師の物語!!

これまでにも数々の怪作を世に放ってきたヤン・シュヴァンクマイエル監督は、その独創的すぎる作風から「鬼才」の名を欲しいままにしてきた。

今回彼が挑んだのは悪魔と契約する魔術師の物語「ファウスト」であった。

本作を鑑賞するに至った皆さんも、恐らくは前作の「アリス」を鑑賞済みである人も多いことだろう。

 

前作のアリスの衝撃を引き継いだまま、2作目として世に放たれたのが今回の作品だ。

前作「アリス」では粘土細工を用いたコマ送りのような演出が多用される世界観となっていたが、本作のメインとなる演出は「人形劇」だった。

人間の役者を使いながらも「その人間にカラクリ人形を着させる」なんて演出、シュヴァンクマイエル監督でなければ生み出すことができないだろう。

前作アリスでは不気味ながらもファンタジー作品のリメイクであったが、本作「ファウスト」は完全なるダークな作品となった。

一体今回はどんなアレンジをしたのか…?

そもそも「ファウスト」って誰?

シュヴァンクマイエル監督の手によれば、どんなリメイク作品もパラレルワールドとなってしまうが、そんな中今回描かれたのは、15世紀のドイツに実在したとされる「ファウスト」という魔術師の話だ。

こちらの「ヨハン・ファウスト」という人物の「実際の生き様を描いた自伝」と「創作物語」と大きく二種類のジャンルに分かれ、それぞれの内容が全く違ったものとなっている。

今回映画のベースとなるのが「創作物語」の方だ。

「ファウスト」についての物語は、実はたくさんの種類の創作物語が存在しているわけだが、今回映画の原作となった「民衆本」の物語を紹介してみよう。

民衆本「ヨハン・ファウスト」

ヨハネス(ヨハン)・ファウストは月夜のある日、魔法円を描きサタンを召喚し、サタンの従者メフィストフェレスを呼び出した。

そして、メフィストフェレスを24年間使役するかわりに、自分の肉体と魂を売る契約をした。

ファウストは贅沢な暮らしの中、近所の娘に恋をした。

その娘と結婚したいと欲するも、メフィストフェレスとの契約に違反するため願いは叶わなかった。

そしてファウストは、ギリシア神話のヘレンを連れてくるようにとメフィストフェレスに命じた。

同棲の末、ファウストとヘレンはユストゥスという息子をもうけた。

だが最期にファウストはその息子ユストゥスに殺された。

今回元となるのがこのストーリーだ。

映画とは全く違う展開に驚いた人も居るのではないだろうか?

…いや、「この監督ならやりかねない…」と感じた人も多いのかもしれない…。




原作とはどう違ったのか?

いつもは「原作ブレイカー」と名高いシュヴァンクマイエル監督であるが、今回のアレンジは以外にも斬新でクールなアレンジだ。

まず、舞台となるのは「現代」となっていたのだ。

物語の中でのファウストは15世紀前後の話で、占星術士として活躍していた。

しかしリメイクされたファウストはなんと「サラリーマン」である。

そんな中年サラリーマンがファウストとして、悪魔と契約を交わすような突拍子もないことができてしまうところは「さすがシュヴァンクマイエル!!」というところだろう。

そして作中では、「人形劇」が繰り広げられ、それに参加している場面も見える。

これは前項で記述した「たくさんの種類の創作物語」という部分にリンクしてくる。

映画内でファウストが館に足を踏み入れ、その館内でも人形劇「ファウスト」が公演される流れとなっているが、ここで展開されるのが1846年の「人形芝居ファウスト」という物語だ。

「人形劇ファウスト」を演じるファウストが悪魔と契約する…という難解な物語がそこからは進行していくこととなる。

物語のファウストはありとあらゆる私欲を尽くし、「ヘレン」という女性と同棲し、子を授かることとなる。

しかし映画では、このヘレンに扮した悪魔「メフィストフェレス」と行為を行い、馬鹿にされるような滑稽なシーンとなる。

こういう遊び心が鬼才シュヴァンクマイエルたる所以となるのだろう。

そしてラスト、物語では結局その授かった子供「ユストゥス」に殺害される終わりとなる。

対して映画では、24年間の契約を終え肉体を売り渡すのが怖くなったファウストは、なんと地上へ逃げ出してしまう。

そして車に轢かれて死亡する…という終わり方となる。

あまりにもあっけなく、そしてセンセーショナルな終わり方に見えるだろう。

ちなみに悪魔との契約は24年間の期間であったが、映画では「昼も夜も使役していた。」との悪魔の発言から、年単位で12年間の歳月で魂を売り渡すこととなる。

なんとも理不尽なシュヴァンクマイエルの世界観…。

余談ではあるが、前項で記述した実在したファウストの最期であるが、「錬金術の実験中に爆死し、五体はばらばらとなった」という逸話も残されている。

「事実は小説よりも奇なり」という言葉はこの物語のためにあるのだろう…。