「アナザー・ラウンド」ネタバレ感想と考察【血中アルコール濃度0.05%を維持すれば幸せになれる!?】

  • 2023年6月6日
  • 映画
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本記事は、映画「アナザー・ラウンド」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。

鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。

「アナザー・ラウンド」

2020年、トマス・ヴィンターベア監督によって制作された、デンマーク、オランダ、スウェーデンの合作映画。

アルコールについての仮説を検証する中年男性たちの物語。

上映時間は117分。

あらすじ

舞台はとある街。

しがない中年男性であり高校教師として務めるマーティンは、子宝に恵まれた家庭を築きながらも、家族や生徒からの「つまらない教師」という退屈な毎日に嫌気が差していた。

そんなある日、仕事場の仲間たちと飲酒した際、とある計画を練る。

それは「常に血中アルコール濃度を0.05%に保てば、良いパフォーマンスができる」という仮説だった。

そして4人は、仕事前に飲酒を始める…。

出演役者

本作の主人公、歴史の教師マーティンを演じるのが「マッツ・ミケルセン」

配信コンテンツ

「アナザー・ラウンド」は今現在、Amazonプライム、U-NEXT、Hulu、等で配信されている。

Amazonプライム

U-NEXT

Hulu




ネタバレ感想と考察

デンマークのコメディはやっぱりオシャレでミュージカリー!!

アカデミー賞の国際長編映画賞、ゴールデングローブ賞の外国語映画賞などを受賞した経歴があるこの作品、デンマーク映画、オランダ映画、スウェーデン映画の世界観があらゆるところから感じ取れる作風に仕上がっていた。

本作は最後まで普通のヒューマンドラマとしての展開で、山あり谷ありの飲酒生活を送っていく…。

そして最後で展開されるミュージカルシーンこそが、本作品の「陽」の部分を解き放つような演出に感じた。

「ミュージカル映画」と言われると、普通は映画中のチャプター毎に歌って踊るシーンがあるが、本作に限っては最後の最後で「歌って踊る」という終わりだ。

後にも先にも、この部分しかミュージカルシーンが無いのだ。

(厳密には作中に酔った勢いでの絡みはある…。)

2時間の映画のうち、ミュージカルはラストの2〜3分だけなのに、なぜこの作品が「ミュージカル映画」という括りで観られているのか?

こんな素朴な疑問がこの映画の「核」であると筆者は考えた。

ラストシーンのインパクトの要因

本作が「ミュージカル映画」として鑑賞される理由、それはやはり「ラストシーンのインパクト」に依存しているところがあるだろう。

そしてその要因はいくつものからくりが仕掛けてあるのだ。

①マーティンの「静と動」

映画序盤はしがない中年男性として生活しているマーティンだが、飲酒を始めてから徐々に自分が解放されていく描写がある。

彼の授業に心打たれ、生徒は次第にマーティンに心を開くようになっていく。

そして最後で、マーティンの全てが解放される。

中年の教師とは思えないような躍動感のあるダンスはこれまでのマーティンのイメージをぶち壊す破壊力のある「キャラ変」となったのだ。

②それぞれの境遇が交錯するシーン。

このラストシーン、色々な者が酒を飲みダンスをするシーンだが、参加する全ての人にそれぞれの境遇がある。

・学生たち
試験に合格し、その祝いに晴れてパーティを開いている。

・マーティン
奥さんと別れ離れて暮らすも、マーティンのアプローチによりもう一度妻と「よりを戻す」やり取りをした。

・ピーター
やっとの思いで彼女ができ、自分が教えた生徒も成功を収めた。

・ニコライ
そもそものこの「仮説」の発案者であり、家にも大量の酒が置いてある。

そして、教師たちはこれの前に「トミーの死」という壁を乗り越えていた。

映画のテーマとしては人によって捉え方が変わると思うが、筆者の考えでは、酒を肯定し人生を明るく生きる…というのが本質にあり、それを魅せるための人生を紆余曲折を描く作品だと感じた。

そしてそんな映画テーマは、監督自身の身に降りかかることになる…。




最後の「アイダに捧ぐ」の真意とは?

本作の映画の最後には黒背景に「アイダに捧ぐ」というテロップが流れる。

よくある映画の「追悼の形」で、恐らくは「亡くなった誰か」に捧げているのだろう…と考えていた。

しかし、その内容は想像を絶するものだった。

この「アナザー・ラウンド」の撮影が始まって4日目、なんと監督ヴィンターベアの娘が交通事故によって亡くなっているのだ。

そして元々はこの作品、娘アイダは当初はヴィンターベアに映画に出演させるように頼み、主人公マーティンの娘役が予定されていたというのだ。

今回のアナザー・ラウンドを描くに当たり、インスピレーションとして「デンマークの若者の飲酒文化」というものが取り上げられているが、これは娘アイダから聞いていた話であること、そして「アルコールがなければ世界の歴史は違っていただろうという説に基づくアルコールの祝祭」と映画テーマが定まっている作品だった。

しかし娘の死後、映画の脚本は書き直されることとなる。

ヴィンターベアは映画のテーマを「それはただ飲酒についてだけではない。人生に目覚めることについてだ」と描き改めた。

ここからは筆者の映画に抱いた感想と考察になる。

世の中、「お金持ち」でも「不幸せ」な人間は居て、「貧乏」でも「幸せ」だと思う人はいる。

結局のところ、当事者の感じ方一つ、受け取り方一つなのだ。

そしてアルコールは、そんな考え方を良くも悪くも変えてくれるアイテムの一つだった。