本記事は、映画「ダンケルク」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。
「ダンケルク」
2017年、クリストファー・ノーラン監督によって制作された作品。
第二次世界大戦中のイギリスの作戦「ダイナモ作戦」を描いた物語。
上映時間は106分。
あらすじ
舞台は第二次世界大戦のフランス、ダンケルク海岸。
小隊に属していたトミー二等兵は仲間が全て死んでいく中、一人ダンケルク海岸へ生き延びた。
この時ダンケルクではドイツの侵略からイギリス兵を脱出させる「ダイナモ作戦」が敢行されている真っ最中だった。
国に帰りたいトミーは、現地で知り合ったギブソンと共に、ダンケルクからの脱出を試みる…。
出演役者
本作の「陸」の主人公トミーを演じるのが「フィン・ホワイトヘッド」
「海」の主人公ピーターを演じるのが「トム・グリン=カーニー」
「空」の主人公コリンを演じるのが「ジャック・ロウデン」
配信コンテンツ
「ダンケルク」は今現在、Amazonプライム、NETFLIX、U-NEXT、Hulu、等で配信されている。
ネタバレ感想と考察
これぞノーラン節!「陸・海・空」の同時進行物語!!
この物語、セリフが少ないが故にその時の状況がわかりずらい側面もあるように感じた。
場面も移り変わり、時系列もよくわかっていなかった鑑賞者も多かったことだろう。
それもそのはず、この物語は「陸・海・空」の3つの物語が同時進行し、しかも「その長さがバラバラ」であるからだ。
そしてその全ては当時イギリスで実際にあった「ダイナモ作戦」の中の話だ。
ダイナモ作戦
1940年、ドイツの侵攻によって範囲を狭められたイギリス、フランスの連合軍が「ダンケルク脱出」のためにイギリス軍192226名、フランス軍139000名を脱出させるという、大規模脱出作戦。
イギリスは駆逐艦のみならず、貨物船、遊覧船、漁船、商船などの民間の船も利用した。
これに対しドイツは、「撤退阻止行動」としてダンケルク海岸を爆破する。
ここからはストーリーの時系列について詳しく説明していこう。
・「陸」の物語
主人公のトミー二等兵は無口な兵隊「ギブソン」と知り合い「ダイナモ作戦」に参加するが、脱出対象となる部隊でなかったために、置き去りにされてしまう。
・「海」の物語
イギリスの民間船の船長ドーソンは、「ダイナモ作戦」での船の徴用命令を受けて、息子ピーターとその友人を連れて、ダンケルクへ行く。
・「空」の物語
空軍パイロットのフィリアとコリンズは「ダイナモ作戦」を成功させるため、ダンケルク海岸上空でドイツ空軍の敵機と交戦していた。
この3つの物語であるが、実は「進行時間」がバラバラとなるのが本作の面白い点でもある。
「陸」の物語は一週間、「海」の物語は一日、「空」の物語は一時間の長さの物語で、全部が同じ時間軸のように展開されていくのが本作の面白いところだ。
そして最後、3つの物語は一つに交わることとなる。
いかにもクリストファー・ノーランらしい脚本で、戦争映画としても迫力ある作品となっていた。
映画の「サイレント」感と、それに呼応するオチ。
本作の上映が始まってからの最初の主人公トミー、「陸パート」の主人公であるが、なんと彼は映画の中で殆どセリフのないキャラクターとなる。
実は本作、ノーラン監督があえてごく僅かなセリフで映画を構成したのも制作秘話として語られているのだ。
人が笑い泣き叫ぶ群衆場面でもディテールにこだわり、「サイレント映画」を研究して制作されるほどのこだわりとなっていた。
そんな効果はとても顕著に現れ、そして、もう一つの「オチ」への導きにもなっているのだ。
本作の後半で物語の面白いオチ…それは「相棒のギブソンがフランス兵だった」ということだ。
浜辺に打ち上げられた商船に乗ったトミーとギブソンは、他部隊のメンバーによって糾弾されるシーンがあり、ここで初めて発覚するオチとなるのだ。
前半で作りあげた「サイレント映画」のイメージをそのままに、「喋るとフランス兵であることがバレる」というギブソンの立ち位置までをセットで仕上げていることは驚きだった。
このような男気溢れるアクションシーンがメインとなる戦争映画では、なかなか描かれることの無い「トリッキーな脚本」がクリストファー・ノーランの作品の真骨頂でもあるのだ。
ノーラン監督ゆえに言われる…キツすぎるダメ出し!
クリストファー・ノーラン監督ほどにもなると映画を一本仕上げるだけでもかなりの巨大なお金と人が動くことになる。
そんな彼が、扱う人を選ぶような「戦争映画」という題材に手をかけることは、それだけでも注目の的となった。
戦争映画において大きく評価される部分は、なんと言ってもその「リアルさ」だろう。
そんな中、本作におけるテーマ、ダンケルクでの「ダイナモ作戦」自体は事実ではあるが、その登場人物などは一通りがフィクションの人物となっている。
そして映画を「映画」として成り立たせるために、これらの要素は少しづつ、史実とズレが生じてくることとなる。
例えば、作中の「将校がベレー帽を着用せずに敬礼しているシーン」に関して、退役軍人の人から「不正確な礼儀作法」などの言葉も貰うこととなる。
また本作の「空」パートにおいて、ファリアとコリンズの「無謀な残燃料での戦闘」、そして「燃料を使い果たし不時着すること」は常識に反しているとも語られている…。
対して、イギリス空軍の戦闘機「スピリットファイア」による空撃シーンはとても評価の高いものに仕上がっている。
空を舞いながらの天地逆転や360°の旋回シーンは、手持ちカメラを使い撮影されている。
中では、修理した戦闘機を撮影のためだけに水没させるという徹底した演出も施された。
カネのかけ方はやはりノーラン監督らしく、そんな重圧に負けない大作に仕上がっていた。