本記事は、映画「パプリカ」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。
「パプリカ」
2006年、今敏監督によって制作された作品。
精神医療研究所から盗まれた他人の夢を共有できる装置「DCミニ」を取り戻す物語。
上映時間は90分。
あらすじ
舞台は日本、とある精神医療研究所で画期的な機械が開発された。
それは「DCミニ」と言い、他人の夢を共有できるヘッドセットだった。
ありとあらゆる娯楽や治療に使われる世紀の大発明かと思われたが、ある日DCミニの試作品が複数盗難されてしまう…。
出演声優
本作の主人公、千葉敦子とパプリカの声優を担当するのが「林原めぐみ」
研究所の事件の担当刑事、粉川の声優を担当するのが「大塚明夫」
研究所職員の小山内の声優を担当するのが「山寺宏一」
配信コンテンツ
「パプリカ」は今現在、Amazonプライム、Netflix、U-NEXT、等で配信されている。
ネタバレ感想と考察。
作品の全体的な世界観について。
本作を制作した今敏監督、彼の最初の作品「パーフェクトブルー」では、作品テーマとして「現実と虚像の交錯」が描かれていた。
そして今監督の最終作「パプリカ」でも似たような状況が描かれている。
今回描かれるのは「現実」と「夢の中」の話で、「今が現実か?夢か?」がわからなくなるパラレルワールドの世界観が本作の真骨頂だ。
そして、パーフェクトブルーのような今監督のダークな世界観のイメージを一新するような煌びやかな世界観が本作では展開されていく…。
作品全体が華々しい配色で彩られ、「奇妙」であるが「恐怖」はない、独特な演出も多かった。
作品テーマ「二重構造」について。
この作品であるが、実は今までに今敏監督が描いたどの映画よりも難解で奥深い。
なぜなら、その内容を紐解くと聞いたこともない「哲学者の名著」などが絡んでくるからだ。
まずは今作品のテーマを洗い出してみよう。
この作品のテーマとなるのが「二重構造」だ。
そしてこれはそれぞれのキャラクター相関図で明らかになる。
・プライドが高くネガティヴな「乾理事長」とおおらかでポジティブな「島所長」
・嫉妬深く凡人の「小山内」と寛容で天才肌の「時田」
・映画撮影を心半ば逝去した「アイツ」と映画を諦め刑事になった「粉川」
・冷静で繊細な「千葉」と天真爛漫な「パプリカ」
それら全てが対になっている人間相関図なのだ。
そんなテーマを抱えて物語は進んでいくこととなる。
あらすじで考察してみる。
簡単にあらすじを整理してみよう。
始まりは粉川の夢の中、彼は「悪夢」にうなされる精神疾患を抱えていた。
ここで「パプリカ」が彼の処方をする。
まだ公式に使用を許されていない「DCミニ」を治療にしようとしていたのだ。
(これは精神研究所の島と粉川が旧知の仲であったため。)
結果として、パプリカの正体は「千葉の夢の中の人格」という考え方が一番しっくり来た。
ここからは「DCミニ」を巡る現実と夢が交錯する物語となるが、DCミニを盗んだ犯人は疾走した「氷室」ではなかった。
彼もまたDCミニの暴走による被害者だったのだ。
ここら辺の「パレード」パートの夢の描かれ方は非常にセンセーショナルだった。
そして真犯人は一緒に事件を操作していた「小山内」と理事長の「乾」だった。
小山内は乾とふしだらな関係にあり、今回の事件を引き起こした。
そしてDCミニの暴走の結果、現実と夢の世界が交錯し、乾と小山内が融合、「愛を知った」千葉が乾を夢から解き放つこととなった。
この物語は一人ひとりのバックグラウンドがあまり語られずパラレルワールドで進行し、理屈で説明がつかない要素が多いが故に、非常に複雑な作品となる。
作品の映像と世界観、そして2度目、3度目と鑑賞する面白さがメインとなってくるように感じた。
裏の主人公!?「小山内」について。
今作品の黒幕の一人「小山内(おさない)」であるが、彼は最初は一緒に一連の事件を捜査する仲間として活動していた。
そんな彼が「主人公ばり」に闇を纏った、本作の裏の主人公でもあるように感じた。
彼の境遇を紐解いてみると、まず浮かぶのが「才に嫉妬した凡人」という立ち位置だ。
映画の最初での時田との会話から見ても、それは成り立つ。
そして彼は主人公である千葉を「愛していた」のだ。
映画の終盤、彼は理事長の乾とふしだらな関係性にあったが、それは「本意ではなかった」。
そしてDCミニが必要と知った彼は、まず最初に「氷室」に近づく。
氷室は時田の助手であったが、小山内は試験品のDCミニと引き換えに氷室に体を売っていた。
それは夢の中でのパプリカのセリフ「アイドルだったのでしょう?氷室君の。その身体で、”DCミニ”と取引したんでしょう!?」から読み取れる。
そして氷室の部屋には「HARD BOYS」というゲイの雑誌も見つかっているのだ。
極めつけは氷室の夢の中、なんと裸になった小山内の胸像がそびえ立っているのだ。
作者である今敏監督は、今回の小山内の立ち位置について「幼い」と掛けているキャラクターだとも語っている。
彼の千葉に対する歪んだ愛の形は、彼の不遇な人生を物語り、そして共感すらも与えてくれる。
「平沢進」と豪華声優陣。
本作品の音楽全般を担当したのが、プロのミュージシャン「平沢進」
2023年のアニメ「ベルセルク」でもOPや劇中歌を務め、話題となったアーティストだ。
彼は他のミュージシャンと少し違った価値観を持って作曲やライブに取り組んでいる。
それは「音楽やライブにコンピュータを持ち込むこと」だ。
いつでも斬新な彼の音楽は、今作のパプリカの世界観と非常にマッチしていた。
作品の監督今敏は、実は過去の作品「千年女優」でも平沢進とタッグを組み、作品を世に出しているのだ。
また、本作を鑑賞するにあたって、「聞いたことある声ばかり!!」と感嘆した鑑賞者も多いことだろう。
主役を務めるのはあの「林原めぐみ」、更には「大塚明夫」や「山寺宏一」など、誰もが知っている声優のオンパレードとなっている。
ここからは完全な筆者の感想になるが、本作品のプロットそのものが2002年のアニメ「攻殻機動隊 SAC」を思い出してしまうのだ。
こちらでは電脳化された世界を中心に描かれる物語だが、「仮想世界と現実のリンク」が描かれる点においては非常によく似ている。
また、メインキャラクター2人の声優をそれぞれ「大塚明夫」と「山寺宏一」が演じていることも興味深い。
主人公の草薙素子も、どこか本作の千葉を思わせるようなクールなキャラクターとなっている。
こんなところにも関係性があってこその「日本アニメ」というロマンを感じたいものだ…。