本記事は、映画「砕け散るところを見せてあげる」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。
「砕け散るところを見せてあげる」
2021年SABU監督によって制作された。
竹宮ゆゆこによる同名小説が映画化された作品。
いじめられっ子の一人の女子高生と、それを助ける男子高校生の物語。
上映時間は127分。
あらすじ
舞台は日本、高校三年生の濱田清澄は受験を控える普通の高校生だった。
人一倍正義感が強い彼は、ある日いじめられっ子である蔵本玻璃をいじめから助ける。
そして清澄は、玻璃に次第に惹かれていく…。
出演役者
本作の主人公、清澄を演じるのが「中川大志」
本作のヒロイン、玻璃を演じるのが「石井杏奈」
玻璃の父を演じるのが「堤真一」
配信コンテンツ
「砕け散るところを見せてあげる」は今現在、Amazonプライム、U-NEXT、等で配信されている。
ネタバレ感想と考察
「青春」×「サイコスリラー」異色のパラドックス
本作を前情報ナシで見始めると、映画が始まってすぐに理解する。
「ああ〜こういう映画か…」
そう、熱血すぎる男子高校生にいじめられっ子の女子高生…完全なる「青春映画」なのだ。
思った通りの展開で映画は進んでいくが、玻璃の家庭問題に差し掛かると映画のジャンルは一気に変わることとなる。
本作は「サイコスリラー映画」へと変貌を遂げる。
これはある意味では「邦画らしい展開」のやり方ではあるが、これがなんとスムーズにジャンル転換されていることだろうか…。
鑑賞者目線でも「いつの間に…」と思うほど自然に作風転換が行われているのだ。
そして前半での痛々しいほどの清澄の熱血キャラクター、面白いほど素直に心を開いていく玻璃、ベタベタな高校生の恋愛青春映画からは想像もつかないほどの「血しぶき」が飛び交う後半とのギャップこそが、最大の見どころと筆者は考えている。
驚愕…贅沢すぎる「堤真一」の使い方!?
本作の後半の「狂気の核」となるのが玻璃の父親の存在だろう。
物語の中盤から徐々に明らかになる玻璃の家庭環境であるが、その全ての伏線がこの人物へと繋がっている。
そしてこの名も無き父親を演じているのが「堤真一」という大御所中の大御所俳優となった。
「堤真一をこんな使い方するの?」という鑑賞者の心の声がどこからでも聞こえてくる。
結果としては、玻璃の母親も、祖母も、彼に殺され、清澄や玻璃でさえも死の一歩手前まで痛ぶられることとなる。
本作は「UFO」と比喩された彼の異次元の狂気に、必死で抵抗する物語でもあるのだ。
「青春映画」としての一面を持つ本作は、もっともらしい「笑い」も多く織り込まれている。
そんな「笑い」と「狂気」のバランスを上手く調和させた堤真一の怪演に注目できる作品だろう。
原作小説とタイトルの謎
本作は竹宮ゆゆこ氏による同名小説が原作となっているが、これが「原作に非常に忠実に作られた映画である」と話題にもなった。
時系列的には「映画」として演出するのに、非常に際立っていた場面転換が小説でも全く同じ内容で繰り広げられていることに少々驚いてしまった。
またタイトルの「砕け散るところを見せてあげる」であるが、これは一体何を意味するのだろうか?
この物語において砕け散ったのは二つ、「UFO(玻璃の父親)」そして「清澄」である。
物語の冒頭で父親(清澄)のことを言及する玻璃の子供であるが、そんな清澄の勇姿を「砕け散るところを見せてあげる」と表現しているのではないかと筆者は考えている。
目で見てはいなくても、子の心には伝わっている演出もある。
「青春映画」であり「サイコスリラー」であり、最後はどこか「SF」を感じさせる終わり方は狐につままれたような気分になりながらも、悪い気にはならない終わり方だった。