本記事は、映画「蛇イチゴ」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。
「蛇イチゴ」
2003年、西川美和監督によって制作された作品。
幸せだが、どこが歪な一般家庭を描く物語。
上映時間は108分。
あらすじ
舞台は日本の明智家という家庭、義父の介護に追われる専業主婦の章子は、精神をすり減らし、とうとう義父を見殺しにしてしまう。
同じ頃、一家の大黒柱である芳郎も、会社をクビになり、内緒で借金をしていた…。
出演役者
本作の主人公の一人、父の芳郎を演じるのが「平泉成」
妻の章子を演じるのが「大谷直子」
一家の長男である周治を演じるのが「宮迫博之」
妹の倫子を演じるのが「つみきみほ」
配信コンテンツ
「蛇イチゴ」は今現在、Amazonプライム、等で配信されている。
ネタバレ感想と考察
デビュー作とは思えない…西川監督の鬼才を感じる作品。
今作の監督、西川美和監督は、元々人間の黒い部分を描くことに長けている監督だと思っている。
それは今作以降に世に放たれる2006年の「ゆれる」、2009年の「ディア・ドクター」を観ても明らかだろう。
その中でも、人間の光と影の部分が特別浮き彫りにされているのがこの「蛇イチゴ」だ。
彼女のデビュー作である本作品であるが、デビュー作とは思えないほどの脚本、そして演出のクオリティの高さに、鬼才を感じざるを得ない。
人間の生々しく汚い部分を露わにする作品…
人間の光と影が描かれている作品とは言ったが、それら全てが「家族内」で描かれているのがまた面白い。
各キャラクターの境遇を整理してみよう。
母、章子…認知症である義父の介護に「円形脱毛症」になるほど精神をすり減らし、義父の体調不良を放置し、死なせる。
娘、倫子…小学校教員として務め、同じ学校教諭の金持ち息子と交際している。
息子、周治…数年前に一家を勘当され、一人フラフラと生きている。世間を賑わせた葬式の香典泥棒の犯人。
家族四人ともが各々にそんな「黒さ」を露呈していて、「正解が見つからない問題」も大きく取り上げられている。
こんな「日常生活」の中で描かれる人間の醜さは、どんな映画作品で描かれる設定よりも、リアルに感じただろう。
皆さんの身の回りにも、同じような境遇の人間が誰か一人は居るはずだ。
いや、本人の口からは言わないだけで、確実に「居る」だろう。
キーマンとなる「倫子」と「周治」の立ち位置について。
映画を観始めて序盤〜中盤、物語のメインストリームとなるのは母の「章子」と父の「芳郎」だ。
今回の作品の「人間の醜さ」の部分をひたすらに凝縮した立ち回りのキャラクターであり、鑑賞者にインパクトを与える出来事を起こしていく…。
そしてそれを見守る「倫子」という存在。
彼女こそがこの物語の唯一の「光」であり、品行方正な美少女としての立ち位置であった。
そして中盤から登場する「周治」という長男。
彼は反対に「影」の部分を凝縮したようなキャラクターとして登場した。
当たり前のように、物語の中ではこの「光と影」がぶつかるようなシーンが数多く描かれているが、最後まで映画を観ていくと、面白い感情の変化が起こる。
それは「倫子の性格が歪んで見えてくる」という現象だ。
いつでも真っ直ぐな目で人間の正しい行いを提唱する彼女ではあるが、そんな「綺麗事」ばかりを述べるキャラクターに成り下がってしまうのだ。
一方で破天荒な周治のキャラクターはと言うと…影の部分が180°回って「頼もしいキャラクター」として生きてくる。
この感情の変化が本作一番の演出だろう。
「世の中、綺麗事だけでは乗り切れない。」
そんなことを思わせてしまうようなテーマを持った作品だった。
そして最後、どこからどう見ても「ウソ」であるかのような「蛇イチゴ」は実際に存在していた…。
まさに倫子のような「光をだけを見てきた人間」に対するアンチテーゼのような演出となっていた。