本記事は、映画「ヴィーガンズ・ハム」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。
「ヴィーガンズ・ハム」
2022年、ファブリス・エブエ監督によって制作された作品。
売れない肉屋が「人肉販売」を始める物語。
上映時間は87分。
あらすじ
舞台はフランス、売れない肉屋のヴァンサンとソフィアは結婚30年。
すっかり倦怠期と化した家庭に、家計も厳しい状態が続いていた。
そんなある日、ヴィーガンの活動によって店内は荒らされ、その報復としてヴァンサンは活動家を殺してしまう。
死体の処理に困ったヴァンサンがその肉を客に提供してみると…。
出演役者
本作の主人公、肉屋のヴァンサンを演じるのが「ファブリス・エブエ」
なんと本作の監督自身である。
妻のソフィアを演じるのが「マリナ・フォイス」
配信コンテンツ
「ヴィーガンズ・ハム」は今現在、Amazonプライム、Netflix、等で配信されている。
ネタバレ感想と考察
グロすぎるのに何故か観れる!?
発祥はフランス、ホラーでありながらもコメディとしての一面も持ち合わせるこの作品では非常にグロテスクな描写がストレートに表現されるのが特徴だ。
しかしながら、そんなグロテスクな描写も何故か「観れる」ような作風に作り上げられているのが印象的だった。
「グロさは行きすぎるとリアリティが無くなる」
これはグロテスクな映画作品全てに共通するテーマだろう。
この辺のバランスをぶっ壊すような描写が今回の作品の現実感を無くし、コメディ色を強くさせている一つの要因だろう。
また余談ではあるが、主演のヴァンサンを務めるのは本作の監督である「ファブリス・エブエ」自身である。
「ウィニー」の謎…。
物語の最後、捕まったソフィアが「後悔していることは?」とは裁判官に問われるシーンがある。
これに対して、ソフィアは一言だけ、「ウィニー」と発言する。
この意味深な終わり方にはいくつかの解釈ができる。
狩猟を始めた2人のヴィーガンの犠牲者の一人。
ぽっちゃりした優しい青年で、殺害を免れて森の中に逃げるが、心臓発作で亡くなる。
また、この直後のシーンで彼の心臓に入っていたと思われるペースメーカーも見つかる。
①ウィニーを「殺さなければよかった」という後悔
ウィニーは優しい青年であり、彼のペースメーカーによって2人は捕まることとなる。
ウィニーの肉を友人に振る舞わなければ、彼らは捕まることがなかったのだ。
物語の内容から見れば一番自然な解釈はこれになるだろう。
しかし、どこかシニカルな笑いを含むこの「ウィニー」という一言には別の意味も感じ取れる。
②ウィニーを「食べ損なった」
ウィニー殺害の直後のペースメーカー発覚のシーン、食事の途中で口論となり、テーブルの上の肉はそのままに親友夫婦と仲違いする。
最後までウィニーを「完食」することができなかったのだ。
また、「美味なヴィーガン」の条件として、「太っていること」を挙げるヴァンサンとソフィアは、ウィニーと出会った時に笑みを浮かべるほどの感情変化を見せ、ソフィアは「私のピグレット」とも揶揄する。
それほどまでに「食肉」として優秀だったことへの後悔とも感じ取れる。
または、そんな2つの理由どちらもがこの一言には含まれているのだろう。
この作品は…実話だったの??
この作品のタイトルを検索欄に入れ、スペースを入力すると、Googleでは「ヴィーガンズ・ハム 実話」との予測検索が出てくる。
アメリカにおいて「カニバリズム」が犯罪としての前例が多いことは、現実でもよく聞く話ではあるのだか…。
こんなぶっ飛んだ物語が実話だったのだろうか??
結論から言ってしまえば、いくら調べてもこの物語のソースは出てこない。
物語は完全なるフィクションと捉えるべきだろう。
しかしながら、この世界で過去に「人肉を販売した」という記録は僅かながら残されている。
北朝鮮の「人肉冷麺」だ。
こちらは戦時中の北朝鮮にて人肉が入った冷麺を販売していた男が逮捕された…というものだ。
そして「販売」はしないにしろ、「パリ人肉事件」などを筆頭に世界を震わせるカニバリズム事件も数多く起きている。
そんな「カニバリズム」というダークな要素に、現代では日常と化した「ヴィーガン」という社会色を融合させた怪作、よく出来た作品だった。