ソラニン【ネタバレありなし徹底考察】

本記事では、
前半で、映画紹介&見どころレビュー
後半で、ネタバレ解説&徹底考察を行います。

「ソラニン」

2010年三木孝浩監督により制作された青春映画。
浅野いにお原作となる同名漫画を実写化した作品である。
大学を卒業し惰性で音楽を続けながら生活する、とあるカップルの物語。
上映時間は126分。

あらすじ

舞台は現代の東京、大学を卒業して2年が経つ種田成男井上芽衣子は、
大学の軽音楽サークルで出会い、そこから付き合いはじめ同棲していた。
未来のことなどわからぬままに日常生活を送っていたある日、芽衣子は嫌気が差し、
会社を退職する。

種田はアルバイトをしながらも、
ライブもしないままに仲間たちと月二回のスタジオ練習を続けていたが、
ある日「逃げていないで本気で音楽活動をしてほしい」と芽衣子から想いを打ち明けられる。

そんな彼が一つの曲を作り、レコーディングに臨み一枚のCDを作り上げる。
曲名は「ソラニン」、種田のバンドは思いを込めたCDをレコード会社に送る…。

出演役者

今作の主人公、種田成男を演じるのが「高良健吾」

 

もう一人の主人公、井上芽衣子を演じるのが「宮崎あおい」である。

 

種田のバンドのベース、加藤を演じるのは「近藤洋一」
彼自身が「サンボマスター」というバンドのベースとして活躍している。

 

ドラムのビリーを演じるのが「桐谷健太」

見どころ①「まだ大人になりきれない人たちに刺さる青春映画」

夢もなく、希望もないままに惰性で音楽を続ける種田達。

売れる気があるのかないのかもわからないままに日常を送る彼ら
自分を重ねてしまうような作品であり、
大学卒業後の虚無感を引きずったような描写が
とてもリアルに描かれているのが今作の身どころだろう。

夢も追わないままに仕事をして、自分の中に「毒」を貯めてしまっている、
と感じる人々にこそ是非とも観てほしい作品である。

ちなみにタイトルの「ソラニン」の意味は、
ジャガイモの毒の芽のことである。

見どころ②「サブカルチャーの金字塔、浅野いにおとアジカンの魅力が光る」

今作の原作である漫画を描いた「浅野いにお」
日本のサブカル文化をけん引するような彼の作風は、
世の中に数多くのファンを作っている。

今作の「ソラニン」は彼の代表作であり、
そんな中公開された「実写映画化」の情報には正直な不安が纏わりついたが、
心配するには至らなかった。

登場人物たちの心情や行動はリアルに描写され、
脚本は原作のセリフに忠実に再現されている。

また、原作に登場する楽曲「ソラニン」は、日本をけん引するバンドである、
「ASIAN KUNG-FU GENERATION」が元の詞に曲をつけ仕上げた。
その「ソラニン」が役者により演奏され、作中で流れるシーンはアジカンファンの全員が注目し、
心が震えるシーンとなっただろう。

ちなみに、原作の浅野いにおが漫画作品のタイトルに「ソラニン」というタイトルを付けたのは、
当時の浅野の彼女の「アジカンの新しいアルバム、ソラニンって言うんだって」
という一言がきっかけである。
(実際に出たアルバムは「ソルファ」だった。)

配信コンテンツ

「ソラニン」は今現在、
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※ここからネタバレあらすじ

種田のバンドがレコーディングしたCDをレコード会社に送ると、とある一社から声がかかった。
期待に胸を膨らませ会社に行ってみると、自身の楽曲でなく、
アイドルのバックバンドとしてのデビューの話だった。
無言でうつむく種田だったが、そこに居合わせた芽衣子が種田の気持ちを察するように断る。

その後もCDの反響はなく、秋が訪れようとした矢先、突然種田は芽衣子に別れを切り出す。
なんとかその場は和解したが、種田はその日を境に5日間の音信不通の失踪をする。
5日後、無事に連絡が取れると、種田はこれまでの不安を打ち明け、バンドも続けることを約束し、
「これからは2人で幸せになろう」と意気投合する。

その帰り道、種田は原付で信号無視をし、交通事故に遭い帰らぬ人となってしまう。

それからの2か月間、芽衣子は種田の温もり残るアパートで、
心にぽっかりと穴が開いたような2ヶ月間を過ごす。

そんなある日、種田の父がアパートを訪れ、彼の荷物をまとめていく。
「こんなものが芽衣子さんの心を傷つけるなら…」と置いてあるギターを持ち帰ろうとするが、
その手を止めたのは芽衣子自身だった。

芽衣子は種田のギターを抱え、
当時の種田のバンドメンバーである加藤、ビリーとともにバンドを再開する。

ギターは初心者同然であったが、努力を重ね、ついにライブハウスのステージに立つ。

そして芽衣子は種田のギターを使って、彼が作った楽曲「ソラニン」を歌う。

ネタバレ徹底考察

「種田」という人間について

ぼくが本作品を視聴してまず初めに感じたことは「種田のプライドはものすごく高い」
ということだった。

「音楽で食うのは無理だ」とハナから決めつけるが、
仕事を探すことなもなくバンド活動をしている。

物語の中盤で芽衣子から、
「自分の音楽を否定されるのが怖いんでしょ!?」という指摘を受けるが、
まさに映画を視聴している人たちの種田に対する気持ちを代弁してくれているようなセリフである。

だが同時に、音楽に本気であるからこその気持ちであることも理解できるのが面白い。
芽衣子に電話を掛けた段階での「これからは2人で幸せになろう」のセリフは、
バンドを続けることを「趣味」として受け入れた種田の決心が痛いほど伝わってくるのだ。

バンドマンたちの「あるある」が描かれる

バンドのレコーディングを決心するシーンで種田は、
自身の会社で、定規をギターの弦に見立ててなりふり構わずはじき倒す。
上司の声も聞こえないままに大声で「あ~もう!!ギター弾きたい!!」と言い放つ。

これには(自分を含めた)世の中の社会人バンドマン全員が共感したシーンであろうと思う。

種田のロックに対する思いと、
仕事中に脳内を駆け巡る音楽、妄想が最大限に解き放たれてしまったこのシーンに、
思わず頷くロッカーたちの姿が容易に想像できる。

音楽が、バンドが好きな者の一人として、
今作の一番心打たれたシーンは間違いなくこのシーンである。

今作における音楽業界のバックアップ

本作が制作されるにあたっての各プロミュージシャンのバックアップ
とても気合の入ったものとなっている。

前述したように、
原作者である浅野いにおがファンである「ASIAN KUNG-FU GENERATION」
この映画のために歌詞を原作そのままに引用し作曲された「ソラニン」や、
出演役者として参加した「サンボマスター」のベース「近藤洋一」
そして劇中BGMを担当したのが「ストレイテナー」というバンドのフロントマン、
「ホリエアツシ」のソロプロジェクトバンド「ent」であるなど、
大物ミュージシャンの介入が多い作品となった。

その他も作中に登場する各スタジオやライブハウスが、
リアルでもこれらのアーティストと密に繋がる関係であり、
業界全体の熱気が伝わってくる作品となった。

 

また、今映画のエンディングテーマとして流れる楽曲は、
ASIAN KUNG-FU GENERATION「ムスタング」という楽曲であるが、
作中で使われているギターも「fenderムスタング」という機材であることも、
偶然ではないだろう。

そのような細かな部分まで再現された、今作をリスペクトするとともに、
前述した各アーティストの楽曲も聴いてみることもオススメである。

浅野いにお原作となる漫画ソラニン

ASIAN KUNG-FU GENERATIONの楽曲ソラニン