ヘルタースケルター【ネタバレありなし徹底考察】

本記事では、
前半で、映画紹介&見どころレビュー
後半で、ネタバレ解説&徹底考察を行います。

「ヘルタースケルター」

2012年、写真家としても活動する蜷川実花監督により公開された映画。
素性不明の超人気ファッションモデル「りりこ」の人生を描いた作品。
漫画家、岡崎京子による同名漫画が原作となる。
上映時間は127分。

あらすじ

舞台は日本。素性不明のファッションモデル「りりこ」は、
中高生や若い女性を中心に絶大な人気を誇る、超売れっ子モデルとして活躍していた。

そんなりりこの正体は骨格や目玉、爪、髪、耳、性器以外の全身に大がかりな整形手術を施し、
売れたモデルだった。

表舞台では明るく天真爛漫に振舞うが、裏では自己中心的で感情の起伏が激しい性格のりりこは、
整形時の代償として常時から薬を服用し、
整形の副作用と心身的ストレスに蝕まれる生活を送っていた。

そんな日常を送るある日、りりこ自身がかかる美容クリニックで、
患者が相次いで自殺してしまう事件が起こる。
自殺した患者の顔には黒いあざが多数残っていた…。

出演役者

今作の主人公のりりこを演じるのは「沢尻エリカ」

 

美容クリニックの事件を追う検事、
麻田誠を演じるのが「大森南朋」

 

りりこのマネージャーの羽田美知子を演じる「寺島しのぶ」

 

りりこの後輩の新人モデル、吉川こずえを演じる「水原希子」

 

りりこの事務所をけん引する女社長、多田寛子を演じるのが「桃井かおり」

 

りりこの恋人である御曹司「南部貴男」を演じるのは「窪塚洋介」

その他も「哀川翔」や「綾野剛」「新井浩文」など、
日本を代表する役者陣が出そろう。

見どころ①「邦画独特のディストピア要素、墜落の人生を送る主人公を描く」

本作で描かれる内容は、りりこの人生。
前身整形の副作用によりだんだんと蝕まれていくが、
その墜落人生の描き方こそが今作最大の見どころだろう。
整形、タバコ、違法薬物に手を染め続け、映画の上映時間の2時間で蝕まれ続ける、
じわじわと襲い掛かる展開に邦画独特の恐怖を感じる。

薬物による幻覚を観るシーンでも、従来の映画の「幻覚」とは
違うテイストの描写として描かれ、今までに感じたことのない怖さを感じるだろう。

そんな中でも、りりこの向かう先が気になり、ついつい見進めてしまう、
不思議な魅力が今作にはある。

見どころ②「りりこを演じるべくして演じた女優、沢尻エリカの演技」

今作の主演である「沢尻エリカ」に、
監督の蜷川は「現場での彼女はりりこそのものでした」と、コメントを残す。

「りりこ」の役に入り込むあまり「りりこの役が抜けない」と2ヶ月間PR活動を休み、
療養していた沢尻エリカの役への取り組む姿勢が感じ取れる。

事実、まさにそのようなファッションモデルが実在するかの如く演じられた沢尻の演技に、
度肝を抜かれる作品となるだろう。

また、2019年の事件を知ったうえで鑑賞するとよりリアルに感じ取れてしまう。

彼女こそが「りりこ」を演じるべくして演じた女優である。

配信コンテンツ

今現在「ヘルタースケルター」は、
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※ここからネタバレ解説

素性不明であるりりこの正体は「比留駒春子」
元々は田舎で暮らす元はブサイクの太った大女だった。
上京した時に騙されて風俗店で働かされていたが、
ある時、多田にその太った容姿に隠された完璧な骨格を見込まれスカウトされ、
全身整形に及んでモデルとして成功した。

また妹の「比留駒千加子」は昔のりりこによく似た容姿をしており、
東京の姉を訪ねた際にはりりこは妹の存在を隠していた。

美容クリニックの自殺事件を追う検事「麻田」はりりこの活躍を目の当たりにし、
「表情筋と皮膚があっていない」とつぶやき、全身整形に気が付いていた。

一方りりこは副作用とストレスと戦いながらも、表では気丈に頑張っていたが、
裏の顔はとても自己中心的で闇が深い一面を持ち合わせていた。

りりこの裏の行為
・重度のヘビースモーカー
・付き合っている御曹司「南部」と、楽屋で性交に及ぶ。
・TV局の大御所「浜口」と、身体営業に及ぶ。
・マネージャーの羽田に対して、口に含んだ水を顔面にかける。
・羽田に自身の性器を舐めさせる。
・マネージャー羽田の目の前で羽田の彼氏を寝取る。
・違法薬物の過剰接収。

これらの行為により羽田はりりこのマゾヒストと化していた。

そんなある日、生まれながらにして美貌とスタイルに恵まれた新人モデル「吉川こずえ」
のし上がってくる。

吉川は、大した目標や野望も無く惰性でモデル活動をしているという、
欲にまみれたりりことは正反対のタイプのモデルであったが、
次第に注目が集まり、徐々にりりこに迫っていく。

その矢先、恋人である南部がりりこを裏切り政治家の娘と婚約をするが、
これに激怒したりりこは、奴隷と化したマネージャーをけしかけ、
南部の婚約相手の顔に硫酸をかける通り魔事件を起こす。

そんなある日、検事の麻田に自身の過去の写真や、
硫酸事件の真相を叩きつけられ、りりこは窮地に追い込まれていく。

吉川の人気ぶりに自身の立場を危惧したりりこは、
羽田に吉川の顔面をもズタボロにすることを指示するが、失敗に終わる。

同時刻に、りりこは撮影現場で違法薬物による「幻覚」を見る。

耐えきれなくなったマネージャー羽田は、りりこの家で入手した「過去のりりこの写真」
各メディアにばらまき、その情報は瞬く間に週刊誌に乗り、全国的にりりこの過去が暴かれる。

記者会見の日、りりこはナイフを片手に記者会見に臨み、
無数のカメラの前で、自身の右目にナイフを突き刺し失踪する。

数年後、モデルとして成功した吉川が海外の撮影での打ち上げで、
異質なストリップバーへ案内される。
何かを感じ取った吉川が楽屋へ足を踏み入れると、眼帯を付けたりりこが座っていた。

吉川を前に、りりこはふてきな笑みを浮かべた。

ネタバレ徹底考察

りりこも「被害者」だった。

今作の映画の構成として、
南部により、りりこの周辺に居た人物たちの事情徴収のシーンが
ストーリーの合間合間に差し込まれるが、
これは美容クリニックの事件を追っての事情徴収であったと考えられる。

クリニックは「人間の胎児や筋肉、脂肪、皮膚などを違法で手に入れて注射や移植等を行う」
という犯罪行為も行っていて、映画では描かれていないが、原作となる漫画では、
逮捕されて取調べを受けている院長の姿が描かれている。

「整形依存症」という現代の闇に切り込む作品にも見えるが、
今作では「処置を続けなければ副作用が出る」という
クリニック側の原因があるのでストレートに問題を描く作品とは異なるだろう。

じわじわ感が恐怖の原因

今作は一人の主人公、沢尻エリカ演じるりりこ一人にスポットライトが当てられた作品であるが、
そのじわりじわりと進行する転落の人生のスピード感が絶妙な作品だろう。

作中で流れるアイスキャンディのCMの役者が吉川にいつの間にか変わっているシーンや、
雑誌の表紙のモデルが吉川に変わっていく描写など、
人気が新人モデルに奪われていく構成がとてもうまくできている。

また、沢尻の今作にかける意気込みもよく伝わってくるリアルさがあり、
「こんな仕事もう辞めたい」と泣きわめくシーンや、
雨の中錠剤をかき集めるシーンの臨場感には誰もが圧倒された。

今までで見たことがない幻覚のシーン

幻覚のシーンも、従来の作品で描かれる幻覚とは少し異なる描写となっていた。

幻覚の描写
・りりこにしか見えない蝶が舞う。
・大きな目玉がセットに現れる。
・撮影現場のセットの人形の眼球が動く。
・謎の紳士が撮影現場で踊っている。

そして最後のストリップバーでは、幻覚で見た紳士によく似たキャラクターが
営業をしている。
今までに観たことのないタイプの心地悪さを感じると同時に、
狂気溢れるシーンは沢尻エリカでしか演じることのできないシーンだったと知るだろう。

リアルを求めた作品

今作の制作にあたり、作中にりりこや吉川が表紙を飾る雑誌はすべて実在するもので、
この写真の撮影も「写真家」としても活動する今作の監督、
蜷川実花により撮影されたものである。

また今作、ヘルタースケルターのPR活動として、
雑誌や企業と多数のコラボレーションをしているが、
これらのコラボレーション広告の撮影風景が、映画の一場面となり作中に登場する。

全てがリアルである作品でもあり、同時にどこからが「リアル」でどこまでが「作品」なのか
わからなくなってしまうほどに洗練された演技が展開される。

沢尻エリカや新井浩文の事件を知ったうえで観てみると、また違ったリアルさが感じ取れるだろう。

原作となる漫画の「ヘルタースケルター」は未完で、
映画よりも生々しい設定となっている。