本記事では、
前半で、映画紹介&見どころレビュー
後半で、ネタバレ解説&徹底考察を行います。
万引き家族
2018年、原案、監督、脚本すべてを手掛ける是枝裕和監督により公開された作品。
万引きが日常化し、貧しくも楽しく暮らす家族の物語。
上映時間は120分。
あらすじ
東京の下町に住む「柴田家」
一家の主である「柴田治」を中心とし、
6人家族で貧しくも幸せに暮らしていたが、この家族、万引きの常習犯だった。
ある日、いつものように近所のスーパーで万引きを始める。
父親が壁となり、子供が万引きをする。
そんな帰り道、とあるアパートのベランダに放置される少女を発見する。
真冬の寒い中、見かねた治は少女を家に連れてきてしまう。
少女も入れて、一家は鍋を囲む。
出演役者
父親である一家の大黒柱、
柴田治を演じるのが「リリー・フランキー」
一家の母である信代を演じるのが「安藤サクラ」
長女である亜紀を演じるのが「松岡茉優」
長男である祥太を演じる「城桧吏」
治の母であるおばあちゃんの初枝は「樹木希林」
拾われてくる少女、ゆりを演じるのが「佐々木みゆ」
見どころ①「幸せそうに暮らしている人々を観る、不思議な魅力」
今作の映画、貧困である家族の物語であるが、
観ていると不思議な現象が起こる。
それは「とても幸せそうにしている」ことである。
万引きは日常茶飯事で、家での食事も決して豪華なものではない。
それなのにも関わらず、観ているこちらが微笑んでしまうほどに、
幸せそうに見える。
そんな不思議な魅力が本作最大の見どころであろう。
見どころ②「家族それぞれのストーリーが描かれる面白さ」
一家6人と少女ゆり、それぞれのストーリーが全て描かれる作品となるが、
そんな個性あふれるキャラクター達の行動や、心理描写が今作の見どころでも
あるだろう。
それぞれの立場や年齢だからこその問題や悩み、楽しさが細かく描かれ、
同じ屋根の下でそれを共有する。
そんな各キャラクターの物語にシンクロするように「家族」というものの、
素晴らしさが描かれている作風こそが今作の人気の秘訣である。
配信コンテンツ
「万引き家族」は、今現在、
Amazonプライム、U-NEXT、dTV、等で配信されている。
※ここからネタバレあらすじ
東京の下町で暮らす柴田家は、祖母である初枝の年金と、万引きによって生計を立てていた。
初枝の表向きは独居老人という立ち位置で暮らす一家は、
世間には知られてはいけない存在だった。
そんなある日、万引きの帰りにとあるアパートで、真冬に外に放置される少女を見つけ、
見かねた治は家に連れて帰る。
少女は自身を「ゆり」と名乗り、体には暴力を受けたとされる跡がいくつも付いていた。
その後、ゆりをアパートにも戻そうとするが、アパートの室内から、
怒声や、DVを受ける音を聞きつけ、返すのを諦める。
家族からは「これは誘拐ではないか?」との声も上がったが、
「脅迫も身代金の要求もしていないからこれは誘拐ではなく保護だ」と主張する母の信代の
一言により、ゆりを加えた6人での生活が始まった。
その矢先、治は職場で負傷して仕事ができなくなるが、あてにした労災は下りなかった。
家族は貧しくも幸せな生活を送っていたが、
2ヶ月後、たまたま見ていたテレビで、ゆりの捜索が行われていることを知る。
本当の名前は「じゅり」であったが、一家は発覚を恐れ、「りん」という新たな名前を付ける。
回復した治は仕事に戻ることなく、祥太との万引きを「りん」に手伝わせる。
一家は仲良く暮らしていたが、
初枝はパチンコ店で他の客のドル箱を大胆にネコババし、
祥太は「りん」を連れて近所の駄菓子屋で万引きを働き、
信代はクリーニング店で衣服のポケットから見つけたアクセサリーなどをこっそり持ち帰るなど、
亜紀以外の各々が何かしらの犯罪に手を染めた。
夏を迎える頃、祥太はいつもの駄菓子屋「りん」との万引きに及んだが、
バレてしまい、お菓子を貰い、「妹にはさせるなよ」という言葉をかけられる。
信代の職場のクリーニング工場では、不況の煽りを受け、信代か職場の同僚のどちらかを
クビにすると言われるも、同僚に「りんのこと警察に言わない」ことを条件に、
自ら進んでクビとなる。
一方、初枝は元の旦那(死んでしまっている)が後妻との間にもうけた息子夫婦が住む家を訪れ、
前夫の月命日の供養ついでに金銭を受け取っていた。
初枝が義理の娘として同居している亜紀は実はこの息子夫婦の娘であった。
夫婦は亜紀は海外留学中ということにしており、
初枝と同居していることは「知らない」こととしていた。
また亜紀には「さやか」という妹がいた。
亜紀が働く風俗店でも「さやか」と名乗っていた亜紀は、
常連客である一人と心を通わせつつあった。
夏を迎えた一家は海水浴に出かけ、一家団欒を満喫するも、
自宅で初枝が死去する。
葬式などの金が工面できず、一家は初枝を自宅の床下の地面に埋め、
「最初からいなかった」ことにする。
信代は死亡した初枝の年金を不正に引き出し、
治と信代は家の中で初枝のへそくりを見つけだして大喜びしていた。
これを快く思っていない祥太の姿があった。
それから一家の犯罪はエスカレートし、治は祥太を引き連れ、
車上荒らしに走るも、祥太は手伝うことはしなかった。
いつものように祥太とりんは駄菓子屋に万引きしに行くも、
「忌中」の文字と共に、閉店していた。
仕方なく、もう一カ所のスーパーに万引きに向かうが、
祥太一人で万引きをすることを決め、りんには外で待つように指示する。
店内で事に及ぼうとした時、りんが店内に入ってきてしまう。
りんが万引きを働こうとしたとき、祥太は商品を床にぶちまけ、
大胆に万引きをする。
店員が追跡してきたが、橋の上で挟み撃ちに会い、橋から飛び降りる。
一部始終を見届けた「りん」は治たちのもとに急ぐが、
柴田家の4人が祥太を捨て置き逃げようとしたところを警察に捕まり、
これをきっかけに家族は解体される。
りんは本来の親の元へ戻り、それ以外の三人は取り調べを受ける。
りんの誘拐についてや、初枝の存在についての取り調べを受け、
その中で数々の真実が浮き彫りになる。
・治と信代は過去に殺人を犯していた。 ・治は初枝の実際の息子ではなく、彼を同居人として息子同然に迎え入れていた。 ・祥太は治と信代の拾われた。 ・治・信代・祥太らの名前は本名ではない。
柴田家の人間は全員が血の繋がっていない、疑似家族だった。
これまでの犯行はすべて自分の責任と、信代が主張し、投獄される。
祥太は施設に入り、治は一人暮らしとなった。
亜紀はかつての自宅を訪れ、もぬけの殻となった部屋で思いにふける。
それから数ヶ月後、
学校に通うようになった祥太はテストでも優秀な成績を残し、
釣りの知識も身に着けるなどたくましく成長していた。
治と祥太は信代の面会に、刑務所を訪れる。
祥太を前にすると信代は、祥太は松戸のパチンコ店で拾ったこと。
そしてその時の車のナンバーなどの詳細を祥太に教え、
「その気になれば本当の両親に会える」と話す。
治は情報を教えた信代に突っかかるも、
「この子には本当の親が必要。私たちでは代わりになれない」と返す。
その夜、治の家に祥太が泊まる。
二人で同じ布団に寝て、祥太は自分を置いて逃げようとしたことを問う。
治はそれを認めて、「おじさんに戻る」と答える。
翌朝、祥太の対応は冷たく、バスに乗る直前、治に実はわざと捕まったことを話す。
バスに乗り、バスを追いかける治を車内から見つめる祥太は、
治に向かって声にならない声で「父ちゃん」と呟いた。
一方でりん(じゅり)はまた虐待を受ける日常に戻っていた。
冬のベランダに放置され一人遊びをしていた。
ネタバレ徹底考察
彼女にとって本当の幸せとは何だったのか?
今作の映画、一家が犯罪を犯すシーンが多く流れるが、
面白い現象が起きる。
それは「何が正義なのかわからなくなる」事である。
犯罪を起こし続け、法的に悪いのが一家であるのにも関わらず、
何故か、捕まってしまったことが残念に思われるような不思議な現象が起きる。
法律よりも道徳を重んじて生まれてしまう気持ちが、一つのトリックだろう。
一家がバラバラになった後のラストシーン、
施設に入った祥太は勉学に励み、ちゃんとした生活を送っているが、
元の家に帰れたはずのじゅりは寒空の下のベランダ虐待生活に逆戻りし、
幼稚園にも通えず、10までしか数字が数えらない描写が叩きつけられる。
「彼女にとって本当の幸せとは何だったのか?」
こんなことを考えさせられるようなラストシーン、
昨今の社会問題に切り込むような切り口であり
今一度考えてしまうようなラストだろう。
家族であるための数々の表現方法
柴田家は一つ屋根の下で、本当の家族ではないものの、
とても幸せそうに生活している。
そんな家の中で祥太は「スイミー」を読んでいる。
そんな「スイミー」のストーリーこそ、
今回の家族をそのまま描いたメタファーとして機能した物語だったのではないだろうか。
社会的に弱い者たちが身を寄せ合い、一つになって、敵(社会)と戦う構図は、
スイミーによく似ている。
その他も、冒頭の治の足のケガ、そして祥太の足のケガの位置が同じだったり、
信代とじゅりのアイロンの火傷の位置が同じだったり、
血が繋がっていないながらも「同じ傷を背負う」という演出として機能している。
家族ではないはずなのに「家族」を意識させるような演出は「スイミー」だけではなく、
他にもたくさんあるだろう。