チキンレース【ネタバレありなし徹底解説】

本記事では、
前半で、映画紹介&見どころレビュー
後半で、ネタバレ解説&徹底考察を行います。

「チキンレース」

2013年、岡田惠和脚本の元、若松節朗監督により制作されたヒューマンドラマ。
WOWOWのドラマWとして放送され、カテゴリーとしてはテレビドラマである。

一人の看護師、神谷40年以上植物状態である飛田の介護を務める物語である。
上映時間は109分。

あらすじ

家系のすべての人間が「医者」として働く中、
主人公である「神谷猛」は医大に落ち続け、仕方なく「看護師」として
働き始めていた。
やる気もなく、ミスばかりの神谷にとある患者の介護が任される。
それは、45年間眠り続けている「植物状態」の「飛田譲」の介護であった。

そんな神谷は、眠り続ける飛田に対し、自分が医師になることをできなかった挫折感や、
鬱屈した心情を吐露するように悩みや愚痴を語り掛けながらの看護をしていた。

出演役者

今作の主人公である神谷猛を演じるのが「岡田将生」

 

今作のもう一人の主人公、飛田譲を演じる「寺尾聡」

 

神谷の先輩看護師である櫻井久美を演じるのが「有村架純」である。

見どころ①「生きることの楽しさを伝えてくれる作品」

今作の登場人物である飛田は「植物状態」でありながらも生きている。
そんな「生きていることの意味」と、彼自身の気持ちが映像を通して伝わってくる、
映画の撮り方とカメラワークが秀逸である印象を受けた。

このクオリティでありながら「映画」と謳わず「ドラマ」という、
完全にハードルを越えてくる脚本とのギャップが今作の見どころだろう。
「ドラマ」を舐めないほうが良い。

見どころ②「成長する主人公、神谷の心理描写」

今作の主人公、神谷の最大の苦悩である、
「妥協して看護師になった」という事実。
これが胸に刺さるような、名俳優、岡田将生の演技を楽しむことができる。

彼自身の「高すぎるプライド」により苦しめられた誰にも理解のできない苦悩、
その日常に突如として入り込んでくる「飛田」という存在。

二人が接触することにより、神谷の何かが変わっていく描写は、
ある種「ドラマ」でしか描けないような内容であり、
先が気になり、ついつい見進めてしまう魅力がある作品だろう。

配信コンテンツ

「チキンレース」は今現在、
Amazonプライム、U-NEXT、Hulu、等で配信されている。

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※ここからネタバレあらすじ(長いです)

祖父や父、そして兄など、家系の人間が代々「医者」として勤めるも、
神谷猛は医大に落ち続け、「仕方なく」看護師として働いていた。
最初の病院をそのプライドの高さから退職し、
親から離れようと、次の病院に選んだのは「南総中央病院」であった。

新人看護師として働き始めた彼だったが、先輩看護師である櫻井には、
看護師が不満であることが手に取るようにわかるのであった。
ミスも多く、容量も悪い、そんな神谷に
「やる気あるんですか?」と詰め寄る櫻井に、
彼は取り繕ったような「はい!」の返事でしか返すことができなかった。

そんなある日、神谷に一人の患者の看護が任される。
それは「19歳から45年間、眠り続ける」飛田という患者の介護であった。

どこからどう見ても厄介払いだとわかった神谷は、その眠り続ける患者に対して、
テキトーな看護を続けた。
日々怒られ続ける櫻井に対しての愚痴や、自身の持つ経歴の不満など、
ありとあらゆる不満を、眠り続ける飛田に語り掛ける神谷であった。

そんなある日、神谷は恐る恐る櫻井に飛田についての過去を聞いてみる。
飛田は45年前、事故により病院に搬送されてきたが、
そこから植物状態であり、この病院に事故当時を知る人はいないこと、
そして、家族は既に亡くなり見舞客もいないが、
毎月の入院代は何者かから振り込まれていることを知る。

そんな神谷はいつも通り愚痴りながら飛田の看護をしていた。
自分のことを話し、誰にも褒めてもらえない自分に、
動かない飛田の手で勝手に頭をなでてもらう。
神谷は一通り愚痴を言い終えると、
「飛田さんの話も聞きたいよ」と一言。

飛田の部屋を去ろうとしたその時、飛田の手がかすかに動く。
驚愕した神谷は恐れおののき、大声で医者を呼ぶ。
重大な事件であるかのようにたくさんの医者や看護師が飛田の部屋に集まるが、
変わった様子は無いという意思の判断に、全員が神谷を攻める。

ある休みの日、神谷は飛田の病室に置いてある、一枚の写真を持って、
その場所を特定するために外出する。
その場所は、神谷の住むアパートから見える桟橋であった。
同じ画角で写真を撮る神谷であった。

とある夜勤の日、神谷はいつも通り眠った飛田に愚痴を言う。
先日の飛田が動いた件での叱責について愚痴を言う神谷。
その時後ろから声が聞こえた。

「ごちゃごちゃうるせえんだよ…」

後ろを振り返ると目を開けた飛田の姿があった。
神谷は驚きのあまり、腰を抜かしたが、
「奇跡だ!」と叫び、医師を呼びに行く。

目を覚ました飛田の病室に医師や看護師が集まるが、
神谷は部屋に入れてもらうことができずに追いやられてしまう。

廊下で待つ神谷であったが、そんな神谷に医師が近づいてくる。
「混乱して私たちの言うことを信じようとしない。
 本人が納得するように説得してくれ」と、頼まれる。

神谷は仕方なく引き受け、飛田に説明を始める。
「おいらは医者が苦手なんだよ…」と語る神谷は、
彼のことを「オッサン」と呼ぶのであった。
鏡を見て、自分が64歳であることを認識した飛田は、
「コージと真理はどうなった?」と聞くも神谷も知らないので答えることができない。
「親父とお袋は?」と聞くと、ばつの悪そうな顔で、亡くなったと聞いていると、
答える神谷であった。

無事に飛田を説き伏せた神谷は去り際に、
「飛田さんとお話しできて良かったです」と、声をかけると、
「オッサン、男のくせにウジウジしてるな」と返される。
飛田は眠っている間に神谷に言われたことを覚えていた。

無事に飛田を説き伏せた神谷は医師から盛大に感謝される。

翌日、病院に仕事に行った神谷は、飛田の指名で、
彼の担当看護師を任されることを知る。
飛田の病室に行くと、神谷の寝泊りするベッドが置いてある。
厄介払いからなのか、飛田の看護以外の仕事を免除されたのだった。

神谷は寝ている間に飛田に聞かせたことを言ったのかと詰め寄るが、
飛田は言っていないと語る。
逆に車は空を飛ぶようになったのか聞いてみる飛田であったが、
まだ飛んでいないことを知ると、
「未来も大したことねえな」と呟く飛田であった。

そこから神谷と飛田の奇妙な友情関係が始まった。
体が動けるようになるまで、決死のリハビリを始める神谷と飛田。
豆を皿から皿に移動させる訓練、車イスを動かす訓練、
そして神谷の肩を借りて、歩けるようになる訓練など、
数々のリハビリを二人で行った。

ある夜、神谷は眠れない飛田の過去の話を聞いた。
1968年、ヤンキー世代ど真ん中の飛田も一端のヤンキーだった。
ある日、友人であるコージと共に車でのチキンレースに挑む。

チキンレース
お互いが崖や海に向かって、同時にアクセルを踏み、
先にブレーキをかけたほうが負け、という勝負。
落ちてしまっても負け扱いとなる。

真理という女の子が好きだった飛田とコージは、
勝ったほうが真理を彼女にできる、という条件で、
桟橋でのチキンレースに挑んだ。
コージは先にブレーキをかけて止まったが、
飛田はそのまま海に突っ込んでしまい、意識不明となったのであった。

後日、驚異的な回復力を見せる飛田に、神谷は医師から褒められ、
飛田に外出許可が下りる。
神谷が用意したおじさんファッションに文句を垂れつつも、
二人は外出する。

向かった先は飛田の両親が眠る、飛田家の墓であった。
苔だらけで整備がされていない墓を眺めて沈黙してしまう飛田と、
そんな墓を一生懸命磨く神谷であった。
その後、例の桟橋で、飛田は車イスで一人でチキンレースを始める。
焦る神谷であった。

その後、当時流行った車を見つけた飛田は興味を示す、
車の持ち主である井口と意気投合した飛田は、
井口の経営するスナックで楽しむ。
当時、飛田の行ったチキンレースは、
今でも伝説として残っていることを知るのであった。

その後、二人は病院に戻り、
外出許可の時間を大幅に過ぎたことで怒られる神谷であったが、
飛田から不器用ながらも感謝の言葉を受け取る。

その後のある日、飛田は落ち込んでいて、
衝撃の事実を知ってしまったためであった。
それは、コージと真理は結婚し、
飛田の入院費は45年間、コージが払い続け、
2年前に振り込みの名前が真理の名前の変わったことであり、
これはコージが死んだことを意味するのであった。
北海道の帯広に住む真理に連絡を取ろうと説得する神谷であったが、
「そんなかっこ悪いことはできない」と、飛田はこれを拒否してしまう。

後日、飛田の部屋に一人の男性が訪れる。
それは45年間の眠りから覚めた飛田を研究したいという大物医師の来訪であり、
この医師は神谷の実の父であった。

神谷の父は飛田に研究のために大型病院に来てほしいと交渉し、
飛田はこれを承諾。
その条件として飛田が挙げたのが、
「研究の手柄は全て息子である猛のものであることにする」
という条件だった。

神谷本人に何も言わずに病院を出て行ってしまう飛田に、
神谷は彼の乗る車を見送ることしかできなかった。

飛田という存在を失い、落ち込む日々を送る神谷であったが、
ある日櫻井に、ウジウジしないで飛田さんに会いに行け!との言葉を受け取る。
これを受けて、大型病院に飛田の見舞いに行く神谷であった。

病院で飛田と再会し話をする。
飛田は経理に「振り込みの必要はない」と話し、
真理には今の場所も教えるなと言っていたのだった。
これを神谷は激しく攻め、
「真理に合わす顔が無い」と語る飛田とケンカをする。
神谷に掴みかかる飛田であったが、
「そんなこともできるようになったんだな」と挑発する。
「前の病院の看護師が嫌な奴だけど優秀だった」と返す飛田であったが、
最後には「真理に会うのが怖い」と正直に白状する。

神谷はカバンから昔の写真で飛田が着ていたような、
若々しいアロハシャツをプレゼントし、
「連れっていってやるよ、俺が。」と言い放つ。
車を以前のスナックで出会った井口から借りて、
かくして二人は北海道の帯広へ旅立つのだった。

途中、飛田を連れ出したことについて、
父から電話がかかってくるが、神谷は出ることができなかった。
二人は旅中、色々なことを話す。
神谷の父は息子に対して「どう接していいかわからない」こと、
「一番かわいいと思っていること」などを飛田から聞かされる。

宿泊先の旅館で、神谷は父と電話をする。
そして飛田は脳の血管が弱っていて、また意識不明の状態に戻ったり、
最悪の場合死に至る可能性があることを聞かされる。

驚いた神谷は電話を切り、部屋に戻るが、
飛田の姿が無く、焦ってしまう。
飛田は宿の遊戯コーナーで、射撃を楽しんでいただけだった。

無事に北海道にたどり着いたが、神谷は車を停め、
やっぱり戻ろうと飛田に提案する。
しかし飛田はこれを拒否し、
脳の血管が弱っているから心配している神谷の心理を
言い当てる。

無事に帯広にたどり着いた二人は、
白樺の並木通りを車で走る。
いよいよ真理の住む場所にたどり着く。
コージと真理は大規模なフラワーガーデンを営んでいた。

恐れながらも、ガーデン内に入っていく飛田、
そこで一人の女性と目が合い、「飛田くん」と声をかけられ、
笑顔で「遅い!」と言われる。その女性は真理だった。
神谷のことを「親友」と紹介する。

コージに線香をあげ、
三人は過去の思い出話や身の上話をする。
コージは死ぬ間際に、
「チキンレースは俺の負けで、俺は先に死ぬけど、飛田はまだ生きている」
と、言っていたことを聞かされ涙する。
飛田は素直に真理に謝るが、
真理から、飛田のおかげで、二人はまともに生きることができた、と、
逆に感謝される。

謝る要件を済ませると、足早に去ろうとする飛田。
車に乗り、バックミラーには真理の顔が映る。
帰る道中、急に飛田は停めてほしいと言う。

そして、「真理を一人にできないから戻りたい」と言う。
それを制止しようとする神谷であったが、
「間違っていても。楽しいことをしてしまうのが不良」と言い、
「ありがとうな、オッサン」と、真理の元へ歩き始める。
神谷は定期健診や月一回の連絡を約束させて、飛田を見送る。

帰り道、神谷は自分の病院に連絡し、
休まないで働くことを約束し、櫻井をデートに誘う。
そして父に向き合うために、初めて自分から父に電話をかける。
父は笑顔で電話に出る。

戻った飛田は真理に歓迎してもらい、花の植え方から教わり始める。
その後、神谷は誇りを持って看護師の仕事に取組み、
飛田はガーデンを手伝いながら元気に過ごす。

月一回の連絡、神谷は電話をかけて、真理が出る。
真理が飛田を呼ぶが、なかなか来ない。
飛田は花の中で、倒れて寝ていた。

何回か呼ばれた後に、目を開けて返事をする。
「相変わらずうるせえなオッサンは。」と一言。

ネタバレ徹底考察

どのキャラクターも一長一短である面白さ

今作の作品、主人公である神谷に、
人々は色々な感情を抱くだろう。

彼の気持ちが理解できることや、
ナルシストなその性格に「自業自得」である、
と感じる者。

そんな十人十色な感想が持たれるキャラクターに、
今作の見どころは存在する。

どのキャラクターでもこの現象は起きていて、
先輩看護師である櫻井に対して「なんだコイツ」と思う人や、
飛田に感情が向かない人も多いはず。
そんな100%の「味方」をがれにも作ることが無く、
物語を作り上げることが「ドラマ」としての面白さなのかもしれない。

リアルでないことはギャップとして利用されている

今作を観て感じることの一つに、
「リアルのようでリアルではない」という感覚を覚えた自分がいた。

45年間眠り続けるという設定や、外出中にスナック、無免許運転など、
リアルの世界で起きているが、リアルではない現象が、起きている。

そんなリアルでない状況が大きなギャップとなり、
最後の感動がより深く訪れる現象がこの作品には起きている。

笑わせるような描写が多い中、突如として、鑑賞者を不安にさせるような
BGMに乗せて、飛田がいなくなる。

急なシリアスな展開を予想察せるのには充分すぎる材料が揃っているが、
それに鑑賞者はいい意味で裏切られるだろう。

「不良」という設定が与える人情的快感

今作のもう一人の主人公である飛田は「不良」である。
そんな「不良」という設定が、今作を盛り上げる重要なキーワードであるだろう。

病院の患者と看護師、それが「おじいちゃん」と「若い看護師」と言うだけで、
ぼくは鑑賞前から「頑固なジジイ」なのだろう、と思い込んでしまっていた。

しかし、フタを開けてみると、中身は19歳の少年、という設定。

今作の主人公二人の間に、本来あるであろう「精神年齢」というギャップが、
備わっていないのが、本作の最大の見どころであるだろう。

それは構成や脚本の影響もあるが、一番の要因はその「演技」であり、
今回、飛田の役を演じた、「寺尾聡」の演技力こそが、
今作を面白く感じた、大きな要因であると言えるだろう。