花とアリス殺人事件【ネタバレありなし徹底考察】

本記事では、
前半で、映画紹介&見どころレビュー
後半で、ネタバレ解説&徹底考察を行います。

「花とアリス殺人事件」

2015年、岩井俊二監督により制作されたアニメーション映画。
元々実写映画である「花とアリス」がアニメーション映画化されたもの。
転校してきた中学生の女の子がとある事件に巻き込まれていく物語。
上映時間は100分。

あらすじ

両親の離婚により、一軒家に引っ越すこととなった「有栖川徹子(アリス)」
引っ越した先の中学校に転校することとなるが、
クラスは妙な雰囲気で包まれ、アリスに対してもどこかよそよそしい態度であった。

誰も座ることのない机が二つ並んだその教室で、
このクラスで殺人事件が起きていたと、皆はウワサしていた…。

登場キャラクター

主人公の中学生、「有栖川徹子(cv蒼井優.)」

 

同じクラスで、アリスの隣の家に住む不登校生徒、「荒井花(cv.鈴木杏)」

 

クラスメイトの「陸奥睦美(cv.鈴木蘭々)」

見どころ①「大人っぽくも子供っぽくも見える、個性豊かなキャラクター」

今作の主人公、「中学生達」が主人公となるが、

どのキャラも、「大人っぽい一面」と「子供っぽい一面」を持ち合わせている。

凛としているアリスは、頭がよく、善悪の判断もできるが、
ときに子供っぽく、無邪気な一面も見せる。

アリス以外にキャラクターもそれぞれの、
「子供」と「大人」両方の一面を持ち合わせていて、
そんな中学生の青春がリアルに感じ取れる作品となるだろう。

見どころ②「独特な作画で物語の雰囲気が伝わる」

アニメーション映画である今作、その作画にとても個性がある作品となっている。
画のリアルさではなく、登場人物の動きや仕草にリアルさが感じられる作画は、
どこか気分を穏やかにさせてくれるような、独特なタッチの画で描かれる。

それに合わせて流れる、ゆったりとしたBGMも、
今作の映画の雰囲気を作り上げる大きな要因の一つとなっているだろう。

配信コンテンツ

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ここからネタバレあらすじ

両親の離婚により、母親と引っ越しした「有栖川徹子」

引っ越しの際に隣の家の窓から誰かが覗いていることに気が付き、
覗き返そうとしたところ、二階から転落するも、引っ越し業者の人に助けられ、
無傷で済んだのだった。

引っ越しにより、石ノ森中に転校した彼女は、新しい制服が届かず、
前の学校の制服で通った。
初の学校であったが、転校初日からクラスの変な違和感に気が付く。
空いている机に座れと言われるが、空いている机が二つ並んでいたので、
後ろに座ろうとすると、先生に前のほうに座ってと言われる。
教室の真ん中に置かれた机とイスについて、教えてくれるものは誰も居なかった。

とある日の放課後、バレエ教室で一緒だった「矢上風子」と再会する。
彼女から教室の机やクラスの人間のよそよそしい態度について聞かされる。
どうやらクラスの仲間が殺人事件にあったとウワサされていると聞かされた。

そのまま一緒に街を案内してもらい、案内された本屋でアリスの母である、
「有栖川加代」の書いた小説を見つける。
アリスの母は、小説家として活動していた。

その後、今現在もバレエを続けている風子について、バレエ教室の見学に行ったり、一日を楽しむ。
その帰り道、自分の家の隣の家の二階の窓から、またもや人が見ていることに気が付き、
気持ち悪がる。

家の中でバレエを踊っているところを母親に見つかり、
またバレエ教室に通うことを提案されるアリスであった。

次の日学校で、クラスのみんなに取り囲まれる。
訳も分からないままアリスは、クラスを取り仕切る「陸奥睦美」に、
「アリスは結界を破ってしまった」と、説明される。
空いている机の一つ、転校してしまった「ユダ」の亡霊が宿ると考えるクラスの皆は、
その席に座ったアリスに対し、結界を破ったと思われていた。
その後、陸奥とクラスの皆により、教室で行われる「怪しい儀式」に参加させられる。
無事に「儀式」は成功し、クラスは「アリスは神に祝福された」と喜ぶのだった。

翌朝、女子生徒を虐めるクラスの男子生徒を屈させ、情報を聞き出す。
クラスで授業中に、陸奥に「ユダ」の霊が乗り移り、騒ぎになる過去があったことが判明した。

後日、父親とご飯を食べに行く。
アリスが足が速いことなど、ささやかな父親との時間を過ごした。

その帰り道、隣の家のお母さんと担任の先生が話しているのを目撃し、
アリスの後ろの席の不登校の生徒、「荒井花」が隣の家の住人で、
窓から覗いていたのが彼女だったことが判明する。

そして運動会の日、陸奥と話したアリスは「ユダ」の真相についての真相を話してくれた。

「ユダ」の呪いについて
1年前の同じ教室、「ユダ」と呼ばれる生徒は、
中学生ながら、4人の妻を持ち、それぞれには妻のことを秘密にしていた。
ある日それぞれの妻に隠していたことがバレて、「アナフィラキシー」という
毒を盛られて死んでしまった、という伝説。

次の年、「ユダ」の席(今のアリスの席)に座っていた陸奥は、
「ユダの伝説」を信じるクラスの皆に、虐められていた。
虐められないために、わざとユダに憑りつかれた「演技」をして、
クラスの中心人物としてイジメを切り抜けていたのだった。

その話を聞き、二人は、アリスの後ろに席の「荒井花」なら、
何かの真相を知っているだろうと考えた。
不登校である「荒井花」は、学校を「留年」していた。

真相を知ったアリスは、家に帰り、郵送受けに、前の家の住人の手紙が入っていた。
手紙の名前は「ユダテルオ」
何気なく自分の部屋の棚の上の荷物に手を伸ばす。
テストの答案用紙が落ちてきて、用紙には「湯田光太郎」の文字が書いてあった。
パニックになったアリスは、「前の家の住人が死んでいるから引っ越そう」と、
お母さんに泣きついた。

翌日アリスは、ユダの答案用紙を持って、「荒井花」の家を訪ねる。
答案用紙を見た花は、「湯田光太郎」を知っていた。
生きているかどうかはわからないと語る花は、「ユダは転校した」と語る。
殺されてしまったのかどうかの真偽を確かめるために、二人は計画を立てるのだった。

計画
湯田光太郎の父親の職場に「湯田光太郎」を名乗り、尋ねる。
父親の反応を見て、生きているか死んでいるか判断する、というもの。

 

計画の日、湯田の父の職場である「コバルト商事」を訪ねたアリスは、
受付で「ユダテルオ」を呼びつける。
しかし、自分の名前を本名である「有栖川徹子」と名乗ってしまう。

会社内でミーティング中である湯田に代わり、別の年配社員が、
待ち合わせ場所である喫茶店に顔を出すが、
アリスはこれを湯田父と勘違いし、尾行を始める。
本名を名乗ってしまったため、計画失敗と判断したアリスは、
年配社員の尾行を始めてしまう。
タクシーに乗り、病院へ行くが、ここで尾行がバレてしまう。
お金がなく帰る手段がないアリスを見かねて、
年配社員は最寄りの駅まで送ってくれる。

そのころ、念のためアリスを監視していた花は、無事に湯田父の尾行を開始していた。
花は「顔が割れている」という理由で、湯田父との接触を避けていた。
駅で無事のアリスと花は合流し、花が突き止めた湯田の家へ向かう。
マンションの外から確かめる二人だったが、湯田光太郎の生死はわからなかった。

その後二人は、日を改めて出直そうと言い、駅に戻る。
駅に向かう途中に中華料理屋で食事をしていたことも影響し、終電を逃してしまう。
その夜、二人は夜の街を歩く。
寒さを凌ぐために二人は、車の下に入り、身を寄せ合っていた。

花はここで真実を語る。
昔、湯田と花は幼馴染だった。
湯田が好きなである花は毎年バレンタインや誕生日をプレゼントし、
中学校2年のバレンタインで、一通の手紙と一緒にチョコをプレゼントした。
手紙の中身は「婚姻届」
しかし湯田からはノーリアクションだった。

そして3年の春、花の前の席が偶然、湯田の席となった。
その後。湯田は色々な女性に告白しては婚姻届けを配る作業を繰り返した。
4人の女の子がこれを受け取り、あるテストの日、女の子の一人が答案用紙に
「湯田」の苗字で書き込んだ。
それを受けて湯田の所業はクラスにバレてしまった。
翌日、花はクマンバチを捕まえ、湯田の背中に入れる。
その日、湯田が転校してしまうことがわかり、
転校のスピーチをしている時にハチが湯田を刺してしまう。
湯田がハチに刺されて死んだとウワサする中で、
花は「湯田君を殺してしまったかもしれない」と疑心暗鬼に陥り、
そのトラウマから不登校になってしまっていた。

その夜、二人は駐車場で時を過ごす。
バレエを教えてあげたり、冗談を言い合ったりしながら朝まで過ごした。
トラックがエンジンをかけたまま、運転手が寝始めたので、
トラックの下で二人は眠り始める。

その朝、先に起きた花は湯田の張り込みのため、先にマンションへ向かう。
その後、トラックが動き出し、トラックの下に取り残されたアリスは、
焦りながらも無傷で済む。
起きると花の姿が無く、アリスは「花がトラックの下に巻き込まれてしまった」と勘違いする。
必死にトラックを追いかけるアリス、街の人々を巻き込んでの騒動となってしまったが、
無事に花の姿を確認する。
「あなたは私の疫病神だ!」と帰ろうとするアリス、それを引き留める花。
そんな橋の上で、二人は「湯田光太郎」とすれ違う。

尻込みする花を引きずり、アリスがユダの名前を呼ぶ、
花は恥ずかしがりながらも、「久しぶり」と、簡単な挨拶だけを交わし、
立ち去ろうとする。
去り際、湯田は花の名前を呼び、ハチを背中に入れたことについて言及し、
「一生忘れない」と語った。
帰りの電車、花は湯田の「一生忘れない」を告白と捉えていた。
「嘘でも幻でも、今はこの幸せに浸っていたい」と語る花に、
アリスは優しく「浸って」と言い放つ。

登校の日、アリスは新しい制服が届き、
花は1年4か月ぶりに制服に身を包み、二人で一緒に登校する。

ネタバレ徹底考察

絶妙な伏線の張り方

今作でも、他の作品と同じように伏線は張られているが、
今作ではそんな伏線が、他のような張り方ではない。

今作、タイトルから、誰しもが想像してしまいそうな、
ミステリー作品としての描写、今作はこの予想を完全に裏切っているような、
ギャップが大きい作品となる。
そのミステリーのような雰囲気、実は物語の中盤まで、
鑑賞者は抱え込まされたままなのである。
全ての発覚は車の下での花の告白であるが、
ここまで感じていた、どこかダークな雰囲気が壊されなかったのは、
このタイトルのおかげでもあるだろう。

そして今回、伏線として利用されたのは「中学生」という設定にあるところが大きく、
クラスでの謎の儀式、そしてイジメなど、今まででは描かれなかったような、
新しい伏線の張り方である印象を感じたのだ。

そして「ユダ」のイントネーション。
これが、終始、一貫して苗字の「湯田」ではなく、
キリストの「ユダ」のイントネーションであったことも大きいだろう。
こんな些細なイントネーションにより、
「ユダ」を苗字として捉えることができなかった伏線の張り方は非常に上手だった。

独特なアニメーションと、非現実感

今作のアニメーション、決して「リアルさ」に重きを置いたアニメーションではなく、
ストーリー内容に力が入る作品となっていた。

そんな作画も、ストーリーに合うような、柔らかいタッチの作画となっていて、
「映像美」よりも、コミュニケーションの取り方や、動き、仕草、心理描写をリアルに
映し出すような作画になっていると感じた。

映画の始まりでも、この作品が映画であることを象徴するような、
ネームタッチの作画で始まり、終わりもそのように終わっていく。

今作の映画は全てにおいて、
モデルの動きをカメラで撮影し、それをトレースしてアニメーションにする、
「ロトスコープ」と呼ばれるアニメの手法が使用され、
どこか雰囲気の異なるぬるぬるとした動きが感じ取れるだろう。

そんな非現実感の中に、よりリアルな各キャラクターの心理描写の、
リアルさを感じるような作品だろう。

人気の秘訣はこの「あっさり感」

今作の人気である秘訣、それの一因となるのがこの「あっさり感」

ミステリーやサスペンスを匂わせるタイトルや伏線の数々が、
ワンシーンであっさりと解決してしまうことがこの作品では多かった。
オカルト的な儀式は陸奥の演技であること、
窓から覗く人物との対面のシーン、
そして最後は、「探していた人とたまたますれ違う」というオチ。

この「緊張」と「緩和」の関係性が今作を面白く感じる最大の要因だろう。