ラッキー【ネタバレありなし徹底考察】

本記事では、
前半で、映画紹介&見どころレビュー
後半で、ネタバレ解説&徹底考察を行います。

「ラッキー」

2017年、ジョン・キャロル・リンチ監督により制作された人情映画。
一匹狼の老人「ラッキー」の日常を描いた物語。
名優ハリー・ディーン・スタントンが主演を務め、彼の遺作となった作品。
上映時間は88分。

あらすじ

舞台はアメリカ、独居老人のラッキーは今年で90歳。
ラッキーは今まで一匹狼で生きてきた。
目を覚ますとコーヒーを飲んでタバコを吸い、
なじみのバーに出かけて常連客たちと無駄話をしながら酒を飲むという毎日を過ごしていた。
そんなある日、ラッキーは突然倒れたことをきっかけに、初めて「死」を意識し始める。

出演役者

主人公のラッキーを演じるのは、
アメリカの誇る名脇役「ハリー・ディーン・スタントン」

 

カフェの店員、ロレッタを演じる「イヴォンヌ・ハフ・リー」

 

友達のハワードを演じるのが「デヴィッド・リンチ」

 

弁護士のボビーを演じるのが「ロン・リビングストン」

 

見どころ①「名優ハリー・ディーン・スタントンの初主演作品」

今作の主演である「ハリー・ディーン・スタントン」は、
アメリカの名脇役として数々の映画に出演してきた。

その数およそ100本を超える作品数であるが、
今作の「ラッキー」が彼の初主演となった作品であった。

熟練の磨き抜かれたハリー・ディーン・スタントンの演技こそが、
今作一番の見どころだろう。

見どころ②「ハリーの生涯に呼応するような命の作品」

御年90を迎えるラッキーが「死」と向き合うテーマの作品であるが、
今作こそが名優ハリーの「遺作」ともなった作品である。

ハリーの人生と描かれている内容が同じだけに、
やはり、映画の想いもより深く伝わってくるだろう。

数々の名作を世に放ってきたハリー・ディーン・スタントンという人間と、
今作での彼の頑張りに盛大な拍手を送りたい作品である。

配信コンテンツ

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ここからネタバレあらすじ

今年で90歳になるラッキーは90年間一匹狼として生きてきた独居老人だった。

朝起きたラッキーは、毎日の習慣である一服と髭剃り、ストレッチをこなし、
そして毎日訪れるカフェに赴く。
「いつもの席」について、店員のロレッタとあいさつを交わす。
クロスワードパズルを解きながら、煙草に火をつけようとするが、
マスターに「辞めなきゃ死ぬぞ」と制止される。
「今までこれで生きてる」と、苦言を呈しながらも、
その場はしぶしぶ我慢するラッキーであった。

カフェを出たラッキーは、いつものスーパーでいつもの牛乳を買う。
カフェのロレッタや、スーパーのビビ、そして通り過ぎる車でさえも、
ラッキーとは顔見知りであり、挨拶と世間話を交わすのであった。

家に帰ると、いつものTV番組を鑑賞し、
クロスワードパズルのヒント得るために電話をかける。
何とも平穏な毎日を送っていた。

日も暮れた夜、ラッキーはいつものバーに向かう、
バーには、顔見知りの常連客が集まっていた。
常連仲間に昼間のクロスワードの答えである「現実主義は「物」」という言葉の意味を聞くが、
関心を持つ者は居なかった。

そこにもう一人の常連客が訪れる。
彼の名は「ハワード」
ラッキーとあいさつを交わすが、彼の浮かない様子にラッキーは心配し、
何かあったのかと尋ねる。
ハワードは自宅で100年生きるリクガメの「ルーズベルト」を飼っていたが、
リクガメが自宅から脱走してしまったことに落ち込んでいた。
「二人の前妻より長生きだ」と語るハワードに、ねぎらいの言葉をかけるラッキーであった。

翌朝、「いつもの」朝が訪れる、ラジオをかけて、コーヒーを淹れる。
マグカップを手にしたその時、ラッキーは急に倒れてしまう。
床に突っ伏しながらも「なんてこった!」と呟くラッキーであった。

ラッキーは倒れたことを不安に思い、病院を訪れる。
「調子はどうだい?」との問いに「俺が知りたい」とラッキーは返す。
骨折もなく、血圧良好、心臓も正常、CTスキャンも異常なし、
1日1箱の喫煙をするにも関わらず、肺にも問題なし、
そんなラッキーに、先生は「禁煙することが寧ろ体に悪い」「健康すぎて異常」と言い放ち、
「加齢によるもの」という診断結果を伝えた。
ヘルパーを雇うことを勧められるが、これを拒否し、
「孤独ではないのか?」と聞かれると、
「孤独」と「一人暮らし」は違う、と言うラッキーであった。

その後、ラッキーがいつものカフェを訪れると、若者たちに「いつもの席」が占領されていた。
仕方なく一人でボックス席に座る。
ラッキーが「倒れた」ことを伝えると、皆が不安そうにラッキーを見つめた。
居心地が悪くなったラッキーは店を出る。
スーパーで、ビビと世間話をする際に、息子の誕生日パーティに来ない?と誘われたラッキーは、
返事を待ってくれと言い、店を後にする。
家で一人まどろむラッキーであったが、
若き日の「BB弾の銃を撃った時に訪れた静寂」を思い出し感傷的になった。

夜は更け、今夜もバーへ赴くラッキー、
世間話に花を咲かせたが、隅の席で弁護士と話すハワードの姿があった。
ラッキーは挨拶をしにハワードの元を訪れる。

ハワードは「終活」をしていた。

・終活
自身の死後に、遺族が困らないように、
葬式や遺産の手続きを生きているうちに済ませておく活動。

ハワードは脱走したリクガメの為に活動を始めたのだった。

そんなラッキーは「目的はカネだ!」と言い、弁護士に敵意を向ける。
弁護士と外でケンカをすることを吹っ掛けられるが、
ポーリーに制される。
その後、ポーリーはおもむろに若者の集まるクラブに足を向け、入っていった。
跡を追うラッキーだったが、そこで目が覚める。それは夢だったのだ。
ラッキーはそこから眠ることができず、煙草を吸ったりしながら過ごし、
布団に再度入るラッキーであった。

翌朝、カフェで働くロレッタがラッキーの元を訪ねる。
ラッキーが倒れていないか心配したのだった。
家に招き入れ、一緒にテレビを見る、
テレビには昔のアーティストである「リベラーチェ」が映っていた。
帰る際、ロレッタと抱擁を交わし、ロレッタにだけ自分の秘密を打ち明ける。
それは「死が怖いこと」だった。
ラッキーは倒れる事件を受けた日から、「自らの死」を初めて意識していた。

その後、いつものカフェで、昨日敵対した弁護士と再会する。
あまりの気まずさに店を出ようとする弁護士だったが、
二人はついに腹を割って話をすることができた。

その後ラッキーはペットショップで、
「エサ用」として売られているコオロギを大量に購入する。
夜の静寂を恐れたラッキーは、部屋中にコオロギを放ち、眠りについた。

翌朝、いつものカフェで、「退役海兵隊員」であった「フレッド」と出会い、
海軍時代の話に花を咲かせる。

更に翌日、ラッキーは呼ばれていたパーティに出かける。
パーティでは歌を披露したラッキーであった。

夜、いつものバーに向かったラッキーは、店内での喫煙を止められ、マスターと揉める。

「喫煙しようとしなかろうと、どうせ最後は無になる」と語ったラッキーは、
「無になるならどうする?」と、皆から問われる。
ラッキーは一言だけ、「微笑むのさ」と答えると、
あえて店内で煙草に火をつけるのだった。

翌日、ラッキーは広い荒野を歩く。
いくつもの巨大なサボテンが立ち並ぶその荒野で、
ラッキーはサボテンを暫く見上げてから、家に帰る。
その後ろには、いつしかのハワードのリクガメが歩く姿があった。

ネタバレ徹底考察

名優ハリーの人生の作品。

今作の主人公は「ハリー・ディーン・スタントン」である。

ハリー・ディーン・スタントン(1926~2017)
ケンタッキー州アーヴィン出身で、第二次大戦中は海軍で調理師をしていた。
除隊後にケンタッキー大学で演技を学び、
1950年代から死去するまで100本以上の作品へ出演した名脇役であった。 
トム・ハンクス主演の「グリーンマイル」や、
アーノルド・シュワルツェネッガーの「ラストスタンド」にも出演している。
2017年9月15日(91歳没)

こんな名優ハリーであるが、
この「ラッキー」までは主演としての配役はしたことが無かった。

御年90歳での人生初主演の作品であり、
今作はハリー・ディーン・スタントンの人生の作品と言っても過言ではないだろう。

作品の構成はほとんどが「ハリーそのものの人生」で構成され、
作中で描かれるラッキーの年齢や、海兵隊時代の経歴など、全てがリアルに描かれる。

今作では90歳の独居老人が「死」と向き合うテーマで描かれているが、
この事実を受け止めて今作を鑑賞すると、ハリー・ディーン・スタントンという俳優が、
どんな人生を送ってきたかがわかってしまうような気さえする。

彼の圧巻の演技力と、生涯現役を貫いた生き方は誰にもマネできないだろう。

独居老人の日常を描く斬新な構成。

今作では映画でも珍しい「日常」が描かれる作品で、
ハリー扮する90歳の独居老人は、「いつもの日常」をひたすらに繰り返す。

「衝撃のラスト」や「どんでん返し」がここまで起こらない作品も珍しいことであるが、
じわりじわりとハリーが「死」と向き合っていく描写の構成は本当にうまくできていると感じた。

90歳にして心身ともに健康で、煙草を吸っているのに肺にも異常が無いラッキーが、
初めて意識する「死」

そのテーマとどう向き合っていくのか?そしてハリーの日常はどう変わっていくのか?
という流れが気になり、いつの間にか引き込まれてしまう作品である。

ハリーの熟練の演技力と、呼応する世界観とBGM

荒野の広がる街で一人歩く老人、頭にはカウボーイハット、
そしてブルースハープの音色。
文字に起こすだけでも脳内再生されてしまうような世界観で物語は進む。

実年齢でも90を迎え、無数のしわが彫り込まれたハリーの表情ひとつひとつが、
その世界観に呼応するように演出される。

ただ一人で、老人が荒野を歩いているだけなのに、
ここまでに魅せれる撮り方ができるのは、
やはり、ハリー・ディーン・スタントンだけだろう。

彼自身の遺作であり、
それも、彼の没後の2週間後に公開された今作「ラッキー」
「ハリー・ディーン・スタントン」を知らない人にこそ観てほしい作品であると感じた。