「こんな夜更けにバナナかよ」ネタバレ感想と考察【人生を謳歌する障がい者】

本記事では、
前半で、映画紹介&見どころレビュー
後半で、ネタバレ解説&徹底考察を行います。

こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話

2018年、前田哲監督によって制作された作品であり、

原作となる書籍は渡辺一史による同名ノンフィクション小説である。

 

全身の筋力が徐々に衰えていく

「進行性筋ジストロフィー」という難病を抱えながらも、

その生涯を生き抜いた一人の男性の物語。

 

北海道札幌市に在住していた男性、

「鹿野靖明」氏を描いたノンフィクション作品である。

上映時間は120分。

 

あらすじ

舞台は日本、北海道札幌市、

ここに一人の男性が住んでいた。

彼の名前は「鹿野靖明」

彼は全身の筋力が徐々に衰えていく、

「進行性筋ジストロフィー」という難病を患っていた。

ある日、ボランティアの一人の「田中久」が、

彼女である「安堂美咲」をボラの手伝いとして連れてくるが…。

 

出演役者

今作の中心人物「鹿野靖明」を演じるのが

「大泉洋」

 

今作の主人公の医学生「田中久」を演じる

「三浦春馬」

 

今作のヒロインである「安堂美咲」を演じる

「高畑充希」

 

見どころ「同情を誘う映画ではなかった衝撃」

「障害者」というワードの映画を聞くと、

どうしても同情を誘うような感動秘話が想像されがちだが、

今作は、そんな作品とは似て非なる作品となる。

 

「障害者」と「健常者」の関係性を同じ目線に置いたうえで

描かれていることが、今作最大の見どころだろう。

 

障害を持つ鹿野を「一人の人間」として撮った作品であり、

それに呼応するように動く、

取り巻きの人物たちの心情も楽しめるだろう。

配信コンテンツ

「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」は今現在、

Amazonプライム、U-NEXT、Hulu、等で配信されている。

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ネタバレあらすじ

舞台は日本、北海道札幌市、

ここに一人の男性が住んでいた。

彼の名前は「鹿野靖明」

彼は全身の筋力が徐々に衰えていく、

「進行性筋ジストロフィー」という難病を患っていた。

 

動かせるのは手先と頭だけという障害であったが、

彼の元に集まるボラ(ボランティア)達によって、

「自立生活」をしているという、偉業の持ち主でもあった。

 

20歳で死ぬと言われていた鹿野は、

その忠告を受けたのにも関わらず、

病院を飛び出し、34歳の現在まで生きぬき、

障害を持つ人々の希望とされていたのだった。

 

しかし家では、ボラとして手伝いながらも、

必要以上の手伝いを要求する鹿野に対して、

快く思わないボラもいた。

中でも、

彼の元で手伝うボラの一人であり、

医学生である「田中久」は、

第三者から見ても、一層ハードな手伝いをしていた。

 

そんな田中はある日、

一日だけのボラの手伝いとして、

彼女である「安堂美咲」を招集する。

ボラとしての手伝いが終わった後、

二人でデートに行く予定であったが、

鹿野が安藤を気に入ってしまい、

二人に夜勤のボラをお願いし、

嫌々引き受ける二人であった。

 

深夜2時、

鹿野が急に「バナナが食べたい」と言い出し、

安藤は商店街を走り回る。

なんとか売っている店を見つけ、

鹿野の無理な要求に応えるのであった。

 

安藤は一回きりのボラのはずであったが、

鹿野の要望でもう一度ボラに出向くこととなる。

乗り気がしない安藤だったが、

彼氏である田中の頼みを断り切れず、

再度、鹿野の家に赴くのだった。

 

安藤が来た日も、

相変わらずのボラの扱いをする鹿野。

その光景を見た安藤は、

「障害者はそんなに偉いの?」と言い放ち、

口論となる。

これに持ち前の性格で鹿野も反論し、

「もう二度と来ない」と吐き捨て、

家を飛び出す安藤だった。




その後、鹿野は深く後悔し、

安藤に対して一筆の手紙を書く。

口論に対しての謝罪と、

好きであることの告白だった。

この手紙を代筆したのは他でもない田中であった。

自身の彼女へのラブレターを代筆し、

戸惑いを隠せない田中だった。

 

仲直りであるバーベキューに誘われた安藤は、

またもや田中のお願いを断り切れず参加する。

仲直りを果たした鹿野と安藤であったが、

鹿野は動けないにも関わらず人生を謳歌し、

これからやりたい夢がたくさんあることを知り、

鹿野の人間性に深く共感する。

 

その後も田中と安藤を含めたボラの活動の日々が続き、

ある日、田中と安藤はピクニックデートに出かける。

結婚を前提とし、田中の家に遊びに行くことを打合せするが、

そこで安藤は今まで田中についていた嘘を白状する。

それは安藤が、「本当は教育大生ではないこと」だった。

田中と付き合う際についた嘘を今まで黙っていたことに、

怒りを覚える田中、

二人は険悪な状態となってしまう。

 

引き続き鹿野のボラを担う安藤であったが、

鹿野との交流を通じ、

鹿野の魅力にだんだんと引き込まれる。

 

一方の田中は、失恋に気が病み、

学業もボラ活動も活力を失いつつあった。

 

そして正月、鹿野とボラのメンバーは初詣に赴く。

鹿野に諭されていた安藤は「教育大学合格」の目標を掲げるのだった。

 

ある日、ボラのシフトに組み込まれた安藤は、

鹿野と二人きりの空間で、寄り添うまでに至る。

「介護」の一環であったが、

そこには「彼氏彼女の関係」であるような雰囲気が漂っていた。

 

後日、鹿野は急に倒れる。

呼吸器官の悪化により入院した鹿野であったが、

人口呼吸器を取り付け、一命を取りとめる。

 

人工呼吸器によって、声が出なくなってしまった鹿野であったが、

これまで信頼してきたボラたちの頑張りによって、

発声するにまで回復を見せることとなる。

これには安藤も田中も一丸なり、一生懸命の活動を見せるのだった。

 

鹿野の人望とボラの活動によって、

ボラの数も増え、外出できるまでに至った鹿野は、

「退院記念パーティ」を開催し、

その場で安藤にプロポーズするが、

まだ田中のことが好きであったためにこれを断る安藤だった。

 

ある日、道内の旅行に赴いた鹿野一行であったが、

鹿野は急に倒れ、体調不良の演技をする。

 

旅行に来ていなかった田中と安藤であったが、

この一報を受け、旅行先の宿まで集まることとなる。

演技であったことに最初は怒りを表すも、

鹿野の仲介により、田中と安藤は仲直りをすることとなる。

 

7年後、鹿野は亡くなっていた。

田中は無事に医師となり、

安藤は小学校教師として勤め、

二人は結婚し、仲睦まじく暮らしていた。

 

ネタバレ考察

作品の雰囲気の移り変わりのギャップ

今作を鑑賞し始めての数十分、

ボラに対して雑な扱いをする鹿野に対して、

嫌悪感を覚えてしまった鑑賞者も多いのではないだろうか?

 

それがラストシーンでは、

そのわだかまりが消え去っているという、

不思議な現象が起こる。

 

今作における大きな魅力の一つが、

序盤と終盤のギャップにあるだろう。

序盤の鹿野の横暴な態度にも、

物語が進むにつれて

彼の「人間性」や「考え方」

彼自身の持つ魅力が、じわじわとにじみ出てくる。

 

自身でも気が付かないほどに、

「あからさまに」ではなく、

「自然に」感情が移り変わっている、

物語の構成は見事だっただろう。

それには他にも、いくつかの要因がある。

 

「大泉洋」というキャラクター

介護を受ける側のキャスティングにおいて、

今作で演じた「大泉洋」のキャスティングは、

しっかりとハマっている役であり、

それが今作の魅力を最大限まで引き出せた要因であっただろう。

 

一見、神経質に扱いがちな「患者役」であるが、

彼の持つ、独特なキャラクターによって、

しっかりボラとの「同じ目線」での立ち位置で、

物語が描かれている。

 

それは一見横暴で、ワガママに振舞う、

「鹿野」のキャラクターにおいても、

大泉洋が演じることによって、

コメディ調に描かれているのがわかるだろう。

 

ボラとの関係性において、

「上下関係」を作らず観せることができたのも、

大泉が持つキャラクターの働きが大きかったからだろう。




「障害者の理解を深める映画」ではなかった。

一見、映画のあらすじだけを聞くと、

障害者にスポットライトを当てた、

理解を深めるための映画に感じるが、

真実はそうではなかった。

 

決して、鑑賞者の「同情」を誘うような作品ではなく、

五体満足な人々も「彼の生き方」そのものを、

感じることができる作品だった。

 

今作を誰かに勧める時に、

あなたはどんな人にこの作品を勧めるだろうか?

 

それは「障害者」ではなく、

「夢を諦めた人」すべてになっていくのではないだろうか?

 

彼の生き方は障害者のみならず、

健常者に対しても考えさせられ、

それは「介護」に一切の興味を持たない人々にも、

刺さっていくだろう。

実在した「鹿野靖明」という人間

今作の原作となる同名小説は、

タイトル通りのノンフィクション作品だった。

 

実在した鹿野も、煙草を吸い、

ボラに対して、数々の命令をし、

そんなたくましさに

500人ものボランティアが集まった歴史があった。

 

障害者と健常者の壁を取っ払うような彼

実際に存在していたことがいかに凄いことかは、

今作を鑑賞してみて初めて分かることだろう。

 

今作の著者である「渡辺一史」は、

今作を書くにあたって、

実際の鹿野の様子を取材していたが、

その情景をこう語る。

私は取材しながら、いったいどちらが「障害者」で、

どちらが「健常者」なのか、

どちらが「支える側」で

どちらが「支えられる側」なのか、

わからなくなることがしばしばだった。

著者がそうコメントするほどに、

実際の「鹿野靖明」は強い人物だった。

それどころか、彼の生き方はノンフィクション以上、

実際の鹿野は結婚も離婚も経験しているのだ。