本記事は、映画「ユージュアル・ネイバー」の
ネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、
注意して読み進めてください。
ユージュアル・ネイバー/ マッド・マザー 生贄の少年
2013年、ジョン・マクノートン監督によって
制作された作品。
森の中の一軒家に住む、一組の家族の物語。
原題は「The Harvest」となる。
上映時間は107分。
あらすじ
舞台はアメリカ、
一人の少女である「マリアン」は、
両親の死によって、
田舎の祖父母のもとへ引っ越してくる。
悲しみを背負ったまま、
新たな環境での生活を始めることとなるが、
少し離れた家に、
生まれつき体の弱い「アンディ」の
住んでいる家を見つける。
二人は徐々に友達としての関係を
築いていくが、
アンディの家庭には
衝撃の事実が隠されているのだった。
出演役者
本作の主人公であるマリアンを演じるのが、
「ナターシャ・カリス」
若きカナダの女優であり、
洋画ドラマや、
有名ホラー作品「ポゼッション」等へ出演している。
マリアンの友達であるアンディを演じるのが、
「チャーリー・ターハン」
アメリカを代表する有名子役の一人で、
アクションアクション作品から
ヒューマンドラマまで、
数々の作品に出演している。
有名策では「アイアムレジェンド」に
出演している子役である。
本作の元凶、ヤング家の妻である
キャサリンを演じるのが、
「サマンサ・モートン」
こちらもアメリカを代表する
有名女優の一人で、
有名シーズンドラマである
「ウォーキングデッド」シリーズで
有名であろう。
作中では、母親でありながら、
愛を見せつつもサイコパスなキャラクターで
圧巻の演技を見せてくれた。
ヤング家の大黒柱、夫のリチャードを演じるのが、
「マイケル・シャノン」
本作に出演する役者の中でも、
一番のベテラン俳優であり、
数々のアメリカ映画に出演している。
本作では、夫でありながらも、
どこか頼りない、尻にしかれつつある
男性キャラクターを見事に演じ切っている。
主演としての作品も数多く、
似たジャンルの作品である
「テイクシェルター」では
その独特の雰囲気を遺憾なく発揮した
演技力を見せているオススメ作品である。
ネタバレ感想と考察
物語の核心に迫るまでが長い作風。
本作の脚本において、
一番の衝撃の事実であるマイク家の
「地下室」の存在。
まぎれもなく、本作での「最大のネタ」であったが、
その導入までの時間をたっぷりとっていることが
本作の真骨頂となっていただろう。
物語は「カット」や「ジャンプ」等の
演出を使うことなく、
現在進行形でのストーリー展開がなされ、
鑑賞者の中には、
この「ネタ」の暴露の前に感づいた
勘のいい鑑賞者の皆さんも多かったはずだ。
「この一家には、絶対に何かがある」
そう感じさせる伏線をいくつも張ると同時に、
ラストにかけての怒涛の展開を
一気に勢いづけるための
ある種の「ギャップ」として働いているような
印象を受ける展開となった。
まるでジェットコースターのようなラストの展開に目が離せない。
「地下室」の存在が明らかになってから
ラストまでの展開は
まるでジェットコースターのような展開で、
すべてのキャラクターの
「感性」や「考え方」が、
一気に動き出す目まぐるしい展開となっていた。
脚本としての「キャラクターの動き」が、
一番大きい箇所もここでありながら、
各キャラクターの心理描写が
一番色濃く描かれた箇所も
この箇所であった。
中でも、作中最初から、
動きや心理描写が描かれていた、
ヤング家の妻である「キャサリン」、
息子を愛することが根本にあるような
キャラクター性であったが、
映画を通して「徐々に狂っていく」ような
動きが描かれたキャラクターであった。
その真相を知り、
アンディに対する歪んだ愛情の形が
わかることによって、
より「狂気度」が増していく
変化はとても面白かった。
本作はこのキャラクターの
「転」と「結」を描くことを目的に、
作られた作品であるといっても
過言ではない。
ラストにかけての各キャラクターの動きと心理描写が秀逸!
前項目でも記述したが、
ラストにかけての各キャラクターの
動きと心理描写、
これが複雑でありながらも
面白い脚本となっていたので、
解説していく。
まずはことの中心にいた「アンディ」
マリアンからの助言によって、
「地下室」の存在に気が付いた彼は、
焦りながらも真実と向き合おうとしていた。
「地下室」の存在をマリアンから教えられる際、
彼の本名が「アンディ」でないことが
マリアンに告げられるが、
彼はすでに「悟っていた」とも考えることができる。
一番複雑であり、且つ、本作での「希望」としての
存在としてのキャラクターであり、
ラスト、元気に野球をする姿が描かれたのは
とても気持ちのいい終わり方を作ってくれた。
アンディのために奔走した「マリアン」
彼女はもう「家族」や「友達」を失うことは嫌だった。
祖父からの「心に従え」の助言を得て、
心のままにアンディを助ける彼女が、
本作一番の「作品」としての躍動を
生み出しているキャラクターだった。
本作における「鑑賞者の目線」のキャラクターであり、
物語の起承転結を動かしていたのは彼女であっただろう。
そして、一番揺れ動く、
絶妙の立ち位置で心理描写が描かれたのが、
ヤング家の夫である「リチャード」だろう。
愛する息子を救いたい心、それに対して、
心臓移植のために一階で育てていた
アンディに対して芽生えてしまった愛情。
彼の気持ちは彼でしか理解することができず、
本作の結末を決める「キーマン」としての
立ち位置であった。
また、リチャードを演じた
「マイケル・シャノン」が、
非常にいい味を出していた演技だったっだろう。
彼の持つ雰囲気や佇まいに
ガッツリハマったキャラクターだった。
なぜリチャードは地上のアンディを助けたのか?
ストーリーの中で、
地下の実の息子を救うために、
「心臓移植」を試みようと
新生児だったアンディをさらい
育ててきたヤング夫妻であったが、
物語のラストで、リチャードが
マリアンとアンディを
外へ逃がす描写が描かれる。
実の息子の救済ではなく、
アンディを助けるという「選択」の結果を
物語っているが、
それは作中で見事な伏線として描かれていた。
まずは「薬の量に気をつけろ」という
キャサリンへの助言。
医師であるキャサリンの元で、
「看護師」的な立ち位置で動いていたが、
唯一の「医療」に関する意見がこれであった。
無論、キャサリンは「徐々に衰弱させること」を
目的に、アンディに薬を過剰に投与していたが、
この点から見ても、
アンディへの愛情が生まれつつあることが十分にわかる
描写だっただろう。
そして「家で酒浸り」であったこと。
リチャードとキャサリンの口論のシーンで、
キャサリンは面倒を見るのではなく、
「家で酒浸り」であるとリチャードを罵るが、
ここに隠されていたのは
「リチャードがアンディの面倒を見る役であったこと」であった。
彼は必然的に、キャサリンよりも長い時間、
アンディと触れ合う時間があったためか、
愛情の質がキャサリンよりも高くなっていたことを
示唆できる。
また、数々のキャサリンのアンディに対する
虐待時にも、
アンディに救いの手を差し伸べていたのも
紛れもなくリチャードで、
彼の心理描写によっては
物語の結末すらも変わっていたであろう
立ち位置は非常に面白いものであった。
「ホラー作品」としての本作の見方。
本作の映画のパッケージからもわかるように、
ジャンルとして「ホラー」や「スリラー」作品としての
側面もある作品であるが、
そんなダークな作品という観点でも、
楽しめる鑑賞者は多いことだろう。
そんな「ホラー要素」の中心を担っていたのが、
間違いなく「キャサリンのキャラクター性」である。
徐々に狂ってく様を見せつけるとともに、
息子への歪んだ愛情の形を晒すキャラクター性は、
本作のパッケージが、どこか陰鬱な雰囲気で作られている
理由を教えてくれただろう。
また、キャサリンの役を担当した、
「サマンサ・モートン」の圧巻の演技力。
時に大声で怒り狂う描写も、
冷酷で静かにアンディとサマンサの動きを
抑制していく行動も、
圧巻の演技力を見せてくれた。
キャサリンを演じるのが彼女でなければ、
本作の「闇」の部分は見えることがなかった。
狂気の渦巻く家庭にはいつでも絡んでくる、
「地下室」という存在も、
本作のホラー要素の一端を担っていた。
良作と言われる「地下室」が絡んだ物語では、
「10クローバーフィールド・レーン」も
なかなか面白い作品となっていた。
序盤の「野球少年」のシーンの謎
本作の冒頭、
黒人の野球少年がピッチャー返しの球を
胸に食らって倒れてしまうシーンがある。
病院に搬送された先での担当医が
キャサリンであったことに
鑑賞者の皆さんは気が付いただろうか?
このシーンの真相は、そんな伏線によって、
本作の登場人物に「医師」がいることや、
「心臓」「野球」などの
数々のキーワードが
冒頭で描かれているシーンとなっていた。
物語のラストでも、
同じ草野球場で元気に遊ぶ
アンディの姿が描かれ、
映画の「ハッピーエンド」の
舞台として描かれていることがわかる。
決して複雑ではない伏線と、
そのキーワードが含まれた
シーンであると考えられる。
洋題に対して…センスのなさすぎる邦題!
今回の映画の邦題は、
「ユージュアル・ネイバー/
マッド・マザー 生贄の少年」である。
他に何かいいものが無かったのか?
とも思ってしまいそうなタイトルだと
誰もが思ったことだろう。
「ユージュアル・ネイバー」だけで
留めておけばいいものを、
「マッドマザー」って…
「生贄の少年」って…。
取り合えず、そんな作品タイトルに対する
ツッコミは置いておいて、
洋題から本作の邦題になった理由を考察していきたい。
本作の洋題は「The Harvest(ハーベスト)」、
意味としては「(穀物の)収穫、搾取」である。
これは恐らく「心臓の収穫」という
意味が込められていると考えられる。
これは日本において大変に残酷であり(米国も同じであろうが)、
またタイトルでの「ネタバレ」の危惧される…。
そんな理由から今回の邦題になったことが考えられる。
更に、本作を「ホラー映画」という
観点から鑑賞したときに、
「マッドマザー」や「生贄の少年」というワードのほうが
パンチが効いて、
ホラーマニアの目に止まるのも事実だろう。
興行収入的な観点から、
「大人の事情」によって、
こんなタイトルになってしなったのかもしれない。
タイトルだけは「B級映画」を匂わせるが、
物語はB級にとどまらない、面白いものだった。