本記事は、映画「10クローバーフィールド・レーン」の
ネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、
注意して読み進めてください。
10クローバーフィールド・レーン
2016年、ダン・トラクテンバーグ監督によって
製作された作品。
SF映画の名プロデューサーとして知られる、
「J・J エイブライムス」が本作品のプロデューサーとして
参加している。
上映時間は104分。
あらすじ
舞台はアメリカ、服飾デザイナーを志す女性の
ミシェルは、婚約者のベンと喧嘩をして
家を飛び出してしまう。
ルイジアナ州の農道を当てもなく走っていると、
対向車線から走ってきたバンと接触事故を起こし
崖の下へ転落してしまう。
目を覚ますと、足が鎖に繋がれ、
見知らぬ「地下室」にいるのだった。
「外の世界は汚染されている」と聞かされた
ミシェルは、疑念を抱きつつも
シェルター内での共同生活を始める…。
出演役者
本作の主人公、ミシェルを演じるのが
「メアリー・エリザベス・ウィンステッド」
アメリカを代表する女優の一人で、
アメリカでは「絶叫クイーン」の異名で知られている。
出演作品もホラー、スリラー作品への
キャスティングが多いが、
アクションもこなせる女優で、
あの「ダニエル・ラドクリフ」主演の珍作、
「スイス・アーミーマン」にも出演している。
その運動能力から、
「メイク・イット・ハプン!」というダンス映画では
主演も演じている。
幼いころからバレリーナを目指していたものの、
身長の高さを理由に断念し役者を志した。
シェルターの持ち主で管理人のハワードを演じるのが
「ジョン・グッドマン」
アメリカを代表するベテラン俳優の一人で、
今までに出演した映画作品は50を超える実力派である。
シェルターで暮らす仲間、
エメットを演じるのが
「ジョン・ギャラガー・Jr」
アメリカの中堅俳優で、
映画役者の中でも、
音楽に精通する俳優である。
両親がフォークミュージシャンであり、
ジョン自身もミュージカル作品などに
キャスティングされたりしている。
ネタバレ感想と考察
「クローバーフィールド」シリーズの2作目にあたる作品!?
本作の映画、タイトルは
「10クローバーフィールド・レーン」
であるが、
似たような内容の作品に
「クローバーフィールド/HAKAISHA」という
有名映画がある。
内容もSF作品として類似する脚本であり、
作中に登場する架空の会社「タグルアト社」の
登場も匂わせる作風となった為、
本作は「前作クローバーフィールドの続編ではないか?」
という話が大きくウワサされた。
前述した作品も、本作も、
SF映画プロデューサーのJ・J・エイブラムスが
手がけていたが、
内容に直接の繋がりはないものの、
前作の正統な続編ではないことを
前置きした上で、
本作が「前作と同じDNAを持つ」と
インタビューで語っている。
事実上の「前作」にあたる、
「クローバーフィールド/HAKAISHA」は、
完全なるSF作品で、
自然災害に宇宙人要素を取り入れた、
「インデペンデンスデイ」のような作風だった。
それに対し、
本作「10クローバーフィールド・レーン」では
物語の主体がSFに置かれていなかったような、
特殊な造りの作品となっていた。
密室サスペンス×SF映画という斬新な設定
本作の括られるジャンルを見てみても
「SF作品」に分類される映画であったが、
一見してみると、
そのSF要素がガッツリと登場するシーンは、
せいぜい、ラスト20分程度であり、
物語のメインは「密室サスペンス」であることが
面白かった。
地下シェルターで目覚め、
外の様子もわからぬままに生活を強いられ、
いずれ、内部での殺し合いが勃発する作風は、
「密室」を舞台とする作品において
安心できるほどに発生する脚本である。
本作に絡んでいたSF要素では、
主に「外に出られない理由」であり、
直接的な被害を被る要因ではなく
間接的要因であったことが、
「SF作品」としての映画の在り方を
薄くしていたものと考えられるだろう。
「SFマニア」の鑑賞者は、
本作の脚本にガッカリしてしまった人も
居たとは思うが、
逆を言うなら「サスペンスマニア」の鑑賞者は
楽しめるような作風に仕上がっていたのではないだろうか?
また、日本映画でも
同じような手法の作品が存在する。
本作と同じく2016年に公開された
「団地」という作品である。
こちらも、作品の殆どが「日常系ドラマ」が
展開されるが、ラストでは…。
ネタバレになるのでここではよそう。
「ラスト30分」に隠された、三重のオチ!
本作を無知識で「サスペンス作品」として
鑑賞した人の、全てがまずこう思うだろう。
「外が汚染されているって、嘘なんじゃない?」
あくまでミシェルの監禁のために
捏造された話である説だが、
熟練のサスペンスマニアなのであれば、
豚の死骸のシーンはおろか、
顔がただれた女性が「中に入れてくれ」と
懇願するシーンであっても、
まだ疑いは捨ててはいなかっただろう。
物語を楽しむうえで、
明言されてはいない楽しみ方の一つが、
この「汚染は嘘である説」だった。
半信半疑で物語を見進め、
いよいよミシェルが外に出るシーン、
空を飛んでいる鳥のシーンを見て、
「やっぱりな」とほくそ笑む
サスペンスマニアの顔が浮かぶ。
しかし、
それを裏切ってくるところまでは読めなかった。
このシーン以降、本作は「完全なるSF作品」としての
ベールを脱ぐわけであるが、
予想だにしない「裏切り」に
ここから最後までは
開いた口が塞がらなかった。
めくるめくアクションの嵐と、
まさかまさかの
「火炎瓶」での宇宙生物の撃退、
どうやら、本作のプロデューサーが
J・J・エイブラムスであることを忘れていたようだ…。
彼は「アルマゲドン」や
「スタートレック」シリーズ、
「スターウォーズ」シリーズまでも手掛ける
敏腕SFプロデューサー。
そんな予想だにしない、
三重にも仕掛けられた潔い裏切りこそが、
本作の本当の真骨頂だろう。
ガッツリサイコスリラーに見せかけたB級感
映画を通して、ハワードというキャラクターの
人間的恐怖を感じる描写も多かったが、
SF要素が無くても、
キャッチーに本作を鑑賞することができた要因が、
本作のB級感にあるだろう。
探せば探すほど、いろいろな描写に
「ツッコミ」を入れたくなるシーンが多かったが、
そんな描写も含めて、
キャッチーに鑑賞することができたのも
事実である。
その一方で、
やはりツッコミどころの数々や、
脚本的にすっきりしない部分も
数多くあり、それらの要素によって、
本作を酷評するマニアも少なくはなかった。
個人的見解として、
映画冒頭の
ガソリンスタンドでの給油シーンや、
ハワードの娘であるメーガン、
失踪した女性の関係、
ハワードの今現在の仕事について
もっと詳しく掘り下げて欲しかったが、
作中で語られることはなかった。
ちなみに、作中当時もハワードは
現役の「衛星分析士」である設定で、
「クローバーフィールド/HAKAISHA」でも登場する
「タグルアト社」と関係があったようだが、
映画でそこまでは語られていない。
映画サイト「Filmarks」では
本作の評価は3.3と
決して高いものではないが、
そうなってしまった要因も
本作の「B級感」にあったと考えられる。
難解で少しダークな伏線の張り方
サスペンス作品であれば、
なかなかに凝った「伏線回収」が
描写されることが多いが、
「SF」そして「B級」と、
キメラ的立ち位置の本作でも、
伏線はなかなかにダークで凝ったものが張られていた。
主に、作品前半の「密室サスペンスパート」で
数々の伏線がさりげなく張られていたので、
いくつか紹介していく。
・ミシェルが服飾を特技としていることは、
映画の一番初めのシーンですでに明かされている。
・傷を縫うシーンにおいて、
外が汚染されている事実を受けて
ミシェルは乱闘の際のハワードの傷を縫うが、
「二人の関係の修復」、そして「信頼」などの
意味が込められていた。
・3人での「連想ゲーム」のシーンで、
ハワードは「少女」や「小さい」「娘」など、
自身の性癖や過去の確執を口にしている。
そしてエメットを殺害後、本性を現す。
・シェルターにあったゲーム、
「モノポリー」の意味は「独占」である。
・劇中でハワードが観賞していた映画は、
「プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角」であり、
ヒロインがドレスを自分の手で作り、
パーティーに向かうというストーリーである。
ミシェルも自身の手で「防護服」を作り、
外に繰り出すアナグラムとなった。
・ハワードが軍人時代に身につけた
冷却スプレーによってカギを壊す技が、
ミシェルの脱出の際に使われる。
・映画冒頭、酒飲みを趣味とするミシェルは
酒瓶を車に持ち込むが、ラストの巨大生物の撃退に
それを使い、「火炎瓶」を作る。
・(小ネタ)
劇中の食事シーン、
「クローバーフィールド/HAKAISHA」に登場したドリンク
「Slusho!」にラベルデザインの似た炭酸飲料
「SWAMP POP」が登場するが、
これは実在するルイジアナのご当地ドリンク。
その他も、
まだ気が付かれていない細かな伏線が
存在しているだろうが、
これを探しつつ鑑賞してみる楽しみ方も
きっと面白いものとなる。
密室サスペンスの醍醐味は、
限られた空間での「モノ」や「現象」に
集中して鑑賞できることにあるのだから。