本記事は、映画「us(アス)」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。
us(アス)
2019年、ジョーダン・ピール監督によって製作されたホラー作品。
同監督による前作「ゲットアウト」が空前の大ヒットを巻き起こし、期待が高まった作品でもある。
上映時間は116分。
あらすじ
舞台はアメリカ、1986年、黒人の少女であるアデレードは、家族と遊園地に遊びに来る。
親の目をすり抜け、気の向くままに「ミラーハウス」に入り込むが、
そこで自分の「ドッペルゲンガー」と対面する。
時は経ち、家庭を持ったアデレード、
再び同じ遊園地に遊びに来るが、妙な不安は拭うことができないまま遊園地に来ることとなる…。
出演役者
本作の主人公、アデレードを演じるのが、「ルピタ・ニョンゴ」
アメリカを拠点として活動するケニア人の女優。
女優としての実力は折り紙付きで、名画「それでも夜は明ける」では、アカデミー助演女優賞も受賞している。
アデレードの夫であるゲイヴを演じるのが、「ウィンストン・デューク」
トバゴ系アメリカ人の俳優で、「ブラックパンサー」や「アベンジャーズ」などのヒーローアクション作品への出演が多い。
ウィルソン家の長女、ゾーラを演じるのが、「 シャハディ・ライト・ジョセフ」
若きアメリカの女優で、「実写版ライオンキング」へ出演している。
ウィルソン家の長男であり弟の、ジェイソンを演じるのが、「エヴァン・アレックス」
まだまだ無名の子役であるが、本作ではそのあどけなさを存分に発揮した演技を見せてくれた。
また、本作では、これらの人物が「一人二役」を演じている。
配信コンテンツ
「us(アス)」は今現在、Amazonプライム、U-NEXT、等で配信されている。
ネタバレあらすじ
- ネタバレあらすじを読む
- 舞台はアメリカ、1986年、全米の国民が皆で手をつなぐ「HANDS ACROSS AMERICA」のイベントが騒がれる中、一人の少女、アデレードがサンタクルーズ遊園地にて家族とバカンスを楽しんでいた。
父と一緒に行動し、「スリラー」のTシャツを着て歩いていたが、目を離した隙に別行動をしてしまう。
一人で歩くアデレードは夜の遊園地を彷徨う。
途中「エレミヤ書11章11節」と書かれた謎の看板を掲げる男性とすれ違い、海岸沿いにある「ビジョンクエスト」という鏡の迷路のアトラクションへ入っていく。
全面が鏡の部屋を探索するアデレードであったが、中で「自分そっくりの人物」と遭遇するのだった。
時は経ち、アデレードは大人になり、幸せな家庭を築いていた。
家族旅行に出かける計画を練る際、サンタクルーズ遊園地を提案されるが、なかなか乗り気になれないアデレード。
ミラーハウスの件を境に、「失語症」を患ってしまい、サンタクルーズにトラウマを抱えていたためだった。
苦渋の決断であったが去年亡くなった祖母のこともあり、落ち込んでいる子供たちのために、「夕方まで」という条件付きでサンタクルーズへの旅行を許可するのだった。
夫のゲイヴ、娘のゾーラ、息子のジェイソンの家族四人で楽しく旅に出かける。
家族は無事にサンタクルーズにたどり着くが、道中、「エレミヤ書11章11節」の看板を持つ男の死体を目の当たりにする。
かつて幼少期のアデレードがすれ違った男だった。
無事に別荘にたどり着きビーチで遊ぶこととなった家族は、友達であるテイラー家と合流する。
子供たちは海で遊び、大人は会話を楽しむが、ここでも失語症の症状が出てしまうアデレードだった。
息子のジェイソンがトイレに向かうが、その先の砂浜で両手を大きく広げ、立ち尽くす男性を目撃する。
そして、男性の右手は血で染まっていた。
ジェイソンの身を案じたアデレードの叫びによって、一家は合流し、別荘に帰るのだった。
夜、子供を寝かしつけるためウィルソンの部屋に行くアデレード、彼の机の上には、昼間の男性を描いた落書きが置かれている。
不穏な落書きに、アデレードはジェイソンを問いただすが、真相はわからず仕舞いだった。
その後、とうとう我慢できなくなったアデレードは夫のデイヴに「帰りたいこと」を相談する。
そして過去のトラウマを打ち明けるのだった。
その瞬間、家が突然停電する。
家の外を見てみると、不審な四人組が手を繋いで敷地の入り口に立っている。
注意しに向かうデイヴだったが、彼の言葉を受けても一歩も動こうとしない不審者。
頼みの警察も14分待たなくてはならない中、デイヴは金属バットを持って最後の警告に向かう。
次の瞬間、一斉に不審者が動きだす。
玄関を壊そうとする不審者ともみ合いになるデイヴだったが、バットを奪われ足を打たれてしまう。
四人組が家に侵入してくる。居間に集められた一家の四人は愕然とする。
目の前にいる四人は、自分たちと全く同じ「ドッペルゲンガー」だった。
ドッペルゲンガーたちは言葉を発そうとしない。
耐えかねたゲイヴが「金目のものはない」と沈黙を切り裂くと、アデレードのドッペルゲンガーであるレッドが静かに喋り始める。
彼女は「その昔…」を皮切りに、「一人の少女の人生」について話し始める。
その少女は、紛れもないアデレードの人生だった。
そして、その少女の「繋がれた影」の存在についても言及する。
アデレードが生きる人生と同じように、レッドも似たような人生を歩んだ。
少女が温かい食事を食べたとき「影」は血まみれのウサギを生で食べていたこと、少女が柔らか温かいクリスマスプレゼントをもらった時、「影」は冷たく鋭いものを渡されたこと、少女が「ハンサムな王子」と結婚した時、「影」は愛しているかわからない男と結婚したこと、そして、モンスターを生みだしたこと。
最後に、レッドは「影は少女を憎んだ」と語る。
ゲイヴの「何者だ?」の問いかけに、レッドは静かに「アメリカ人」と返すのだった。
レッドはアデレードに手錠を渡し、自身をテーブルとつなぐように指示する。
言われた通り繋ぐと、各家族に相対するドッペルゲンガーがそれぞれ追い始めるのだった。デイヴは「影」に外に連れていかれ、ゾーラは逃げ出し、「影」が追い始め、ジェイソンは「影」と二階に遊びに行く。
取り残されたアデレードとレッド、レッドは目的を聞かれると、「この時間を楽しむこと」と答えるのだった。
足を負傷し、ボートで湖畔の連れ出されるデイヴ、今まさに殺されかけようとした瞬間、ボートのプロペラを利用し、影を撃退する。
他の家族もそれぞれ「影」の撃退に成功していた。
場面は変わり、テイラー家、大豪邸の別荘で、優雅な夜を過ごしていたが、こちらでもテイラー家の「影」が現れ、一家を惨殺する。
「影」から無事に逃げ出したウィルソン一家は、テイラー家に助けを求めに行くも、テイラー家の「影」にアデレードが捕まってしまうが、ゾーラとジェイソンの奮闘によって、アデレードの救出に成功するのだった。
アメリカの現状をテレビにて確認するウィルソン家、アメリカ中で「ドッペルゲンガー」の殺戮が起きていることを知る。
赤い服を着ているドッペルゲンガーたちは皆が手を取り合って、そこに佇むのだった。
「ここに残るか?」「車で逃げるか?」
意見が分かれるが、アデレードの主張によって車で逃げることとなるウィルソン家。
生きていたゾーラの「影」を撃退し、再び「サンタクルーズ遊園地」に戻ることとなる。
遊園地には、ジェイソンの「影」が待ち受けていた。
ジェイソンと「同じ動き」をするその影であったが、ジェイソンの誘導によって撃退することに成功するが、その隙にレッドにジェイソンが拉致されてしまう。
アデレードは一人で必死にジェイソンを探し始める。向かった先は、かつてのトラウマである「ミラーハウス」だった。
ハウスの周辺にも、手を取り合った「ドッペルゲンガー達」がひしめき合う。
その中には、あの「エレミヤ書11章11節」の男のドッペルゲンガーも混じるのだった。
ミラーハウス内部、幼少期は訪れることのなかったハウスの地下通路に進んでいくアデレード。
大量のウサギが放し飼いにされた通路を進んでいくと、部屋の一つの大きな黒板の前にレッドの姿はあった。
アデレードを振り返らないまま、「空の下で育つのはどんな気分だ?」と語りかけるレッド。
そして自分たちの存在の真相を語りだす。
彼女たちもアドレードと同じ人間であること、しかし、その人間たちがここを作ったこと、そして人間は、肉体を複製する方法を発明したこと、二つの肉体は魂が繋がっていて、動きがシンクロすること、そして発明に失敗し、彼らを捨てたこと。
そして、そのドッペルゲンガー達の名は「テザード」であると語る。
何世代も生き続けたテザードは、今回の狂気に走ったのだった。
「ミラーハウス」に入ったあの夜、地下の「テザードたち」もいつも通り地上の人間の操り人形となっていた。
しかしアデレードは、ミラーハウスでレッドと対面した。
アデレードが、地下施設に近づくのにリンクして、レッドも地上に上がっていった。そして二人は出会った。
レッドは語る。「神があの夜、私たちを一つにした」
そして唯一「オリジナル」と接触したレッドを筆頭に「計画」は始まったのだった。
黒板にはかつてのイベント、「HANDS ACROSS AMERICA」のイベントTシャツが張り付けられている。
そしてアデレードは火かき棒、レッドは経ち切狭を持って戦う。
身体能力は圧倒的にレッドのほうが上であったが、とうとうレッドを倒すことに成功するのだった。
レッドは死に際、会ったときに吹いていた、アデレードの口笛を真似し、息絶える。
その部屋のロッカーの中に、ジェイソンは隠れていた。
アデレードが無事であったことを喜ぶも、ジェイソンはどこかおびえた表情を見せるのだった。
無事に地上に戻り車で帰還する最中、アデレードは幼き頃の記憶を全てを思い出す。
実はアデレードは、「失語症」などではなかった。
それは「元々喋れなかった」という真実。
アデレードがレッドと出会ったあの夜、彼女たちは入れ替わった。
対面したアデレードを失神させて彼女が来ていた「スリラー」のTシャツを自分が着たこと、そして地下から這い上がったこと。
「アデレード」は「レッド」で「レッド」は「アデレード」、「テザード」は自分の方だった。
全てを思い出したレッドは、はっとした表情でジェイソンの方を見る。
視線に気が付いたジェイソンはお面を深く被りなおすのだった。
ネタバレ感想と考察
壮大なテーマの裏に隠された、最大の「皮肉」
前作「ゲットアウト」でも描かれたように、本作でもアメリカの格差社会について触れた内容が脚本に組み込まれている。
本作の中心となるのが「ドッペルゲンガー」の存在。
全く同じ人間であるのに、生まれながらにして不平等な扱いを受けている点においては、抽象的に描かれていた。
そんな「ドッペルゲンガーたちの復讐物語」こそが本作のメインの脚本であるが、ここで引き甥に出されたのがアメリカで実際に行われたイベント「HANDS ACROSS AMERICA」である。
・HANDS ACROSS AMERICA
(ハンズ・アクロス・アメリカ)
1986年5月15日、
アメリカのホームレスと飢えの問題に対して
行われたイベントで、
同日の正午、15分間にわたって
約500万人のアメリカ国民が
手を繋いで、人間の鎖を作った。
参加費がかかるチャリティーイベントであったが、
見返りとして限定のTシャツが渡された。
その参加費がチャリティーとして充てられた。
本映画の大きなプロットの一つを担ったこのイベントであるが、どこか狂気じみたイベントに見えてしまった鑑賞者も多いだろう。
それもそのはず。
本作での狂気の核となる「ドッペルゲンガー(テザード)」が、起こした声明の装飾となったのがこのイベントだったからだ。
ラストで明かされる、アデレードの入れ替わりの真実。
元のアデレードが地下に引き込まれる前に最後にテレビで見ていたのが、このハンズアクロスアメリカのイベントCMだったのだ。
物語の最初のシーン、確実に何かの伏線が張られることを示唆するようにこのCMは流れている。
(ちなみに舞台の中心となる『サンタクルーズ遊園地』のCMも一緒に流れる。)
それから長い間地下に監禁される本物のアデレード(レッド)、「無知なままこの記憶を媒体とした行動に出た」というよりは、「チャリティーイベントであることをわかった上で」これを皮肉るように声明に使ったと考えるのが妥当だろう。
「格差社会を無くすこと」を目的としたイベントであったことも考えると、本イベントに対して、なかなかに攻撃的である映画にも受け取れる。
ピール監督の真骨頂!細かな伏線たちに魅せられる。
映画監督二作目にして既に期待してしまっている人も多いであろう、ピール監督独特の伏線回収。
前作「ゲットアウト」でも、数えきれれないほどの伏線の数々に翻弄される作品だった。
「ゲットアウト」を鑑賞してから、本作の鑑賞に及んだ人たちは、シーンの演出の一つ一つから、伏線を意識していたのではないだろうか?
期待を裏切らない、本作の伏線を解説していこう。
・映画冒頭、
「使われなくなったアメリカの地下廃線」について
言給されるが、
ここにテザード達は住んでいた。
・同じく映画冒頭、
子供のころのアデレード(レッド)の前で、
ハンズアクロスアメリカと
サンタクルーズ遊園地のCMが流れる。
(テレビがブラックアウトしたシーンで
後ろに少女のアデレードが映っている。)
・旅行に向かう道中、
アデレードは社内音楽に合わせてビートを刻むが、
明らかに原曲とズレたリズムである。
・ビーチで立ち尽くす男は
最初に乗っ取りを成功させたテザード。
エレミヤ書を持っていた男の
ドッペルゲンガーである。
殺した後なので右手は血塗られている。
・時折見る、アデレードの異常な警戒心は、
ドッペルゲンガーを危惧した動きだった。
(アデレードの深層心理では、
『仕返しされるとわかっていた』とも受け取れる。)
・レッドはアデレードと嗜好が繋がっているが故に、
アデレードだけが知る、
いろいろな情報がわかっていた。
(スペアキーの位置など)
・幼少期のアデレードが失踪(入れ替わり)していた時間は
15分間と言及されるが、
「ハンズアクロスアメリカ」も
15分間、手を繋ぐイベントだった。
・物語が進むにつれて、
アデレードの衣服は赤く染まっていく。
これはアデレードこそが
「テザードであること」の暗喩である。
(テザードの着るつなぎは真っ赤)
・ビーチでアデレードに向かってきたフリスビー、
これは「乗っ取り」について暗に示されている。
(フリスビーの着地点が模様とぴったりだった。)
・レッドの声がかすれているのは、
入れ替わるとき、
喉を締め付けられたから。
・鏡、ハサミ、11章11節、
全て「左右対称」となる。
これは自分の
「ドッペルゲンガー」を暗喩したもの。
ちなみにであるが、「ウサギ」の件に関しては、どんな伏線があるのか、いまだ解明されていない。
個人的には「たくさん繁殖する生物」としてリンクしたアンチテーゼとなっている演出だと考える。
更に強いて言うならばピール監督はウサギが嫌いらしい。
その他も、たくさんの伏線が張られているので、皆さんも探してほしい。
エレミヤ書11章11節の謎
本作を鑑賞して、一番の伏線であるような描写となったのが、この「エレミヤ書11章11節」だろう。
エレミヤ書とはキリスト教旧約聖書の三大預言書の一つである。
ちなみにであるが11章11節にはこう書かれている。
それゆえ、主はこう仰せられる。
「見よ。わたしは彼らにわざわいを下す。
彼らはそれからのがれることはできない。
彼らはわたしに叫ぶだろうが、
わたしは彼らに聞かない。」
この演出に関して言えば、特に暗に意識させるような伏線でもない。
言葉通り捉え、言葉通り実行している浅い伏線となっていたように感じる。
本作を「アクションスリラー作品」として紐解く。
本作の監督でもある、「ジョーダン・ピール」監督。
過去に数々の賞を受賞した名画、「ゲットアウト」が記憶に新しい中の本作のなったが、キャスティングされた役者が「黒人」であることを踏まえても、「ピール監督らしい作品」となっただろう。
前作でもスリラー作品として、黒人男性の脱出劇が描かれる作風となったが、本作は、そんな前作を凌駕するほどに「アクション色」の強い作品となっている。
主人公が「女性」でありながらもずば抜けた身体能力を持ち、最後の地下での格闘シーンでは、アクション映画さながらの格闘を見せてくれる。
そんな激しいアクション要素に加え、密度の濃い脚本が書かれる。
深いテーマの脚本に負けないようなアクションシーンが描かれていることでも、本作を評価することに値するだろう。