「犬王」ネタバレ感想と考察【現代音楽ライブを室町時代に持ち込んだらどうなる?】

  • 2023年5月30日
  • 映画
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本記事は、映画「犬王」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。

鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。

「犬王」

2022年、湯浅政明監督によって制作されたアニメーション映画。

室町の「猿楽」が栄えた時代、一人の琵琶法師とパフォーマンサーの男の物語。

上映時間は97分。

あらすじ

舞台は室町時代の日本。

ここに一人の漁師の子供、友魚が居た。

彼は後に一人の琵琶法師となる。

一方で京の猿楽の一座、比叡座に生まれた子供が居たが、彼はその異形から周囲に忌み嫌われ、顔を瓢箪の面で隠していた。

そして2人は、これまでの室町の「音楽」を覆す斬新なパフォーマンスを始める…。

出演役者

本作の主人公、犬王の声優を演じるのがバンド「女王蜂」「アヴちゃん」

 

もう一人の主人公、友一の声優を演じるのが「森山未來」

配信コンテンツ

「犬王」は今現在、Amazonプライム、等で配信されている。

Amazonプライム




ネタバレ感想と考察

湯浅監督の世界観溢れるアニメーション映画!!

本作の鑑賞を初めて5分程度、これを感じた人も多かっただろう。

「森見登美彦アニメに似ている…。」

筆者も同じ感想を抱き調べてみると、本作を作った監督は何を隠そう「湯浅政明」監督だった。

2010年には森見登美彦原作のアニメ「四畳半神話大系」、そして2017年には映画の「夜は短し歩けよ乙女」が公開されている。

リアルを生きている人間たちの物語ではあるが、そのパラパラ漫画のような独創的なパラレルワールドの表現方法は彼の必殺技と言ってもいいだろう。

湯浅監督の作風はなんと言っても「音楽」そして「ミュージカル」との相性がとてもいい。

今回紹介する「犬王」でも、物語の中心となるのは「猿楽」…所謂(いわゆる)「室町時代のミュージカル」となった。

そんな湯浅監督が描く「現代音楽を室町時代に持ち込んだらどうなるか?」という、化学変化が本作の見どころとなる。

ネタバレなしの映画紹介「夜は短し歩けよ乙女」

「犬王」は実在していた!?

当時は「猿楽」と呼ばれ嗜まれた音楽や「舞」であるが、実はそんな猿楽能の名手として犬王は実在していた。

これは映画最後の一文からもわかることで、むしろ、この一文で「実在した人だったの!?」と知った人の方が多かったと思う。

室町時代の人気だった能楽師として「世阿弥」という人物が存在する。

この時代の能楽師として観阿弥という一番有名で名を轟かせた能楽師が居たが、彼の息子として同じく活躍したのが世阿弥となる。

しかしその一方、人気を二分するほどに有名となった能楽師がこの「犬王」である。

彼は「モノマネ」を主体とする世阿弥の「大和猿楽」に対して、「近江猿楽」という斬新な猿楽を披露し、世阿弥のライバルとしての立ち位置となった。

それではなぜ、世阿弥ばかりが後世に語り継がれ、「犬王」を誰も知らなかったのか?

当時の世阿弥は「能楽師」でありながらも、「振り付け」「作曲」から「演出」に至るまで自ら行うこともあったが、それに対して犬王は「能楽師」として舞を舞うことに特化していた。

それ故に後世には文章として名前が残っていなかったことが要因であると考えられている。

映画の中の「琵琶法師のセット」という設定もこのバックグラウンドありきのものなのだろう…。




「現代音楽」が展開される演出がすごい!!

作品の内容としてはストーリーもさることながら、その「ミュージカル映画」としての一面がかなり大きな比率を締めている。

琵琶法師である友一の演奏、そして犬王の舞がセットとなった二部構成の演目は、「現代にも通用するエンタメである」とも言っていい。

そしてこのミュージカルシーン、ギター、ベースドラムありの現代ロックとして演奏されるのが非常にセンセーショナルな要素だ。

当時では「ありえないモノ」も、上手くマッチさせ、観客となる群衆も全員が着物と草鞋で踊っているが、違和感が全く感じられない。

まさに「エンタメとはなにか」を象徴するような作風、そして「もし室町時代に『ライブ』があったら…」という面白い化学反応を映像にしてくれるような作品だった。

声優のクオリティが高すぎる…。

本作のもうひとつの見どころは、なんと言ってもその声優陣、森山未來とバンド「女王蜂」のアヴちゃんである。

ジェンダーレスな彼女(彼?)の歌声は数々のボーカルの中でも非常に特徴的で、ずば抜けているものがある。

歌声はもちろんのこと、声優としてのセリフまでも、他の声優顔負けのクオリティで仕上げてくるのがすごい。

なんと彼女は自分の出す声に「番号」を付け、普段からの喉の管理も徹底しているという…。

その歌唱力を劇場で聴き、初めて女王蜂の存在を知り、衝撃を受けた人も多かったことだろう…。

そして森山未來、彼も「歌う」

元々ミュージカル役者やダンサーとしての一面も持ち合わせており、過去にはナレーションやCDも出している。

筆者としては、俳優としてのイメージが100%だったので、これには少し驚いた人も居ただろう。

映像と演出は「湯浅監督」そしてクオリティの高い、声優や歌声がマッチする「時代劇ミュージカル映画」という新しいジャンル。

次鑑賞する時は、是非ともヘッドフォンで「聴き」たい。