本記事は、ドラマ「イカゲーム」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。
イカゲーム
2021年、ファン・ドンヒョク脚本、監督の元作られた韓国のネットドラマ。
今現在はNetflixで配信され、約90カ国で1位を記録する旋風を巻き起こしている作品である。
全9話のドラマ作品である。
あらすじ
舞台は韓国、中年男のソン・ギフンは仕事を無くしてからギャンブル漬けの人生を送っていた。
妻には見放され、老婆となった母親と共に二人で貧乏な生活を送っていた。
そんなある日、借金に追われたギフンの前に、「大金を賭けたゲーム」の話が舞い込んでくる…。
意気揚々と参加するギフンであったが、そこでは想像を超える「ゲーム」が待っていた…。
出演役者
本ドラマの主人公ソン・ギフンを演じるのが「イ・ジョンジェ」
48歳の韓国の俳優で、これまでには映画作品などへのキャスティングが多かった。
ドラマへの出演は本作が初のようだ…。
同じゲームに参加した、ギフンの幼馴染であるチョ・サンウを演じるのが「パク・ヘス」
あまり有名な俳優ではないようだ。
本作では最後まで物語に絡む重要なキャラクターとなっていた。
ギフン、サンウと同じくゲームに参加した女の子、カン・セビョクを演じたのが「チョン・ホヨン」
こちらもあまり有名な女優ではない。
本ドラマの紅一点として、重要なキャラクターとなっていた。
ネタバレ感想と考察
人気となった秘訣は…「ゲーム」の内容の斬新さ!!
今や世界を巻き込むブームとなった韓国ドラマ「イカゲーム」
借金に追われたギフンが456人の参加者に混じり、「ゲーム」を行う脚本となっていた。
ゲーム毎に脱落者は増し、最後まで生き残っていた者が1億ウォン(約940万円)×脱落者の人数を得るゲームで、これを最後の一人になるまで続ける計算だと約43億にも及ぶ大金である…。
秀逸な脚本もさることながら、その人気の一番の秘訣は「子供の遊び」に投影されたゲームの内容だっただろう。
第1ゲーム「だるまさんが転んだ」
日本でもある「だるまさんが転んだ」と同じルール。 動いてしまった者はその場で射殺される。 鬼(人形)自体にタッチするのではなく、線を超えるとゲームクリアであることが、通常と違う部分。 また、機械の人形の判定ゆえに「前の人を盾にして進む」裏技が通ってしまい、こうして進んでいた人も多かった。 余談ではあるが、「だるまさんが転んだ」が韓国にもあることに驚いた節がある。
第2ゲーム「型抜き」
カルメ焼きのような一枚の板菓子を、切り込みに沿って綺麗にその形にくり抜くゲーム。 針一本が道具として渡され、欠けたり割れたりするとその時点で射殺される。 ゲーム前に参加者は形を選ばされ、選んだ形によって難易度に雲泥の差があった。
第3ゲーム「綱引き」
10人1チームの対抗戦。 チーム同士の戦いで、負けた10人は落下死する。 チーム決めは事前に好きなグループに分かれるように指示される。
第4ゲーム「ビー玉遊び」
2人1組のペアになりビー玉を使って対戦するゲーム。 1人10個のビー玉が与えられ、制限時間内に20個のビー玉を獲得すれば勝ちであり、負けた方が射殺される。 相手のビー玉を奪うのには「暴力以外ならなんでもあり」というルールがあり、運否天賦の勝負や騙し合いなどもOKである。
第5ゲーム「飛び石ゲーム」
高所の透明なガラス板の上を渡るゲーム。 二枚のガラスどちらか1枚が「脆いガラス」であり、踏んだ瞬間に割れて落下死する。 渡る順番は事前に早い者勝ちで選ばされる。
第6ゲーム「イカゲーム」
イカの形をしたフィールドを使って、攻撃側・守備側が競い合うゲームで、攻撃側はハンデとして途中までケンケンで進む必要がある。 守備を掻い潜り、エリアに入れば攻撃側の勝ち。 決められたエリア外に出されれば守備側の勝ち。 子供の遊びの中では最もハードな遊びとされ、禁じ手なしでの攻防が許されている。
これらのどれもが「子供の頃に経験する遊び」であることが何よりも斬新な要素であったが、裏を返せば「デスゲーム」の作品としては、従来日本で描かれる緻密な伏線が張られた作品よりは劣ってしまうのは事実だろう。
しかし、本作の監督であるファン・ドンヒョクは、これを「あえてわかりやすく作った」としてコメントを残しているのも有名な話である。
複雑すぎず、グロすぎず、適度な焦燥感を抱きながら鑑賞できる、「マーケティング」すらも意識した作りとなっていた。
また、ゲームの雰囲気やデザインはとてもコミカルに造られていたが、敗者は負けた瞬間に射殺されるというギャップが衝撃的な要素でもあった。
一見、どこにでもありそうな「バトルロワイヤル形式」の殺人ゲームであるが、その中でも韓国ドラマらしいB級感を見事に落とし込んだ作品として今も尚、人気を博している。
今ではNetflixで全話視聴できるが、やはり韓国ドラマ、全話セットのDVD&Blu-rayも大変な安価で販売されているのがまた驚きだ。
誰もが思う…!?「カイジ× 神様の言う通り」
さてさて、日本人なら誰もがまずは思うこと、それは「カイジのパクリでは…?」ということだろう。
ここで、福本伸行氏による日本のマンガ作品である「カイジ」での類似ゲームを振り返ってみよう。
「限定ジャンケン」
参加者にそれぞれ4枚づつ「グーチョキパー」のカードと3つの星が配られる。 カードをお互いに出し合いジャンケンをして、勝った方が相手の星を1つ奪える。 星1つに100万円の価値があり、全てのカードを使い切った時点で3つ以上のカードがあれば勝ちである。 負けた者は地下労働施設に送られる。
「鉄骨渡り」
建設途中の高層ビルに架けられた鉄骨を渡る。 約20階の高さがあり、落ちたら即死。 また、鉄骨には電流が流れていて、手で触ることもできない。 このゲームの前に「人間競馬」という7.8m程度の高さの橋を渡るゲームもある。 上位2名には数千万円の賞金が与えられる。
どことなく本作の「イカゲーム」のゲーム内容と似ていることに皆さんも気がついただろう。
また、別の漫画作品である「神様の言うとおり」では、イカゲームの第1ゲームである「だるまさんが転んだ」がここでも登場する。
これを偶然の一致と取るか、影響された脚本と取るか…
判断はできかねるが、実は監督自身の口から「カイジ」の名前が出ているのだ。
ファン・ドンヒョク監督がドラマの構想を考えたのは実は10年年以上前である。
当時、経済的に苦しく、ネット難民のように暮らしていたファン監督は、漫画喫茶で「カイジ」など日本作品に触れ、経済的に追い込まれた人たちが参加するゲームを思い付いたと、韓国雑誌のインタビューで発言しているのだ。
個性溢れるキャラクターと予想外の裏切り。
「パクリだ!」と糾弾する者もいる中で、旋風を巻き起こした本作。
もちろん、人気の秘訣はただの真似事だけではないこともわかる。
作品内では、ゲームに負けた者に躊躇無しの無慈悲な死が待ち受けている設定であるが、そんな作風に抗うように老若男女問わず、個性溢れるキャラクターがたくさん登場する。
そして彼らは主人公と一緒に戦い、物語の最後まで絡むキャラクターも多かったが、そんな人物たちすらも躊躇無く、一瞬で死んでいく脚本にこそ、本当の面白さはあるだろう。
問題となったのが第4ゲーム「ビー玉遊び」である。
2人1組を告げられ、仲が良い者同士で組むが、その中身は「対戦相手」であった。
「ゲームを知らされていないこと」が、ここまでに影響を及ぼす殺人ゲームの構想はよく練られていたと感じざるをえない脚本だろう。
同じく、全てのゲームに共通して「知らされないこと」が面白さを引き立てている要因となっている。
特にこの第4ゲーム「ビー玉遊び」、そして第2ゲーム「型抜き」は運否天賦と言わんばかりの難易度の差があった。
「カイジ」では、さすがにここまでは描かれない…。
韓国の社会問題を切り取った作風。
この作品も、前述した「カイジ」も、どちらもが抱えている設定が「貧困」であった。
もちろん日本でも「格差社会」や「貧困問題」は悩みのタネであるが、韓国では日本以上にこの問題は蔓延っている。
本作でも、主人公のギフンを初めとした、数々の貧民層が「ゲーム」に参加することとなる。
少し前にブレイクした「パラサイト 半地下の家族」でも同じく「格差社会」を題材とした物語だったように、韓国の大きなテーマとして掲げられる問題の一つが「格差問題」であることは一目瞭然だ。
しかし一方で、世界的にはヒットしていたが、韓国内では、あまりいい評価をしない人も多いようだ。
韓国ドラマの字幕も手掛ける翻訳家の金光英実氏は「韓国といえば、格差、借金、競争というイメージだと、世界市場を意識した演出が海外でウケたのだろう。ただ、韓国では、ちまたにありふれた普通の話として、逆にピンとこない人も多い気がする」ともコメントし、実際の韓国の貧民層の人々からは「このドラマを楽しめるのは、生活に余裕がある人ではないか?毎日12時間以上働き続けても、娘と住む持ち家を買えない自分のような人間が否定されているようで、悲しかった」などのコメントもあるのだ。
また、この作品では「貧困問題」だけではなく、「男女差別」「脱北者」や「外国人労働者」「裏社会」など、実に様々な問題も浮き彫りにさせたキャラクターも登場する。
この「サイコパス感」の正体とは…!?
血しぶきほとばしり、戦慄の悲鳴が飛び回るサイコな本作であるが、以外にもその「明るさ」に不気味な恐怖感を覚える。
ゲームの内容の全てが「子供の頃の遊び」であることも理由の一つではあるが、何より、その世界観のデザインの影響も大きいものだった。
ゲーム毎にそのゲームにあった環境が与えられ、「型抜き」では「公園」、そして「ビー玉遊び」では「夕方の街並み」などのデスゲームには合わない環境設定がされている。
そんな明るさも相まって、グロテスクな表現と作品の雰囲気がバランスよく調和された作品となっていた。
極めつけは物語の2話、第2ゲーム「だるまさんが転んだ」にて、中央にそびえ立つ女の子の人形である。
作品のマスコットにもなりうる彼女の存在とインパクトは壮絶なものだっただろう…。