本記事は、ドラマ「クイーンズ・ギャンビット」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。
クイーンズ・ギャンビット
2020年、スコット・フランク監督によって制作された洋画ドラマ。
チェスの天才少女の半生を描いた物語。
全7話のストーリー。
あらすじ
9歳の少女エリザベスは、幼い頃に片親となり、頼みの綱であった母親も交通事故によって亡くしてしまう。
その後「メスーエン養護施設」に預けられた彼女は地下室で用務員であるシャイベルに出会い、チェスを覚える。
そこから彼女の波乱万丈の人生が始まる…。
出演役者
本ドラマの主人公エリザベスを演じるのが「アニャ・テイラー=ジョイ」
現代にて、アメリカの第一線で活躍する女優で、映画、ドラマ両面で華々しい活躍を見せている。
本ドラマでも容姿端麗な彼女を中心に展開されるシーンが殆どである。
エリザベスにチェスを指南するシャイベルを演じるのが「ビル・キャンプ」
アメリカの老人の俳優であり、名脇役としても知られる。
作品では序盤での登場に留まらず、最後まで物語に絡んでくるキャラクターとなっていた。
エリザベスの親友であるジョリーンを演じるのが「モージス・イングラム」
アフリカ系アメリカ人の女優であり、あまり有名ではないようだ。
エリザベスの最初の友達であり、重要なキャラクターを演じていた。
エリザベスの永遠のライバルとなるチェスの世界チャンピオン、ボルゴフを演じるのが「マルチン・ドロチンスキ」
こちらもあまり有名ではないロシアの俳優。
大人になったエリザベスの前にいつでも立ちはだかる重要なキャラクターを演じていた。
ネタバレ感想と考察
「チェス」「時代」「華々しい少女」の融合作品!!
アメリカのドラマとして描かれた本作であるが、「デスゲーム系」「サバイバル系」など、過激な作品が多く見られる昨今だ。
そんな作品の中、公開に踏み切った本作は、なんともオシャレな「チェス」を題材にした物語である。
そこに加えて主演女優を務める「アニャ・テイラー=ジョイ」の美しさにこそ、本作の一番の見どころがある。
物語の中心にはいつでも彼女の姿が映り、彼女の主観以外の物語は一切描かれない演出には、彼女の女優としての才覚を感じざるを得ない。
そんな彼女の半生を綴った本作品であるが、ティーンエイジャーとしての彼女の葛藤から大人になり、世界チャンピオンに至るまで、華やかさと残酷な描写のギャップに魅了された鑑賞者も多いことだろう…。
また、Netflixにて人気に火がついた本作ではあるが、ランキング1位もしっかりと獲得している。
(日本のNetflixのランキングでは韓流ドラマやアニメがランキングを独占しているので目に留まらない人も居ただろうが…)
アメリカでは絶大な人気を博し、そんな人気の一番の仕掛けとなっていたのが「時代背景の設定」であると考えている。
時代の設定は1960年代、アニャ・テイラー=ジョイの華々しい容姿と、そのお洒落なファッション、更には「チェス」という紳士なゲームを題材に引っさげ、躍動のドラマが展開されていくことは、もはや「売れない理由」を探すことの方が難しい。
「チェス」のドラマという観点から観てみる。
女優アニャ・テイラー=ジョイの素晴らしさばかりが目立つ作品であるが、本作は「チェスドラマ」である。
屈強なチェスプレイヤーがわんさか登場するが、その試合内容もなかなかのクオリティとなっていて、出てくる「定石」や「戦法」はもちろん本当に存在し、書物として登場する著名人チェスプレイヤーも実在した人物として存在している。
また、本作の各物語のタイトルであるが、第1話が「オープニング」そして第4話「ミドルゲーム」、最終話が「エンドゲーム」となっている。
これはチェスの1ゲームの「序盤、中盤、終盤」の呼称でもあり、それがそのままタイトルに反映されている。
もちろん本作のタイトルとなっている「クイーンズ・ギャンビット」もその戦法の一つであり、これはチェスのオープニングに用いられる「ギャンビット」と呼ばれる戦法の一つで、作中、エリザベスやその相手は幾度となく「クイーンズ・ギャンビット」を使用していることがわかる。
また、本作の終盤では、主に世界チャンピオンのボルゴフとの対決がメインとなるが、この対局の描かれ方として「アメリカVSロシア」の縮図としても捉えることができる。
1960年代は「冷戦」と呼ばれ、実際の戦争が起こることがなく、膠着状態が続いていた。
その最中のこのチェスの世界大会、各プレイヤーは「国を背負って戦った」と言っても過言ではなく、事実上のチェスの歴史でも同じ盛り上がりを見せたようだ。
(本作の登場人物に関しては完全にフィクションである…。)
この「チェスの戦争」を描いた物語として「完全なるチェックメイト」という映画作品が存在している。
こちらでは「ボビー・フィッシャー」という実際に存在したアメリカのチェスプレイヤーの伝記映画として公開されているのでこちらも是非ともチェックしてみてほしい。
本作よりも政治的に描かれ、「チェスの歴史」を体感できる作品に仕上がっている。
思っていたより過激!?「セックス」や「酒」「精神安定剤」依存性…。
「チェスドラマ」という紳士なゲームを題材に抱える一方で、ティーンエイジャーとしての特有の悩みを抱えるエリザベスの葛藤もなかなかスリリングに映る作品だった。
幼少の頃より、孤児院で「精神安定剤」を投与されてきた彼女たちであるが、それによってエリザベスは「依存性」となってしまう。
(最も、これがチェスの才能の開花のきっかけでもあるが…。)
大人になってからもこの依存からは脱することができない彼女は、母親の死をきっかけに、再びこの錠剤に頼り始めることとなる。
夜寝る時、薬を摂取し天井を見上げる彼女には、天井に大きなチェス盤とめぐるめぐ駒たちが蠢いているシーンは印象的だっただろう。
また、彼女は重度の「アルコール依存症」としての一面も持っていた。
育ての母親が「肝炎」に犯され死亡したこともあり、これにはどんどんと拍車がかかることとなる。
2回目のボルゴフとの対戦では、「二日酔い」によって試合に遅刻し、それが原因となり大敗を期すこととなる。
このシーンは「クイーンズ・ギャンビット」の一話での最初のシーンとしても描かれている。
不安を煽りながらも、期待を裏切らないハッピーエンド!!
このドラマが大衆的に認められた名作となった理由がもう一つある。
それは本作が「ハッピーエンド」であったことだろう。
物語の最後は大団円を迎え、敵対していたボルゴフからも認められ握手を交わすが、そんな「王道」の展開には誰もが気持ち良く鑑賞できる脚本となっていた。
また、物語の要所要所で、不安を煽らせながらもいい意味で期待を裏切る演出が多数組み込まれている。
例えば、エリザベスの育ての母となったアルマの存在。
エリザベスが「チェスの天才」と知り、「エリザベスを出汁にお金を稼ぐ母」のようなイメージを植え付けるが、そこには「本物の愛」が隠されていた。
そして、墜落の一途を辿るエリザベスであっても「チェスのスランプ」には陥ることなく、常勝し続けていた要素などは、本作に疾走感ある歯切れのいい脚本をイメージさせてくれたのだ。
本作はフィクションであるが、ウォルター・テヴィス氏による同名小説が原作となっている。
本作とは少し違った内容となり、こちらも小説独特の空気感とエリザベスの振る舞いがマッチした作品となっているので、是非とも読んでみてほしい。