本記事は、映画「ヘレディタリー 継承」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。
ヘレディタリー 継承
2018年、アリ・アスター監督によって制作された作品。
「21世紀最高のホラー映画」と呼び声高く評価された作品。
上映時間は127分。
あらすじ
舞台はアメリカ、ミニチュア模型アーティストであるアニーは、夢遊病を患いながらも、夫のスティーブ、息子のピーター、そして娘のチャーリーと仲睦まじく生活していた。
そんなある日、息子のピーターが友人のパーティに参加する際、娘のチャーリーを一緒にパーティに連れていくようにお願いする。
ピーターはチャーリーを連れてパーティに赴くが、そこでは悲惨な結果が待っていた…。
出演役者
本作の主人公、アニーを演じるのが「トニ・コレット」
オーストラリアを代表する女優であり、あの「シックス・センス」を初めとする、数々のホラー、サスペンス作品へ出演する。
夫のスティーブを演じるのが「ガブリエル・バーン」
アイルランド出身の俳優であり、これまでにも数々の映画作品に出演するベテラン俳優である。
娘のチャーリーを演じるのが「アメリア・”ミリー”・シャピロ」
アメリカの女優であり歌手でもある。
映画内では小さな女の子を演じていたが、2021年現在、なんと19歳の女優である。
その不気味な表情が話題となったが、実はとても可愛らしい女の子。
ブロードウェイ劇にも出演している。
息子のピーターを演じるのが「アレックス・ウルフ」
アメリカの若手俳優であり、今後の映画界を背負っていく俳優だろう。
「ジュマンジ」シリーズや、現代映画作品、海外ドラマなどに出演している。
また、ミュージシャンとしても活動をしているようだ。
ネタバレあらすじ
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- 舞台はアメリカ、ミニチュア模型アーティストであるアニーは、夢遊病を患いながらも、夫のスティーブ、息子のピーター、そして娘のチャーリーと仲睦まじく生活していた。アニーは実の母であるエレンを78歳で亡くし、蟠り(わだかまり)の残る関係であったことから、モヤモヤとする日々を過ごしていた。
母の遺品整理の時でさえも、自分に宛てられた贖罪の手紙を受けいれることができないアニーは、母の死に悲しみを感じることさえ無かった。
娘のチャーリー、そして息子のピーター共に学校に通っていたが、2人もまた、モヤモヤとした日々を過ごす。
チャーリーの身の回りでは鳥が窓に激突死する不可解な現象が起き、そしてその首を切り取る奇行が目立つチャーリー、一方のピーターは、家族に隠れてマリファナを服用する生活を送っていた。
そんなある日、父のスティーブの元に一本の電話が鳴る。
その内容は「埋葬されたエレンの墓が荒らされた」という内容だった。
エレンとの蟠りが残り、ストレスを抱えるアニーにはこのことを内緒にするスティーブだった。
アニーはエレンを無くしたことをきっかけに「遺族の会」のセミナーに参加するが、そこでもなかなかエレンの死を悲しむことができない。
メンバーにアニーの境遇について質問されると、アニーはその重い口を開く。
死んだアニーの母、エレンは解離性同一性障害であり、最期は認知症の症状も出ていた。
そして父は妄想性の鬱病を患い、何も食べなかったことから、アニーが小さい頃に「餓死」していた。
さらに兄であるチャールズは統合失調症であり、16歳の時に首吊り自殺をしていることも語るアニーだった。
アニー自身も夢遊病を患っていることから、彼女の一家全員が何かしらの精神病であることが判明する。
そんな会に参加しながらも、平穏な時を過ごすグラハム一家であったが、やはりチャーリーの奇行は目立つ。
ある日、チャーリーは裸足で、一人でいきなり家の外の森へ歩き出し、アニーに心配をかける行動をしてしまう。
見かねたアニーは、息子のピーターが友人のパーティに参加する際、娘のチャーリーを一緒にパーティに連れていくようにお願いするのだった。
嫌々ピーターはチャーリーを連れてパーティに赴くが、友達との関係を重視しているピーターは、パーティ会場でも、チャーリーを放置してしまう。
甘いものが好きなチャーリーをけしかけ、ケーキを食べて待つように指示するが、「ナッツアレルギー」を患うチャーリーは、ナッツがふんだんに織り込まれたケーキを大量に食べてしまう。
アレルギーの発作を起こすチャーリーはすぐにピーターに助けを求める。
ピーターは大至急、チャーリーを病院に連れて行くために車を飛ばすが、苦しさに悶えたチャーリーが窓から顔を出したその時、動物の死骸を避けようとピーターが急ハンドルを切ると、チャーリーの頭は電柱に激突してしまう。
チャーリーは一瞬で死亡し、首の無いチャーリーの体だけが車内に残るのだった…。
チャーリーの死を知り、グラハム家には更なるストレスがのしかかる。
中でもアニーは、自殺をしようと考えるほどに精神的に参ってしまう。
ピーターもチャーリーの罪を背負い込み、学校でも憂鬱な毎日を送る。
仲間とマリファナを楽しもうとするが、突然息ができなくなる謎の症状に苦しむピーター、それはまるでチャーリーの「アレルギーの症状」のようだった…。
母親エレン、そして娘のチャーリーも亡くしてしまったアニーは、「遺族セミナー」に向かうが、車から降りることができず、そのまま立ち去ろうとする。
そこに現れたのは、同じく遺族セミナーのメンバーであるジョーンだった。
ジョーン自身も大切な人を亡くし、アニーに優しく語りかけ、連絡先が書かれたメモを渡す。
そしてアニーはジョーンに助けを求め、連絡する。
ジョーンの家で心情の全てを打ち明け、意気投合するアニーとジョーン。
ジョーンはアニーの手を優しく握るのだった。
アニーは自分の精神的支柱を保つために、トラウマの過去をそのまま「ミニチュア」にする作業をしていた。
それは首がもげたチャーリーの姿や、そのもげた首でさえも、ミニチュアとして形にしていく。
ただでさえ仲の良くなかったアニーと息子ピーターの関係は、チャーリーの事件をきっかけにさらに悪化していた。
そしてとうとう、食事中に口論となる。
アニーはピーターをこれまでにないほどに糾弾する。
そしてピーターも反論する最悪の食卓となってしまう…。
それからも空虚の日々を送るアニーは、久しぶりにジョーンと再開する。
孫を亡くしたジョーンであったが、そこには満面の笑みを浮かべ、充実した毎日を送るジョーンの姿があった。
再会を喜び、ジョーンと抱擁を交わしたアニーであったが、ジョーンから信じられない話を持ちかけられる。
それはとある霊能者と出会い、「死んだはずの孫がと暮らしている」という信じられない話だった。
もちろんアニーはこれを胡散臭く感じてしまうが、ジョーンの熱量に負け、彼女の家に再び赴くアニー。
孫を呼び寄せるための「降霊術」を行うジョーンであったが、なんとそこで本物の超常現象をアニーは目の当たりにする。
ジョーンの呼びかけ通りに孫は呼応し、グラスを動かしたり、黒板に文字を書いたりをしてみせる。
恐怖を感じ、逃げ出そうとするアニーであったが、去り際に「降霊の方法」を記した紙をアニーに手渡す。
そして「娘さんは死んでいない」とアニーに語りかけるのだった。
その夜、夜中に目が覚めたアニーは、寝室のベッドからアリの大群が直線を進む光景を目の当たりにする。
アリの大群を追うと、そこではなんとピーターの顔がアリに食われている。
そして、ピーターと口論し、ガソリンをかけて火をつける夢遊病の症状が出る。
そして目を覚ます。これらの出来事が夢であったと知るアニーだった。
パニックになったアニーは「降霊術」を試すために、スティーブとピーターを起こし、部屋に集める。
例の如くグラスに手を置き、疑心暗鬼の表情を浮かべるスティーブとピーターを一蹴し、儀式に取りかかる。
そしてチャーリーは舞い降りる。
グラスを動かし、蝋燭を燃やす超常現象を見せる。
そして、アニーにのり移ろうとする…。
我に返ったアニーは記憶が無く、目の前ではスティーブとピーターが項垂れるのだった。
その日から、アニーの様子がおかしくなり始めることとなる。
自身のミニチュア作品を木っ端微塵に叩き壊したり、夜中にピーターの髪を引っ張る夢遊病の症状を発病したりと、アニーの精神はどんどんと蝕まれていく。
そしてチャーリーの落書き帳に、チャーリーの筆跡でピーターの似顔絵がどんどんと書かれていくのを発見するアニー。
アニーはチャーリーの落書き帳を燃やそうと暖炉に投げ込むが、なんと自分の腕に火がついてしまい燃やすことを諦めるのだった。
後日、アニーは亡きエレンの遺品の入ったダンボールを詮索する。
中からは「地獄の王 ペイモン」についての書物が見つかるのだった。
「男性の体」を器とするペイモンが、グラハム家に召喚されてしまったことをアニーは理解する。
そして母であるエレンはペイモンを崇拝する組織の長だった。
次にエレンのアルバムをめくるアニーであったが、そこにはエレンと一緒に映り込んでいるのは、紛れもないジョーンの姿だったのだった。
本の情報から、グラハム家の屋根裏に登るアニー。
屋根裏への階段を開けた瞬間、無数の蝿と強烈な異臭が漏れ出す。
屋根裏の奥には、首の無いエレンの遺体と、エレンとアニーが付ける紋章が壁に大きく描かれていた。
一方で、相変わらず憂鬱な日々を過ごすピーターは学校の授業中に、自身の頭を机に叩きつける奇行に走る。
スティーブはピーターを迎えに行き一家3人が家に揃う。
そこでアニーは、屋根裏のエレンの遺体のことをスティーブに伝える。
そしてジョーンが映ったアルバムのことや「降霊術」のこと、紋章の首飾りのことも、全てをスティーブに話す。
チャーリーの本を処分すれば全てが終わると考えたアニーは、スティーブに本を燃やすことをお願いする。
本を燃やすとアニーの体が燃えてしまう。
アニーとスティーブは最後の愛の言葉を交わす。
意を決してスティーブが本を暖炉に投げ入れると、火がついたのは、アニーではなく、スティーブの体だった。
そして夜中、ピーターが目を覚ます。
リビングに降りると、そこではスティーブの焼死体が転がっている。
そして後ろを振り返ると、ペイモンに取り憑かれたアニーが襲ってくる。
一目散に逃げ出したピーターは屋根裏へと逃げ込む。
しかし、アニーは屋根裏部屋の宙に浮き、自身の首に刃物を刺し続けるのだった。
母の無惨な光景と、目の前の全裸の老婆にパニックを起こしたピーターは、窓から飛び降り、庭の花壇へと転落する。
目を覚ますと、チャーリーの部屋であったツリーハウスへと、アニーが入っていくのを見る。
誘われるかのようにツリーハウスへと向かうピーターの周りでは、幾人もの全裸の人々が見守っている。
ハウス内では、生贄として捧げられたグラハム家の家族、そしてジョーンがペイモンを祀る人形に向けて、皆が懺悔の姿勢でひれ伏していた。
エレンの遺体、アニーの遺体、スティーブの焼死体、首の無いチャーリーの遺体。
そして中心のペイモンの人形にはチャーリーの首が突き刺さっている。
壁には「王妃 エレン・リー」と書かれた、エレンの写真が飾ってある。
ピーターはジョーンに語りかけられる。
「あなたはペイモンになった。地獄の8王の一人。健康な男性の肉体を提供する。」
そして皆は叫ぶ。「ペイモン万歳。」
ネタバレ感想と考察
世界で評価された本格ホラーはもはや「サスペンス」としての作品!?
2018年に公開されたこの映画、監督であるアリ・アスターも独自の演出で名作を夜に放ってきた映画監督であった。
そんな彼の描く本格ホラー映画である本作、「ヘレディタリー 継承」はホラー特有の「ビックリ要素」よりも、脚本や演出、そして伏線の張り方に重きを置いた「ミステリー映画」としても鑑賞できるのが面白い。
プロットを俯瞰すれば「悪魔系」のホラー映画であり、「エクソシスト」であったり「シャイニング」なんかを彷彿とさせる、乗り移り系ホラーである。
その中にも主人公であるアニーを中心とした「グラハム家」の家族のそれぞれの思惑が交差する脚本には、ホラー以外の楽しみ方も存在していた。
日本の映画サイト「firmarks(フィルマークス)」では、「3.6」というまずまずの結果、そしてアメリカの「ロッテントマト」では「89%」と、かなりの高評価を叩き出した。
また本作は、毎年アメリカで行われる「サンダンス映画祭」において、「直近50年のホラー映画の中の最高傑作」「21世紀最高のホラー映画」とも評価されている。
また、本映画の次にアスター監督が世に放った「ミッドサマー」も、なかなかに斬新なホラー作品に仕上がっている。
是非とも鑑賞してみてほしい。
「ペイモン」とはいったい何だったのか?
「ホラー映画」とはいえ、その難解な脚本に狐につままれたような感覚を覚えた鑑賞者も多かっただろう。
その内容はとても難しく、「悪魔崇拝」といった宗教観が織り込まれる内容となっていた。
今回の物語の核となっていた悪魔「ペイモン」であるが、これは映画の創作ではなく実際に歴史に残るヨーロッパの言い伝えとして、「実際に存在するキャラクター」である。
・ペイモン パイモンまたはペイモン(Paymon, Paimon)は、ヨーロッパの伝承あるいは悪魔学に登場する悪魔の1体。 悪魔や精霊に関して記述した文献や、魔術に関して記したグリモワールと呼ばれる書物などにその名が見られる。 Wikipedia参照
物語序盤では悪魔「ペイモン」に関してヒントがかなり少なく、唯一のヒントとして挙げられる要素が「首飾りの紋章」となっていた。
物語も中盤に差し掛かり、アニーが母であるエイミーの遺品を閲覧することで、ペイモンの存在が明らかになっていくが、このシーンの本の内容でのペイモンの描写も伏線となっている。
三つの首を抱えるペイモンはリアルでも、エイミー、アニー、チャーリーの首を生贄とした。
グラハム家とペイモンの歩んだ歴史をわかりやすくしてみる。
「ペイモン」という悪魔の存在、実はこれが本作の一番の伏線として機能している。
それは本作の脚本全てであり、物語の脚本を改めて、わかりやすく解説してみる。
グラハム家とペイモンの歩む歴史 ①ペイモンを崇拝するエイミーは息子のチャールズにペイモンを降臨しようとするが、チャールズが「首つり自殺」をして失敗。 ②娘アニーにピーターを生ませるが、半ば無理やりな出産だったために、婿養子のスティーブに「不干渉ルール」を設けられ、近づけず失敗。 ③ここで祖母エイミーは亡くなってしまう。(これは寿命だったのか?生贄だったのか?)(物語の始まり) ④仕方なくチャーリーを「仮の器」としてペイモンを召喚し、時が熟し、機を見てチャーリーからペイモンを解放する。(チャーリーの死) ここまでが「遺族セミナー」のシーンにて、アニーの口から語られる。 ⑤チャーリーの死のストレスと数々の超常現象によって、疲弊したピーターにペイモンを再度召喚する。 ⑥召喚の生贄と儀式を行う。
まさに物語の内容としっかり辻褄が合うペイモンの存在感となっていた。
そして徐々にペイモンの存在を意識させる伏線の数々も見事だった。
ホラーとは一線を凌駕する伏線の数々
この「ペイモン」が息子であるピーターの体に降ろされる結末となっていたが、そこに至るまでに数々の伏線が張られていることが、アスター監督の才覚を発揮させた要素となっていた。
思い返せば、死亡した祖母であるエイミーの存在から代々受け継がれていくペイモンとの関係性であるが、「グラハム家」の歩む一家の歴史からも伏線が浮かび上がってくる。
チャーリーの死亡まで、彼女の中に居たとされるペイモンであるが、それは鑑賞者も気が付くほどにわかりやすい伏線が張られていたことだろう。
・チャーリーの奇行の数々。
・アニーが語り掛ける「生まれた時でさえ泣かなかった。」という言葉は、ペイモンの降臨を匂わせている。
・ペイモンには舌をコッと鳴らすクセがあった。(これは最後のシーンでピーターも鳴らしている。)
本作の中の色々な箇所にペイモンの紋章やマークが出てくる。
(本の中や壁、机、トライアングルのマークなど…)
ジョーンの存在はもちろん、映画後半で全裸で佇む男性はエイミーの葬儀にも出席している。
これはアニーがエイミーの遺品を開けるシーンで判明する。
実は「チャーリー」というネーミングもリアルの言い伝えとリンクしている。
これはメキシコ発祥の降霊術「チャーリーゲーム」に由来し、日本で言う「こっくりさん」のような実在するゲームである。
エイミーは生前、チャーリーを可愛がり、しきりに「男の子になってほしい」と言い続けていた。
これは「ペイモンは健康な男性の体を好む」ことから推測できるエイミーの願望。
アニー自身が「ミニチュア製作」を生業とする人間であったが、彼女の作るグロテスクなミニチュアは、彼女の精神維持のための道具になっていた。
さらに言えば、本作の脚本をミニチュアで表現することで、本作のテーマである「先天的な理不尽」が強調されている。
→グラハム家は「ペイモン」によって避けられない運命を辿る。
→ミニチュアは人間の手によって壊されたり、自分の運命を決められない。
また、「ペイモン関連」以外でもなかなかに恐ろしく、気が付かない伏線のような描写も存在している。
中でも物語終盤、ピーターが目を覚ました時に、部屋の隅に張り付くアニーを皆さんは発見できただろうか??
映画鑑賞時の光度が関係してくる面白い演出となっていた。