本記事は、映画「この子は邪悪」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。
「この子は邪悪」
2022年、片岡翔監督によって制作された作品。
不運な交通事故に会った精神科医の家族の数奇な物語。
上映時間は100分。
あらすじ
舞台は日本、山梨県甲府市。
ここにとある家族が住んでいた。
父親の司朗、長女の花、そして次女の月(るな)。
彼女たちは昔に遭った大規模な交通事故で、妻の繭子が意識不明、司朗が足を麻痺、そして月が顔面火傷により顔にトラウマを負う…という凄惨な経験をしていたが、仲睦まじく暮らしていた。
そんなある日、妻の繭子の意識が戻り、家で家族4人で暮らすこととなる。
最初は幸せな生活を送っていたが、長女の花が母親である繭子に対して違和感を感じるようになってくる…。
出演役者
本作の主人公、花を演じるのが「南沙良」
花の父親、司朗を演じるのが「玉木宏」
配信コンテンツ
「この子は邪悪」は今現在、Amazonプライム、U-NEXT、Hulu、等で配信されている。
ネタバレ感想と考察
いやいや…これホラー映画やろ!!
映画の見出しは確実に「サスペンス映画」…それを確認しての鑑賞となった今作だったが、サスペンス映画でも、刑事による拳銃アクションや銃撃シーンや狡猾な犯人による「謎解きアクション」は存在しない作品となった。
そう、本作は「サスペンス」の皮を被ったジトジト系ホラーだったのだ。
この映画にはそんな「ジャパニーズホラー」としての作品の見せ方がたくさん詰まっていた。
まず映画で衝撃的なのは「毛虫を食べる男」のシーン。
精神異常者であるこの男、常に柵の内側から外を眺め、そして躊躇無く芋虫を食する…。
怖さに加えて「気持ち悪さ」も演出されるジャパニーズホラーの真骨頂が見てとれる。
そしてギョロギョロと動く眼球。
本作がサスペンスホラーとして展開されていくトリガーともなるホラーシーン。
これもジャパニーズホラーの見せ方そのものとなる演出だった。
世のホラー映画を二種類にわけてみると、「幽霊的恐怖(ゴーストホラー)」そして「人間的恐怖(ヒューマンホラー)」の二種類にわけることができる。
そしてこの作品をホラー映画として見た時、後者の「人間的恐怖」が描かれる作品だろう。
日本のジトジト系ホラーは多くの作品が「人間的恐怖」が描かれることとなるが、この作品も例外なくホラーとしての見方もできる。
この映画…「あの名ホラー映画」にそっくり!?
オチから言えば、黒幕は全て父親の「司朗」で、彼は精神科医でありながら「催眠術師」としての一面も持ち合わせていた。
彼が鈴を鳴らし、特定の催眠をかけると「肉体から魂を引き剥がし、別の肉体と入れ替える」という離れ業ができるわけだ…。
「僕たち(私たち)入れ替わってる〜!?」がリアルに展開されてしまう脚本には、少々驚きつつも、筆者はとある一本の洋画がどうしても頭から離れなかった…。
2017年「ゲット・アウト」
ジョーダン・ピール監督の作品だ。
※ここからはゲットアウトのネタバレも含みますのでご注意ください※
「この子は邪悪」でのオチは「人間の魂を催眠術により、ウサギの体と入れ替えている」というものだった。
虚ろな目をした赤い目の精神病患者たちも、芋虫を食らう男性も「中身がウサギだった」と考えると、非常に秀逸な伏線だった。
そして前述した「ゲット・アウト」
こちらでは主人公となるのは黒人、そして「黒人と白人の魂の入れ替え」が行われる脚本となる。
(厳密には入れ替えではないが…)
そしてこの作品では催眠のトリガーとして「鈴の音」が使われるのに対し、「ゲット・アウト」でも「コーヒーカップにスプーンが当たる音」が催眠術として使われている…。
恐らくは「ゲット・アウト」を意識して作られた脚本だった部分もあるだろうと筆者は思う。
最も、ゲット・アウトでは「入れ替え」と言うよりは、黒人の意識を体に宿したまま「白人が体ごと乗っ取る」という荒業となっていたわけだが…。
シビれるオチと残念シーン。
映画というものは「ハズレ」を引くと、それだけで人生を損した気分になってしまうものだが、そんな地雷が多く仕掛けられているのが「ジャパニーズホラー」だと言ってもいい。
繊細なジャンルである分、「面白さ」と「怖さ」の絶妙なバランスが必要になってくる。
今回の「この子は邪悪」では、そんなバランスを兼ね備えつつも現代レトロな世界観、そしてなかなかシビれる伏線がいくつも張られ、邦画としてはよくできている作品だと筆者は感じた。
物語の一番最後、作中でも「懐妊している」と言及され、赤ちゃんは無事に生まれる。
そしてその赤ちゃんは宙に「司朗の催眠療法の指の動き」を描く…。
要するに「司朗は最後に自分の魂と赤ちゃんの魂を入れ替えた」という訳だ…。
これもなかなかに面白い幕引きだった。
そしてここで気がつく。
本作のタイトルは「この子は邪悪」であるが、これは「この赤ちゃんのことを指しているのではないだろうか?」ということに…。
前半で展開させた気持ち悪いホラー要素を、大オチで全て回収し、そして最後の最後でタイトルを回収する。
現代のサスペンスホラーにしては非常な綺麗で丁寧な伏線回収がされた、面白い脚本だとと筆者は感じた。
ただ…司郎が後ろから殴られるシーン、そして老婆を殺すシーンは少し残念なシーンであるようにも思う。
ここだけ雑に描かれ、「ジャパニーズホラーのもったいない部分」を凝縮したようなアクションだったように感じてしまった…。
最も、この手の繊細なサスペンスで一番難しいのが「アクション要素」であるのはわかってはいるつもりだ。
その点を加味しても、脚本として非常に優秀なサスペンス作品だと思った。
伏線を探しながら、二度目を鑑賞してみるのも面白いかもしれない。