本記事は、映画「LAMB/ラム」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。
「LAMB/ラム」
2021年、ヴァルディマル・ヨハンソン監督によって制作された作品。
北欧ホラー作品で配給はA24である。
上映時間は106分。
あらすじ
舞台はアイスランド、農家を営むイングヴァルとマリアは小さい頃に一人娘の「アダ」を失っていた。
悲しみに暮れる中でも、日常生活を送っていたがそんなある日、飼っている羊が、「半身半羊」の生き物を出産する…。
出演役者
本作の主人公の一人、夫のイングヴァルを演じるのが「ヒルミル・スナイル・グドゥナソン」
妻のマリアを演じるのが「ノオミ・ラパス」
配信コンテンツ
「LAMB/ラム」は今現在、Amazonプライム、等で配信されている。
ネタバレ感想と考察
ジャンルはホラー?特殊すぎる脚本と演出。
WikipediaでもFilmarksでも「ホラー映画」との括りであるこの作品だが、そのフタを開けてみれば一風変わった作風となっていた。
それはまるで「ダークコメディ」を匂わすような演出もあり、淡々粛々と物語は進んでいく北欧ホラーらしい作品となっていた。
この「ダークコメディ感」の真相はやはり、「羊の半獣人」であるアダの存在が大きいだろう。
物語の途中、舐めるようなカットで顕にされるこの演出もなかなかに見事だった。
中でも「羊」をモチーフとした半獣人であることが何よりも「ホラー感」を緩和させている。
この奇妙な感覚は2016年の「フィッシュマンの涙」で感じた感覚に近い。
こちらは完全なコメディではあるが…。
一方でこちらは、完全なる「北欧ホラー」としての立ち位置もしっかりしていて、「羊」というプロット(キリスト教における羊は『信者』の意味)、「マリア」そして「アダ」というネーミングなどから「キリスト教」が関係してくる要素からセンシティヴでダークな世界観が伝わってくるだろう。
結局最後の「アレ」は何だったのか…?
物語をラストから手繰ってみると、全てが「因果応報」をベースとした復習物語に見えてしまう。
まるでアダと同じような「黒羊」の頭を持つ半獣人にイングヴァルを殺されてしまうからだ。
この事件の原因となるポイントは大きく二つ。
②母親の羊の報復。
アダを「人間」として育て始めるところから、この「母親羊」はアダに付きまとっていたが、マリアによって銃殺されることになる。
実の娘の「アダ」を亡くし、悲しみに暮れる中で、二人は羊の「アダ」を取り上げる。
まるで自分の本物の子供のようにアダを育てるうちに、「母親羊」を邪魔な存在として認知するようになる…。
人間の200%の真っ黒なエゴを目の当たりにするこのシーンでは、どこか複雑な気持ちにもなってしまう…。
この「黒羊」のベースとなるのも、恐らく「悪魔の象徴=黒」として演出されているものだろう。
彼の存在の謎は解き明かされないが、彼の存在そのものが映画のテーマであると言っても過言ではない作品だった。
実はかなり深い根を張る北欧ホラー映画
ホラー映画なのに「怖くない」この作品、まるでふざけているかのような演出ではあるが、実の所とんでもなく深い内容と伏線が張られた作品でもあるのだ。
・映画の冒頭、母親羊がこの牧場に舞い込んでくる所から物語は始まるが、実はそれ以前にこの「黒羊」と交尾をしている。
・アダが初めて「黒羊」と接触するシーンの直後、アダは鏡を見て自分を触る。
これは「黒羊の容姿」と自分を比べている暗喩となっている。
・物語のラスト、マリアは自分の下半身を一瞬見てから空を仰ぐが、これはイングヴァルとの「人間の子供」を授かったことを意味している。
・キャラクターの全てが「キリスト教」また「ギリシャ神話」の登場人物に充てられ、行動がリンクしている。
見てわかるように、ダークコメディよりも全然色の強い伏線テーマが張られている。
結局は最後まで鑑賞してみると、「なんと北欧ホラーらしい北欧ホラーだろう!」と感心してしまうほどの作品だった。
全てがダークに撮影された空間の魅せ方はいつも感動を与えてくれる。