「百円の恋」ネタバレ感想と考察【32歳干物女がボクサーを目指す】

本記事では、
前半で、映画紹介&見どころレビュー
後半で、ネタバレ解説&徹底考察を行います。

百円の恋

2014年、武正晴監督により公開された日本映画。

2012年の映画祭にてグランプリに選ばれた、

足立紳の脚本を映画化したもの。

32歳、独身、無職の干物女が、

ボクシングを通して成長していく物語。

上映時間は113分。

 

あらすじ

32歳、独身、無職の干物女である「斎藤一子」は、

今日も実家の弁当屋の手伝いもせず、甥とテレビゲームをしていた。

そんな矢先、元々険悪だった妹の「二三子」と、ついに大喧嘩が始まる。

お互いに一歩も引かないままに、母より止められるが、

これをきっかけに人生初の「一人暮らし」を始めることとなる。

家賃や生活費のために、

コンビニのバイトを始めた一子は、店で一人のボクサーと出会う。

 

出演役者

今作の主人公「斎藤一子」を演じるのが、

「安藤サクラ」

 

一子が出会うボクサーの「狩野祐二」を演じる

「新井浩文」

 

一子の妹である「斎藤二三子(ふみこ)」を演じるのが、

「早織」

 

見どころ「泥臭い人間要素が詰まった、遅咲き青春物語」

今作の映画は、主人公がいわゆる「底辺」にいるような存在であり、

そこから這い上がっていく物語である。

 

映画の脚本としてはありきたりなもののように思われたが、

作中の「邦画らしい空気感」「人間味あふれるキャラクター」

噛み砕いていくと、他の映画では感じることができない感情を覚えるだろう。

 

「人生そう上手くはいかない」

そうわかっていても「挑戦する事」の価値がわかってしまう、

今まででは語られることのなかったテーマの作品だろう。

配信コンテンツ

「百円の恋」は今現在、

Amazonプライム、U-NEXT、等で配信されている。

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ネタバレあらすじ

32歳、独身、無職の干物女である「斎藤一子」は、

今日も実家の弁当屋の手伝いもせず、甥とテレビゲームをしていた。

コーラを飲み、煙草を吸い、スナック菓子を食べ、ゲームをする。

だるだるの体を引きずり、今日も一子は親のすねをかじっていた。

 

そんな矢先、離婚により

実家に帰ってきていた妹の「二三子」と、ついに大喧嘩が始まる。

二三子は子供を抱えながらも、家の弁当屋を手伝っていたが、

元々険悪であった上に、

何もせずに家に居る一子に対しての怒りは最高潮だった。

お互いに一歩も引かないままに、母に喧嘩を止められるが、

これをきっかけに一子は人生初の「一人暮らし」を始めることとなる。

 

他人とのコミュニケーションを取っていなかった一子は、

不器用ながらも、自分の力で生きていくことを決意する。

家賃や生活費のために、100円均一コンビニのバイトを始めた一子だったが、

コンビニの従業員たちは、皆が人間的に大きな欠落を抱える職場だった。

 

嫌々ながらも、無心で日々の業務を行う一子だったが、

ある日、店で一人のボクサーと出会う。

出勤経路の途中にあるボクシングジムで

いつも練習している姿を見ているボクサーが、

バナナを買いに来たのだった。

彼の名前は「狩野祐二」

引退が間近に迫った、売れないプロボクサーだった。

 

狩野は無口ながらも、一子をデートに誘う。

これを承諾した一子は、これも人生初に近いであろう、

男性とのデートを経験するのだった。

 

日々の仕事を淡々と過ごす中で、狩野と距離を深めていく一子。

そんな狩野にある日、ボクシングの試合のチケットを渡される。

それは狩野の引退試合だった。

 

当日、職場の先輩である「野間」と共に狩野の試合を見に行くが、

狩野は試合に負けてしまう。

その後、三人で飲みに行くが、

狩野は一子と野間が付き合っていると勘違いしてしまい、

その晩、一子は野間に強姦されてしまう。

 

それから狩野はジムを辞めてしまい、

一子の前から姿を消してしまう。

居てもたってもいられなくなった一子はボクシングジムに向かい、

その足でジムに入門することとなる。

 

勢いで始めたボクシング、徐々に惰性と化していく中で、

ある日、コンビニで嘔吐を繰り返す狩野の姿を発見する。

狩野を家まで連れて帰り、介抱し、

そこで一子が付き合っている疑いはやっと晴れたのだった。

 

そこから、二人の半同棲生活は始まる。

家に帰ると狩野がご飯を作って待っていてくれ、

一子もまたご飯を作る生活を送った。

 

そんなある日、狩野は「仕事を見つけた」と言い放ち、

一子の家を出て行ってしまう。

それから狩野を探す一子の日々が始まるが、

一子が目にしたのは、

豆腐屋を営む女性と一緒に仕事をする狩野の姿だった。




それから、一子は取りつかれたようにボクシングのトレーニングを始める。

仕事中も、プライベートもボクシングのことだけを考え、

ついにはボクサーライセンスを取得するまでに至るのだった。

 

ある日、一子は職場の店長を殴ってしまいクビとなるが、

家族とのわだかまりが前よりは良くなり、

母の骨折の知らせも聞いて、実家の弁当屋を手伝うこととなる。

一子は確実に変わっていた。

 

そうして過ごしていたある日、

たまたま弁当屋の客として、狩野が訪れる。

狩野は豆腐屋の女に捨てられ、工事現場で働いていた。

一子は、目前に迫るボクシングの試合に狩野を誘うが、

いい返事は得られず、そのまま試合に臨むこととなったのだった。

 

試合当日、息巻く一子は、自身の入場BGMとして、

働いていた100円均一コンビニの店内音楽を流す。

入場BGMにツッコむコーチに対して、

「あたし、100円程度の女だから」と呟く一子だった。

 

試合が始まるが、一子は圧倒的に劣勢だった。

顔面がボコボコになっても立ち上がり続ける一子だったが、

一発として相手の顔面にはパンチを入れることができなかった。

終盤まで奮闘するも、

大きなパンチを貰い、倒れてしまう一子、

倒れた一子の目の前には狩野の姿が見えたのだった。

 

狩野や二三子に劇を飛ばされ立ち上がるも、

終わりの鐘が鳴らされてしまう。

結果は一子のKO負けとなった。

 

帰り道、外に出ると狩野が待っていた。

 

狩野は一子にご飯を食べに行くことを提案し、

負けた悔しさで泣きだす一子の手を引いて、歩き出すのだった。

ネタバレ考察

全てが泥臭く、不器用に描かれる作品

今作の冒頭、まずは気象の荒い二人のケンカのシーン

度肝を抜かれるだろう。

リアルに存在するであろう家庭環境の中で、

鑑賞者は「斎藤家」の実情を知り、

「一子」という人間を知ることとなる。

 

家を出た後も、決していいとは言えない人間関係の中で、

一子は成長していくが、

そんな泥臭くも頑張り続ける一子の姿にいつの間にか

感情移入してしまっている自分の姿があった。

 

そんな泥臭さと不器用な人間たちのやり取りこそが、

今作最大の見どころであり、人気の要因であったと言えるだろう。

 

「女性ボクサー」という刺激的な設定

映画のテーマとして「女性ボクサー」が主人公である作品は、

いつでも刺激的な感覚を与えてくれる。

映画に限らず、

「戦う女性」や「血を流す女性」という姿には、

なぜか不思議な魅力が備わっていて、

今作でもその魅力が見事に描かれている。

 

今作を観て感じたものは、

洋画であるが、クリント・イーストウッド監督の

「ミリオンダラー・ベイビー」を思い出すような作風だった。

今作が気に入ったなら、こちらも視聴してみることをオススメする。

映画「ミリオンダラー・ベイビー」のネタバレ徹底考察

 

「安藤サクラ」という女優の底力を知る作品

今作の主演を務める「安藤サクラ」

今作以外でも、泥臭く、女性らしからぬ立ち位置に

立たされることが多い彼女だが、

どの作品を観ても、彼女の演技力は頭一つ抜けているだろう。

 

序盤のニート感から、ボクサーとしての立ち振る舞いまで、

全てが真逆の雰囲気を纏うキャラクターでありながら、

違和感を感じさせることなく見事に演じ切っている。

 

彼女が実力派の女優であることは、

今作を観て誰もが確信する事であり、

彼女の演技力を観る映画と言い切ってもいい作品である。

 

現に彼女は今作の「百円の恋」で、

第39回日本アカデミー賞の「最優秀主演女優賞」、

他にも最優秀脚本賞も受賞している。

 

音楽とタイトルロゴの挿入タイミング。

今作の映画、

最後は圧倒的にボコボコにされて終わる映画であり、

決して、完全なハッピーエンドとは言い難い作品だが、

鑑賞者の皆さんが通常、感じるであろう「わだかまり」

無かったのではないだろうか?

 

その理由は何と言っても、

音楽のメロディ、歌詞、挿入タイミング、

そしてタイトルロゴのタイミングが気持ちいいくらいにキマったからだろう。

 

この演出によって出来上がった、

哀愁の中にも感じる「終わりよければこれで良し感」こそが、

この映画の最後を締めくくるのに一役買って出た演出だった。

 

今作の主題歌を飾ったのは「クリープハイプ」というバンドの

「百八円の恋」という楽曲であり、

同バンドのフロントマンである「尾崎世界観」は、

今作のシナリオを読み、今作のために楽曲を書き下ろした。

 

曲の歌い出しは、

「もうすぐこの映画も終わる」

このフレーズが言葉通りのラストに合わさるように流れ、

映画のタイトルロゴが前面に表示される。