本記事は、映画「NOPE/ノープ」のネタバレを含んだ、感想と考察記事です。
鑑賞したことが無い方は、注意して読み進めてください。
「NOPE/ノープ」
2022年、ジョーダン・ピール監督によって制作された作品。
未確認飛行物体を追う、牧場経営家族の物語。
上映時間は130分。
あらすじ
舞台はアメリカ、ヘイウッド家は牧場を営み、「馬」を主軸に育ててきた。
その馬は数々の映画やエンターテインメント作品に利用され、それで生計を立ててきた。
しかし、父の死後から経営は傾き始める…。
そんな最中、夜中になると牧場の馬が消えてしまう現象に遭遇する。
そして空には、何やら黒い影が…。
出演役者
本作の主人公OJを演じるのが「ダニエル・カルーヤ」
もう一人の主人公、OJの妹エメラルドを演じるのが「キキ・パーマ」
配信コンテンツ
「NOPE/ノープ」は今現在、Amazonプライム、U-NEXT、等で配信されている。
ネタバレ感想と考察
ジョーダン・ピール監督の「SF作品」は果たして…!?
2017年に「ゲット・アウト」、そして2019年に「アス」を放った奇才ジョーダン・ピール監督の3作目として本作は世に放たれた。
1作目、2作目は「黒人」を題材としたパニックホラーであったりが、今作は「SFサスペンス作品」となった。
しかし流石はピール監督、今作も出演役者はメインは全てが「黒人」であり、作品のテーマには「人種」も入り込んでくる作りとなっていた。
ちなみに今作の主演を務めるダニエル・カルーヤは、ピール監督のスマッシュヒット作「ゲット・アウト」でも主演を務めている。
この「ピール監督×SF」という組み合わせで起こる化学反応だけでも一見の価値はあるが、内容としては思ったよりも不可解で、賛否両論溢れる内容となった。
ここからはそんな「不可解な謎」について言及していきたい。
この「恐怖感」の正体とは…?
ピール監督が描く恐怖感はいつも恐ろしい内容であるが、今回はなんというか…「別の角度」から恐怖を煽られているような感覚に陥る。
その正体はやはり「Gジャン」の恐怖だろう。
この「Gジャン」の恐怖感、これを言葉にするならば「ダム穴恐怖症」の怖さに似たものを感じる。
波もない水面にぽっかりと空いた穴、そしてそこに吸い込まれる恐怖を意識してしまう。
そんな巨大なものが「空から高速でやってくる。」
そして「見てはいけない」というホラーの権化とも言える設定。
この「物理的恐怖感」こそが、これまでピール監督が描くことがなかった恐怖の形となった。
事実、インタビューでもピール監督はスティーブン・スピルバーグ監督の「ジョーズ」を例に挙げ、「海への恐怖を空でやりたい」とも述べている。
「何が潜んでいるかわからない」海の恐怖をそのまま空に投影した結果、「未確認飛行物体」になる形も納得できるものとなっていた。
未確認飛行物体「Gジャン」の正体とは?
「キャトルミューティレーション」
皆さんはこの言葉を聞いたことがあるだろうか?
これは1970年代、アメリカの家畜が惨殺された事件のことだ。
死体は不思議なことに臓物の一部が無くなり全身の血が抜かれる…という人間業では有り得ないような事件となる。
そしてその事件の前後、なんと上空では「未確認飛行物体」が観測されていた…というのだ。
本作の内容を見てみると真っ先にこの事件を思い出すが、今回はそんな「未確認飛行物体」の正体が物語の核となる。
正体はなんとUFOの形をした円盤型の「巨大生物」と考えていいだろう。
作中でOJが言及していた「船」ではなく、「船自身が生物だった…」というのが大きなオチの一つである。
そしてこの「巨大生物」は、何も「家畜」だけを襲う訳ではない。
なんと「人間」のことも襲うのだ。
極論、本作のやっていることは「謎の飛行物体をカメラに収める」という戦いが本筋となるが、これではこれまでの「エイリアン」などのSFパニックホラーと大差ない。
しかし本作はそこでは終わらない。
そんなにも「浅い映画」では無いということだ…。
作品のテーマは「見世物」にすると天罰が下る!?
映画の冒頭、旧約聖書の「ナホム書 第3章6節」が文章として出てくる。
内容はこうだ。
「わたしはあなたに汚物をかけ、あなたをはずかしめ、あなたを見せものとする。」
これは聖書の物語を要約し、整理すると「見世物にすると天罰が下る」という見解となる。
そこでこの作品を一から振り返ってみよう。
「見世物」にすることで天罰が下る人ばかりではなかっただろうか??
①馬を「見世物」として扱った撮影スタッフが馬に後ろ蹴りを喰らう。
②チンパンジーのゴーディを「見世物」として扱った役者がチンパンジーに殴打される凄惨な事件となる。
③「巨大生物」の捕食を「見世物」として扱ったジュピターズ・クレームのジュープとその観客が纏めて捕食される。
④「巨大生物」をカメラに収め、「見世物」にしようとしたOJ達が襲われる。
大きくわけてこの4つが大枠となる。
そして中でもチンパンジーの「ゴーディ」
これがなかなか面白い。
チンパンジーの事件は実際にあった事件!?
作中で登場するテーマパーク「ジュピターズ・クレーム」
このパーク長であるジュープは、過去に「あるトラウマ」を抱えていた。
それは彼がまだ子役だった頃、「ゴーディ家に帰る」というホームドラマに出演した時の話だ。
「ゴーディの誕生日」という回の撮影中、ゴーディはなんと一緒に出演した役者を殴打し重症を負わせる事件を起こす。
そしてジュープはそこに居合わせ、震えていた…という作中の事件だ。
実はこの事件、「実際に起こっている」のだ。
2009年、アメリカのドラマやCMで人気を博したチンパンジー「トラビス」が居た。
彼は人間と一緒に生活していたが、ある日飼い主の友達である女性の顔面を食いちぎり、顔と手に重症を負わせた。
そしてその後、現場に駆けつけた警官に射殺されることとなる…。
映画内ではこの実際の事件が元ネタであるとは言及されていないが、恐らくインスパイアされた部分もあるだろうと筆者は考えている…。
「最悪の奇跡」というキーワードについて。
「ピール監督と言えば伏線回収」…と言わんばかりの見事な伏線が彼自身の売りでもあるが、実は今作でもそんな伏線回収はいくつも存在する。
まずはパッケージの見出しにもある「最悪の奇跡」という言葉が鍵となってくる。
「最悪の奇跡」
これはOJが作中に放つ一言で、物語のキーワードと言ってもいい。
本作には実はこんな最悪の奇跡がいくつも存在しているのだ。
・冒頭の父の死。
映画の始まり、上空で起こった飛行機事故によって、父の頭には5セント硬貨が突き刺さり絶命するが、これが1つ目の「最悪の奇跡」である。
最も、この飛行機事故さえも「未確認飛行物体」の仕業なので、これも小さな伏線となっていた訳だ。
・ゴーディの靴が立っていた奇跡。
前述したチンパンジー「ゴーディ」の事件、その事件中、ゴーディの靴が立っている光景がある。
これは当時子役だったジュープが見た「最悪の奇跡」だった。
・「巨大生物」の来訪。
これは現実では起こりえない最大の「最悪の奇跡」として描かれた。
本作のタイトル「NOPE/ノープ」であるが、元々は「いいえ」の意味を持つ。
しかし英語のスラングで「ありえない!」の意味も持っていて、これは作品中でもエメラルドが発言している。
これもこれまでの「最悪の奇跡」に対して放った言葉と捉えることもできる。
モヤッとするSF作品では考えられないほどの「伏線回収」
そしてピール監督最大の武器、「綿密すぎる伏線回収」も本作では遺憾無く発揮されている。
それは映画の作品内の物語から実際の出来事などまで、全てが繋がる事象となる。
・父の頭に突き刺さるのは5セント硬貨だが、物語のラスト、エメラルドが写真を撮るために回す井戸型の記念撮影機も5セント硬貨で回る。
・映画冒頭、「世界初の映画」としてエドワード・マイブリッジが制作した「The Horse in Motion(動く馬)」という映画のシーンが流されるが、これの騎手の末裔がOJとエメラルドであり、映画産業そのものが「見世物」として展開されている。
・この「動く馬」というフィルム映画に用いられた「ズープラクシスコープ」という機械の造りが、「Gジャン」の捕食部に酷似している。
・作中のゴーディの事件において、幼少期のジュープと拳を突き合わせるようなシーンがあるが、これはスティーブン・スピルバーグのハリウッド作品「E.T」のオマージュ。
そして「未知との遭遇」という意味でもオマージュ。
・OJのテーマカラーは「オレンジ」、イニシャルは「オレンジ・ジュース」のアナグラムでもあり、妹のエメラルドが緑の服を着用しているのも宝石のエメラルドのオマージュ。
大きく挙げるとこんなところだろうか…。
ピール監督のことなので、これ以外にもたくさんの伏線が織り込まれていることだろうと思う。
彼の作品はいつでもハッとするオマージュや鳥肌の立つような伏線がたくさん入り交じる作品となる。
この先も彼の新作を楽しみにしつつ、2度目、3度目の鑑賞をあらゆる角度で楽しみたいものだ。