本記事では、
前半で、映画紹介&見どころレビュー
後半で、ネタバレ解説&徹底考察を行います。
「鍵泥棒のメソッド」
2012年、内田けんじ監督により制作された日本映画。
綿密な計画を立てる凄腕の殺し屋「コンドウ」と、
計画性皆無のフリーター「桜井」の織り成す物語。
上映時間は128分。
あらすじ
何事にも計画を立てて行動する出版社の編集長「水嶋香苗」は、
婚期を懸念し、新たに計画を立てた。
それは「目標の期日までに相手を見つけ結婚する」というものだった。
一方で凄腕の殺し屋「コンドウ」は「仕事」で受けた返り血を流すため、
銭湯へ向かう。
同時刻、売れない役者でありフリーターの「桜井武史」も、
たまたま財布の中にあったタダ券を使おうと、銭湯へ向かう。
桜井が、浴室で他人のシャンプーを使おうとした際、落下した石鹸により、
コンドウは滑って転び、記憶を無くしてしまう。
その際、桜井はコンドウのロッカーの「鍵泥棒」を働く。
荷物を丸々入れ替えた桜井はコンドウの車でさっそうと去っていく。
一方、記憶を無くしたコンドウは病院で水嶋と出会うのだった…。
出演役者
今作の主人公、桜井武史を演じるのが「堺雅人」
もう一人の主人公、コンドウを演じる「香川照之」
今作のヒロイン、水嶋香苗を演じるのが「広末涼子」である。
見どころ①「これぞ内田ワールド、コント仕掛けの脚本」
今作の脚本、監督を務めたのは、
まるでコントのような絶妙な作品を書くことで有名な、内田けんじである。
彼の織り成す作品では、いつも絶妙な伏線、仕掛け、トリックが作中に練り込まれ、
彼でしか描けないような作品に仕上がる。
そんな彼が今回仕掛けたのが「生活が入れ変わる」というものである。
計画性の無いフリーターと綿密な計画を立てる殺し屋の生活が入れ替わることにより、
一体どんなことが起きるのか…。
これぞ内田ワールド、期待を裏切らない作品である。
見どころ②「名キャスティング、三人の織り成す人間ドラマ」
今作では主人公は二人、「堺雅人」と「香川照之」である。
このキャスティングがよくできていて、
堺雅人独特の読めない表情と雰囲気、
そして香川照之の味である迫真の演技が織りなす演技は、
時にコミカルに、そして時にシリアスに物語の雰囲気を作り上げる。
また、ヒロインである広末涼子のしっかりしているが
どこか抜けているようなキャラクターも相まって、
更に物語の雰囲気が変化していく。
そんな脚本によくマッチする各役者の演技も大きな見どころであるだろう。
配信コンテンツ
「鍵泥棒のメソッド」は今現在、
Amazonプライム、NETFLIX、U-NEXT、等で配信されている。
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※ここからネタバレあらすじ
何事にも計画を立てて行動する出版社の編集長「水嶋香苗」は、
婚期を懸念し、新たに計画を立てた。
それは「目標の期日までに相手を見つけ結婚する」というものだった。
一方で凄腕の殺し屋「コンドウ」は「仕事」で受けた返り血を流すため、
銭湯へ向かう。
同時刻、とあるアパートの一室には、売れない役者でありフリーターの「桜井武史」がいた。
彼は自殺しようとしていたが、死ぬことができず、
たまたま財布の中にあったタダ券を使おうと、銭湯へ向かう。
桜井が、浴室で他人のシャンプーを使おうとした際、落下した石鹸により、
コンドウは滑って転び、記憶を無くしてしまう。
その際、桜井はコンドウのロッカーの「鍵泥棒」を働く。
自分とコンドウの荷物を丸々入れ替えた桜井は、コンドウの車でさっそうと去っていく。
病院で目が覚めたコンドウは、頭を打った衝撃でなんと記憶を失っていた。
桜井はと言うと、コンドウが何者かもわからぬまま、車を走らせていた。
大金持ち気分を味わう桜井は、とりあえず、友達に借りていたお金を返して回る。
当時の彼女にまで借金をしていた桜井は、元カノの会いに行き、お金を返す。
身辺整理として、自身の荷物を預かるが、中には彼女との思い出の写真も入っていた。
車内で一通り感傷に浸ると、写真を放り投げて走り去る。
その後、荷物を返そうとコンドウの入院する病院へ赴いた桜井、
コンドウのベッドに彼の荷物を置くが、そこで彼の記憶が無いことを知るのだった。
結局言い出すことができず、荷物を持ち帰ってしまう桜井だった。
一方で、編集長の水嶋も父の見舞いに、同じ病院へ来ていた。
いつ死ぬかわからないから、死ぬ前に香苗の結婚式が見たいと語る父に、
早期の結婚を決心するのだった。
記憶を探るコンドウは、着ていた衣類のポケットの中から桜井の「納税通知書」を発見する。
病院を出て、その住所に向かうべく、病院の前に立っていたところで、水嶋と出会う。
彼女に事情を話し、病院まで送ってもらう。
荒れ果てた部屋に、落胆を隠せないコンドウであったが、
記憶が無いため、自分の部屋だと思い込む。
少しでも情報が欲しいコンドウは、アパートの住人に自分について聞き込みを始めるが、
知っている人は居なかった。
桜井はコンドウのマンションに入り、その物騒な道具に不信感を覚える。
コンドウの電話が鳴り、出てみると、500万円のギャラの支払い方法を決める電話だった。
当てがない桜井は、自宅のアパートの郵便受けを指定する。
コンドウは、自分(桜井)が役者であったことを知り、エキストラのアルバイトをしていた。
アパートに帰ると、郵便受けを見にきた桜井とばったり遭遇する。
コンドウは桜井を銭湯の事故を心配してくれている人だと思い込んでいた。
一緒に部屋に入り、話をしていると、
そこにコンドウを心配した水嶋も訪ねてくる。
二人がいる前でコンドウは「自分は死のうとしていたようだ」と、遺書を見せる。
自分の書いた遺書がまさか読まれるとは知らずに、焦って遺書を持ち去る桜井であった。
アパートの郵送受けの前で、桜井は怪しい人物と接触する。
自分のことをコンドウと思っているその人物はどう見ても犯罪組織の人間だった。
彼らに連れられ、向かった先は、ボスの場所。
ボスに会うと、新たな殺しの依頼をされてしまう。
記憶を無くしたコンドウは、記憶を集めるべく、ノートにこまめに自分についてメモり、
役者についての勉強も怠らず、
そうして生活する中で、徐々に水嶋との仲も深めていった。
桜井は、依頼された殺しの人物について色々と調べてみる。
今回の殺しの依頼は前回のコンドウが「仕事」をした人物の、
愛人となる女性であり、目的は彼女が持っているお金だった。
ある日、桜井はコンドウのアパートで、クッキー缶に入った大量の現金を見つける。
殺しをしたくなかった桜井は、愛人となる女性を逃がし、殺したことにするために、
この現金でマンションを借りる。
コンドウは相変わらず記憶は戻らず、
水嶋に結婚を前提とした付き合いを申し込まれ、これを喜んだが、
矢先、水嶋の父が亡くなってしまう。
父に花嫁姿を見せることができなかった水嶋は落胆したが、
コンドウの父の好きだった、クラシックのレコードを聴かせる。
なんとその曲は、記憶を無くす前に、コンドウも聴いていた曲だった。
全てを思い出したコンドウは、何も言わずにその場を去る。
愛人を逃がそうとしていたことがバレてしまった桜井は、
犯罪組織から全速力で逃げる。
マンションに戻ると、そこにはかつての記憶を取り戻したコンドウの姿があった。
ややこしい事態に巻き込まれていることを知ったコンドウは桜井と共に犯罪組織から逃げる。
そして桜井を殺す「フリ」をして事なきを得る計画を立てる。
コンドウの真の仕事は「殺し屋」ではなく「便利屋」だった。
彼の真の名前は「 山崎信一郎」で、殺し屋の「コンドウ」は存在しなかったのだった。
今までのターゲットは全て「殺し」に見せかけて逃がしたと語る山崎は、
「桜井を殺すフリ作戦」の綿密な計画を立てる。
役者としての練習を常日頃から行ってきた山崎は、桜井に死ぬときの演技指導をする。
かくして本番は訪れたが、山崎の跡をつけてきた水嶋の登場により、失敗に終わる。
三人は逃走することとなってしまった。
犯罪組織が欲しがっているのは「金」であるとわかっていた山崎は、
クッキー缶を開けるも、空っぽになっていることを知る。
そこに現れた犯罪組織に山崎は捕まってしまう。
山崎は「コンドウ」の部下と名乗り、
コンドウを殺す代わりに助けてもらう、という偽りの約束をする。
「コンドウが行きそうな場所に向かえ」と言われた山崎は、
盗聴器が仕掛けられたマンションに向かう。
そしてそのマンションには桜井と水嶋、そして愛人女性が居た。
盗聴器と見張りの下っ端の存在から、桜井は、犯罪組織がこのアパートに来ることを確信すし、
新たな計画を立てるのだった。
山崎と犯罪組織がマンションに到着すると、そこには「コンドウ」に扮した桜井が座っていた。
そして部屋には愛人女性の死体、そして水嶋扮する愛人の息子の死体。
桜井は「殺し屋コンドウ」を全力で演じるも、血糊の匂いから、演技であるとバレてしまう。
桜井と愛人を殺そうとする犯罪組織であったが、水嶋があることに気が付く。
この部屋にあるものはどれもがヴィンテージモノで総額で2億ほどのものがあることを指摘する。
水嶋はヴィンテージ品の週刊誌の編集長だったのだ。
これを条件に全員は解放してもらう。
外に出ると山崎は警察を呼ぶ、そしてマンションを立ち去る。
最後に山崎は悪くない演技だったと、桜井を褒める。
水嶋は一人、安全である自分の車に戻される。
そこには記憶なき時の山崎の記したノートが置いてあった。
中を見てみると、記憶を探る為、欲しいモノや好きなモノなどの、
色々なデータが詳細にまとめてある。
その「好きなモノ」の項目には「水嶋香苗」の名前だけが載っていた。
そこに山崎が戻ってくる。そして二人は抱き合う。
ネタバレ徹底考察
コメディ?サスペンス?あらゆるジャンルが組み合わさった新感覚映画
内田けんじ監督の作品はこの作品に関わらず、いつでもこのような作風が多い。
それは「ジャンルがわからない」こと。
今作では、サスペンスのような要素にコメディが合わさり、
ジャンルを問われてもわからないような作品に仕上がっている。
物語が始まって序盤に人を殺すような描写があり、
気が付けばその殺し屋が、銭湯であり得ないようなド派手な転倒を起こす。
そこでギャグ映画?と予測していれば、そこからは予測できないような、
伏線回収の嵐。
その「からくり時計」のような彼の脚本は、いつでも映画界に新風を巻き起こしてきた。
上記で映画のネタバレあらすじを書いたが、
文字だけでは理解が難しいような難解な脚本が内田けんじ監督の特色だろう。
難解であるにも関わらず、鑑賞してみると、
自分も映画の登場人物の一人であるかのように、展開が楽しむことができる。
そんな難解でありつつもわかりやすい脚本が本作の魅力であり、
内田けんじ監督の真骨頂であるだろう。
彼の作品のもう一本にも「堺雅人」が出演している、
「アフタースクール」という映画がある。
そちらも今作同様、内田けんじワールドが全開の作品なので鑑賞してみるといいだろう。
余談ではあるが、今作の「鍵泥棒のメソッド」でも、
こちらの「アフタースクール」でも、
堺雅人が演じるキャラクターが車内で喫煙しているところを注意される描写がある。
これは内田監督のオマージュだろうか…真実は謎である。
秀逸なキャスティングこそ映画のトリックである
本作の映画が難解でありながらもわかりやすい理由、
それは役者のキャスティングと演技力にあるだろう。
今作では堺雅人と香川照之のW主演で描かれた作品であるが、
よくよく観ていると彼らの演技がいかにすごいかがよくわかる。
かなりのやり手でありながらミステリアスなキャラクターを演じる香川照之であるが、
どこか抜けた、ぼーっとしているような堺雅人に一杯食わされ、
ひっかきまわされるキャラクターとして彼は見事に演じ切っている。
そして堺雅人もまた、それに負けじと、
いつも何かをやらかすのにどこか憎めない、
そんなキャラクターにピッタリとハマった役者である。
印象的なのは終盤のシーン、堺雅人が「コンドウ」を演じ、
犯罪組織にハッタリをかますシーンがとてもよかった。
そのシーンで描かれたのはズバリ、
「役の中で役を演じている」という現象である。
堺雅人は「桜井」というキャラクターの中で、
さらに「コンドウ」を演じている。
その「わざとらしさ」の加減が絶妙すぎて思わず笑ってしまったのは、
ぼくだけではないだろう。
なんにせよ、二人の演技がすごすぎるおかげで、
ヒロインを演じた名優、広末涼子のキャラクターが霞んでしまうくらいには、
濃いキャラクターを演じた二人だっただろう。
ちなみに香川照之の演技が今作よりも冴えわたったと感じた作品が、
こちらの「ゆれる」という作品である。
「香川照之の演技力」に魅せられた人は必見の作品だろう。